2009年 06月 09日
ザ・スタンド
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シニーズ探訪の五。
スティーヴン・キング原作、1994年の作品です。
一言で言えば……長い……(>_<)。
だって360分もあるんですもん。360分と言えば6時間であります、サー(>_<)。
や、もちろん、劇場用の映画じゃないです。テレビのミニシリーズです。だれも一気に観ろだなんて言ってないダロ、という時間設定です。ソレハソウナンダケド(汗)。
アメリカ軍が細菌兵器として開発した強化型風邪ウィルス。感染率99.9%に及ぶ、スーパーフルーと呼ばれるこの病原菌が、ちょっとした手違いから研究所の外部に漏れ、パンデミックを引き起こす。政府は、爆発感染が始まった田舎町を封鎖し、住民を強制収用して被害を食い止めようとするが、時すでに遅く、感染はあっという間にアメリカ全土に広がってしまった。しかしそんな中で、ゲイリー・シニーズを初めとした、ウィルスに感染しない免疫所有者が存在したのだった。
というイントロ部分は、大変面白いです。特に、パンデミックの初期において、全くの偶然ながら、ウィルスの正体は「豚インフルエンザ」である、と称されていたりするので、2009年の今観ると臨場感がちがいます。
ところがこの映画、いかにしてパンデミックを食い止めるのか、を主眼としたメディカル・サスペンスでもなければ、こんなとんでもない化け物を全国に放ってしまった政府と対決するポリティカル・サスペンスでもありません。
すべては神のご意志による神のご計画でありました、というどう転んでも絶対面白いストーリーにはなりようのないプロットが隠されていたのでした。
というわけで、非感染者(なぜか免疫を持っていた人々)が、神の声に導かれてコロラド州ボールダーに集まるひとびとと、悪魔の声に導かれてラスベガス(笑)に集まるひとびとの二手に別れ、しかるのち、ふたつの勢力が壮絶な善悪対立の闘いを繰り広げる! というほどのこともなく、神のご意志によってなんとなく悪は滅ぼされ、次々と仲間が倒れる絶体絶命っぽい状況の中で、なぜか主人公とその家族だけが助かり、人類にはもう希望はないのか、いいえ、わたしたちのこの赤ん坊こそが希望なのよ、という投げやりな台詞でラストを迎える、そういうお話であります。
キングの原作は未読ですが、このドラマは原作を忠実に再現したものであるらしいです。その点、原作ファンの評判は悪くないようですが、ドラマ単体として見れば、原作に出てくるエピソードを一々映像化し、エピソードの数をこなした分、個々のエピソードの精度が落ちている印象です。
大勢出てくるキャラクターも、ただ単に並列に出てくるだけで、それぞれが有機的にからみあうことがほとんどない。あちこちに友情や愛情や憎悪や反発が芽生えているようではあるけれど、いずれも描写がステレオタイプで感動には繋がりません。
「神のご意志」が出てくる前の部分は、ウィルス開発の責任者であった軍人のエド・ハリスや、敢然と政府の陰謀を暴こうとしたラジオ・ジャーナリストのキャシィ・ベイツなど、キャストにも重みがあってドラマにも緊迫感がありました。
が、神様が出てきてからは、物語としてはただひたすら退屈です。
神と悪とが対立するとかいう退屈な話なら話で、いっそきっちり対決してみせればいいものを、神勢力と悪勢力の全面戦争に突入するでもなく、ゴッドハンドがなんとなく有耶無耶に事態を終息させてしまうという話の進め方は、最後まできたところで作者が物語りに飽きたとしか思えません。第一、悪役がしょぼすぎますので。それはもう、びっくりするほどしょぼいですので。神様ともあろうお方が、こんなしょぼい悪にてこずるはずはないので、ネコがネズミを弄ぶがごとく、ゲームをお楽しみでいらしたのでしょう。それもまた神のご意志です。
あまりに長くて辛かったので文句タラタラですが、忘れちゃいけない、このレビューの眼目はゲイリー・シニーズ。シニーズに限って見てみれば、なかなかに楽しい映画でありました(笑)。
劇中、「perfect American male」と称されるシニーズ。
知力体力共にすぐれ、冷静な判断力と行動する勇気を持ち、神を信じる信仰心と、国家を愛する愛国心を併せ持った男。妻を愛し、子どもの誕生を心から願う男。もちろんバーベキューははずせないシニーズ。だけどフットボールはやるチャンスがなかったシニーズ。
少し長めに整えた髪は、控えめなカーリーくん。もしかしてシニーズって、くせっ毛さんなのかしら。伸ばすとLotRのファラミアみたいなウェービーヘアーになるんでしょうか。
シニーズは、最初に封鎖された町に暮らす労働者? なのかしら、かれの職業が一体何であったのか、結局言及されなかったように思うのですが。途中で、怪我人に外科手術を施そうとしてたりもするんだけど、なんだかお医者さんではなさそうだし。
強制的に連行され、病院に隔離され、実験体として非人道的な扱いを受けるシニーズ。観察病棟に閉じ込められたシニーズは、ジャージに裸足姿です。ぺたぺた偏平足っぽく歩きます♪
異常事態にも、常に冷静さを失わなかったシニーズも、感染が広まり、病院までもが壊滅したことを知ったとき、純粋な恐怖におののくのです。タフな男を演じることの多いシニーズが、本気で怯えている様子なんて、そうざらには見られるものではありません。しかも、リピート・アフター・ミー、病棟シーンでのシニーズは、ジャージに裸足姿です。
しかし、さすがシニーズ、いつまでも怯えちゃおりません。夢による神のお導きによってボールダーを目指す旅に出るシニーズは、サングラス&マシンガン&革ジャン&バイクのワイルド仕様。そりゃもうかっこいいです。
えーと、そして、色々あって、ついに辿り着いた運命の町ボールダー。神の意志に導かれた免疫保有者たちは、この地をフリーゾーンと称し、コミュニティを形成します。神のご意志によって、統治委員会のメンバーに選ばれたシニーズ、ほかの委員と相談の上、ラスベガスに巣くう悪との闘いを開始します。
まずは、ラスベガスの状況をさぐるため、スパイを送り込もう、という相談です。しかしこの任務は危険きわまりない。行けば恐らく戻って来られないワン・ウェイ・トリップ。神様に町を任された自分たち委員が行くわけにはいかないので、だれか他人を行かせなければなりません。自分はバックレ、他人を行かせる。これは辛い決断です。
敵に気取られないように、知恵遅れのトムや、老齢の判事や、若い女性のデイナを行かせるなんて、あまりに非人道的だ、と委員のラリーが怯むと、必死に罪悪感と戦っているシニーズも切れる。そうとも、おれたちは、死ぬ人間を選んでいるんだ。それがいやなら委員なんかやめて、ここから出て行け! 一瞬流れる気まずい雰囲気。しかしそこで、ラリーの一言。
「あんた、怒ると、かわいいな」
シニーズはうっと言葉につまり、場の空気がなごみ、話は一気に解決、の名台詞です。
「あんた、怒ると、かわいいな」
ね? 名台詞でしょ? マック・テイラーが雷を落としている最中に、ダニー・メッサーがぽつりとつぶやいたりしたら爆笑ですね。
かくして、危険任務は逃れたはずの委員会ですが、やはりここでも神のご意志により、ラスベガスに向けて旅立つことに。しかも、水も食料も持たず着のみ着のまま旅立てとのお達し。ものすごい試練、という感じが一瞬しますが、水すら持たない砂漠の道行も、描写が粗いのでサクサクと難なく進んでいき、別にどうということもありません。
ここで、ラスベガスに到着して神のご意志に殉職する仲間たちの活躍を、「見極め語りづぐ」任務を担わされたシニーズは、みなと一緒に行けなくなる必要があり、そのため足の骨を折る怪我をします。このシーンがちょっと悲しいです。
鉄砲水で流されたハイウェイ。強引に乗り越えようとしたシニーズらご一行。崖から転落して足を折るシニーズ。という流れではあるのですが、どうもこのロケーションがしょぼく、わたしでも越えられそう、と思えてしまうです。こんなとこから転げ落ちるシニーズって(>_<)。
たぶん、ほんとに道路が陥没している場所があって、撮影にピッタリ! とロケハン隊が喜んだのも束の間、確かに道は途切れているけど、ちっとも危険そうに見えない場所だったのが残念、ということだったんじゃないかと推測しております。
この後、免疫があるはずだったのに、神のご意志により、視聴者がすっかり忘れ果てていたスーパーフルーに感染したシニーズは、同じく神のご意志により、生きては帰れないはずのスパイ任務に出ていた知恵遅れのトムに救出され、神のご意志により、その辺の薬局にあった市販薬で一命をとりとめます。
一方、シニーズ以外の3人のコミッティメンバーや、その前にスパイに出た判事や若い女性は、確かに命を賭しはしたけれど、だからってそれで事態がどうかなったわけでもなく、わざわざ出掛けていかなきゃ、結局何事もなかったんじゃあ、という根源的疑惑をぬぐいきれません。
や、確かに、何もせず座して待つだけの者には、神は何も与えてくださらない、とかそういうメッセージかとは思われますが、なにしろその神様がおやりになっていらっさることが基本的にゲームとしか思えませんので、なにもそんなイケズなことを言わなくてもいいのに、と思ってしまう。
結局、なんだかなぁ、とわりきれない思いを胸に、なんとなく置き去りにされてしまった感をひしひしと感じる6時間でした。
スティーヴン・キング原作、1994年の作品です。
一言で言えば……長い……(>_<)。
だって360分もあるんですもん。360分と言えば6時間であります、サー(>_<)。
や、もちろん、劇場用の映画じゃないです。テレビのミニシリーズです。だれも一気に観ろだなんて言ってないダロ、という時間設定です。ソレハソウナンダケド(汗)。
アメリカ軍が細菌兵器として開発した強化型風邪ウィルス。感染率99.9%に及ぶ、スーパーフルーと呼ばれるこの病原菌が、ちょっとした手違いから研究所の外部に漏れ、パンデミックを引き起こす。政府は、爆発感染が始まった田舎町を封鎖し、住民を強制収用して被害を食い止めようとするが、時すでに遅く、感染はあっという間にアメリカ全土に広がってしまった。しかしそんな中で、ゲイリー・シニーズを初めとした、ウィルスに感染しない免疫所有者が存在したのだった。
というイントロ部分は、大変面白いです。特に、パンデミックの初期において、全くの偶然ながら、ウィルスの正体は「豚インフルエンザ」である、と称されていたりするので、2009年の今観ると臨場感がちがいます。
ところがこの映画、いかにしてパンデミックを食い止めるのか、を主眼としたメディカル・サスペンスでもなければ、こんなとんでもない化け物を全国に放ってしまった政府と対決するポリティカル・サスペンスでもありません。
すべては神のご意志による神のご計画でありました、というどう転んでも絶対面白いストーリーにはなりようのないプロットが隠されていたのでした。
というわけで、非感染者(なぜか免疫を持っていた人々)が、神の声に導かれてコロラド州ボールダーに集まるひとびとと、悪魔の声に導かれてラスベガス(笑)に集まるひとびとの二手に別れ、しかるのち、ふたつの勢力が壮絶な善悪対立の闘いを繰り広げる! というほどのこともなく、神のご意志によってなんとなく悪は滅ぼされ、次々と仲間が倒れる絶体絶命っぽい状況の中で、なぜか主人公とその家族だけが助かり、人類にはもう希望はないのか、いいえ、わたしたちのこの赤ん坊こそが希望なのよ、という投げやりな台詞でラストを迎える、そういうお話であります。
キングの原作は未読ですが、このドラマは原作を忠実に再現したものであるらしいです。その点、原作ファンの評判は悪くないようですが、ドラマ単体として見れば、原作に出てくるエピソードを一々映像化し、エピソードの数をこなした分、個々のエピソードの精度が落ちている印象です。
大勢出てくるキャラクターも、ただ単に並列に出てくるだけで、それぞれが有機的にからみあうことがほとんどない。あちこちに友情や愛情や憎悪や反発が芽生えているようではあるけれど、いずれも描写がステレオタイプで感動には繋がりません。
「神のご意志」が出てくる前の部分は、ウィルス開発の責任者であった軍人のエド・ハリスや、敢然と政府の陰謀を暴こうとしたラジオ・ジャーナリストのキャシィ・ベイツなど、キャストにも重みがあってドラマにも緊迫感がありました。
が、神様が出てきてからは、物語としてはただひたすら退屈です。
神と悪とが対立するとかいう退屈な話なら話で、いっそきっちり対決してみせればいいものを、神勢力と悪勢力の全面戦争に突入するでもなく、ゴッドハンドがなんとなく有耶無耶に事態を終息させてしまうという話の進め方は、最後まできたところで作者が物語りに飽きたとしか思えません。第一、悪役がしょぼすぎますので。それはもう、びっくりするほどしょぼいですので。神様ともあろうお方が、こんなしょぼい悪にてこずるはずはないので、ネコがネズミを弄ぶがごとく、ゲームをお楽しみでいらしたのでしょう。それもまた神のご意志です。
あまりに長くて辛かったので文句タラタラですが、忘れちゃいけない、このレビューの眼目はゲイリー・シニーズ。シニーズに限って見てみれば、なかなかに楽しい映画でありました(笑)。
劇中、「perfect American male」と称されるシニーズ。
知力体力共にすぐれ、冷静な判断力と行動する勇気を持ち、神を信じる信仰心と、国家を愛する愛国心を併せ持った男。妻を愛し、子どもの誕生を心から願う男。もちろんバーベキューははずせないシニーズ。だけどフットボールはやるチャンスがなかったシニーズ。
少し長めに整えた髪は、控えめなカーリーくん。もしかしてシニーズって、くせっ毛さんなのかしら。伸ばすとLotRのファラミアみたいなウェービーヘアーになるんでしょうか。
シニーズは、最初に封鎖された町に暮らす労働者? なのかしら、かれの職業が一体何であったのか、結局言及されなかったように思うのですが。途中で、怪我人に外科手術を施そうとしてたりもするんだけど、なんだかお医者さんではなさそうだし。
強制的に連行され、病院に隔離され、実験体として非人道的な扱いを受けるシニーズ。観察病棟に閉じ込められたシニーズは、ジャージに裸足姿です。ぺたぺた偏平足っぽく歩きます♪
異常事態にも、常に冷静さを失わなかったシニーズも、感染が広まり、病院までもが壊滅したことを知ったとき、純粋な恐怖におののくのです。タフな男を演じることの多いシニーズが、本気で怯えている様子なんて、そうざらには見られるものではありません。しかも、リピート・アフター・ミー、病棟シーンでのシニーズは、ジャージに裸足姿です。
しかし、さすがシニーズ、いつまでも怯えちゃおりません。夢による神のお導きによってボールダーを目指す旅に出るシニーズは、サングラス&マシンガン&革ジャン&バイクのワイルド仕様。そりゃもうかっこいいです。
えーと、そして、色々あって、ついに辿り着いた運命の町ボールダー。神の意志に導かれた免疫保有者たちは、この地をフリーゾーンと称し、コミュニティを形成します。神のご意志によって、統治委員会のメンバーに選ばれたシニーズ、ほかの委員と相談の上、ラスベガスに巣くう悪との闘いを開始します。
まずは、ラスベガスの状況をさぐるため、スパイを送り込もう、という相談です。しかしこの任務は危険きわまりない。行けば恐らく戻って来られないワン・ウェイ・トリップ。神様に町を任された自分たち委員が行くわけにはいかないので、だれか他人を行かせなければなりません。自分はバックレ、他人を行かせる。これは辛い決断です。
敵に気取られないように、知恵遅れのトムや、老齢の判事や、若い女性のデイナを行かせるなんて、あまりに非人道的だ、と委員のラリーが怯むと、必死に罪悪感と戦っているシニーズも切れる。そうとも、おれたちは、死ぬ人間を選んでいるんだ。それがいやなら委員なんかやめて、ここから出て行け! 一瞬流れる気まずい雰囲気。しかしそこで、ラリーの一言。
「あんた、怒ると、かわいいな」
シニーズはうっと言葉につまり、場の空気がなごみ、話は一気に解決、の名台詞です。
「あんた、怒ると、かわいいな」
ね? 名台詞でしょ? マック・テイラーが雷を落としている最中に、ダニー・メッサーがぽつりとつぶやいたりしたら爆笑ですね。
かくして、危険任務は逃れたはずの委員会ですが、やはりここでも神のご意志により、ラスベガスに向けて旅立つことに。しかも、水も食料も持たず着のみ着のまま旅立てとのお達し。ものすごい試練、という感じが一瞬しますが、水すら持たない砂漠の道行も、描写が粗いのでサクサクと難なく進んでいき、別にどうということもありません。
ここで、ラスベガスに到着して神のご意志に殉職する仲間たちの活躍を、「見極め語りづぐ」任務を担わされたシニーズは、みなと一緒に行けなくなる必要があり、そのため足の骨を折る怪我をします。このシーンがちょっと悲しいです。
鉄砲水で流されたハイウェイ。強引に乗り越えようとしたシニーズらご一行。崖から転落して足を折るシニーズ。という流れではあるのですが、どうもこのロケーションがしょぼく、わたしでも越えられそう、と思えてしまうです。こんなとこから転げ落ちるシニーズって(>_<)。
たぶん、ほんとに道路が陥没している場所があって、撮影にピッタリ! とロケハン隊が喜んだのも束の間、確かに道は途切れているけど、ちっとも危険そうに見えない場所だったのが残念、ということだったんじゃないかと推測しております。
この後、免疫があるはずだったのに、神のご意志により、視聴者がすっかり忘れ果てていたスーパーフルーに感染したシニーズは、同じく神のご意志により、生きては帰れないはずのスパイ任務に出ていた知恵遅れのトムに救出され、神のご意志により、その辺の薬局にあった市販薬で一命をとりとめます。
一方、シニーズ以外の3人のコミッティメンバーや、その前にスパイに出た判事や若い女性は、確かに命を賭しはしたけれど、だからってそれで事態がどうかなったわけでもなく、わざわざ出掛けていかなきゃ、結局何事もなかったんじゃあ、という根源的疑惑をぬぐいきれません。
や、確かに、何もせず座して待つだけの者には、神は何も与えてくださらない、とかそういうメッセージかとは思われますが、なにしろその神様がおやりになっていらっさることが基本的にゲームとしか思えませんので、なにもそんなイケズなことを言わなくてもいいのに、と思ってしまう。
結局、なんだかなぁ、とわりきれない思いを胸に、なんとなく置き去りにされてしまった感をひしひしと感じる6時間でした。
by shirakian
| 2009-06-09 21:43
| 映画さ行