2008年 02月 07日
アメリカン・ギャングスター
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「観終わるのが惜しい」という体験をしました。
や、ちょっと違うかな、とても面白い本を読んでいる時、残りページを確認して、まだまだたっぷりあることを知って思わずニンマリする時のあの感じです。「まだ残りがたっぷりあるのが嬉しい」、という体験です。映画でこんなの、珍しい。
映画って、ほんとにのめり込んで観ている時は時間というものを意識しないものだし、長さを感じる時って、結構ネガティブな気持ちがあるものです。
なのにこの映画、157分という長尺であることが、ワクワクするほど嬉しくさせてくれるのですから、ほんと、珍しい。
それってつまり、全てのシーンが「必然」だからです。必要なシーンは観たいシーンです。観たいシーンがたくさんあるから、残りの時間にも期待感が持続するのです。
テンポよく次々とイベントが起こり、あっという間に時間が流れていくのとはまた別の面白さです。リドリー・スコット監督は決して先を急がない。必要なシーンを必要なテンポでじっくりと描いていってくれるので、観客は物語の展開を一つ一つ自分の中に積み上げて行く作業ができる。積み上げていく過程が納得できるだけに、積み上げて行った先に納得できる物語が待っていることがわかっている。
だから、「まだ残りがたっぷりあるのが嬉しい」と思ってしまうのです。
リドリー・スコット監督って、すごい。至福の体験をさせてもらえました。
でもね、劇場に足を運んだ時は、「普通のハリウッド大作」を観るような気持ちでした。このメンツでガッカリはないだろうけど、それほど期待もしてない気持ち。強いて言えば、デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウの二大スターの激突! ということから、同じくアル・パチーノとロバート・デ・ニーロの二大スターが激突した『ヒート』を連想して、あの映画くらい面白かったらいいな、って思ってた(マイケル・マン監督も、『ヒート』も、大好きなので)。
観終わって思うことは、デンゼル・ワシントンは『トレーニング・デイ』でオスカーがもらえたのなら、この映画ではオスカーを三つぐらいもらってもおかしくないよね、ということです。かれの代表作を言うなら、もはや『トレーニング・デイ』ではないです。この映画です。二大スターの激突! と言いながら、この映画の主役は、一歩退いた演技をしているラッセルではなく、圧倒的にデンゼルの方である、と思われる。
ところがどっこい、物語の主眼はそれでもラッセル、つまりNYPDの方にあるのです。それが後半30分の流れでどっと鮮明になる。こんなに個性の違う、それぞれに凛々しいヒーローが似合うふたりのスターを使い、どちらか一方に偏らず、二人を共に生かして使い切ってしまうリドリー・スコット監督って、すごい。
片やイタリアン・マフィアが100年かかってもなしとげられなかった事――――産地直送(笑)のドラッグを仲介者を通さず直取引することにより「良心的な製品をリーズナブルな価格で提供する」巨大ビジネスを築き上げた「黒人の」ギャングスター。
片や警察機構の中で延々と累積されていった腐敗を一掃させたはみだし刑事純情派。
共に型破りなふたりが、二時間半の映画の中で二時間が経過するまで出会うこともないのです。しかも出会うその時まで、デンゼルの方はラッセルの存在すら知らない。
このことから生じるものすごい緊張感。これが観客のワクワク感をグイグイと牽引していく原動力になっているから不思議です。だって普通なら、ふたりの「対決」をこそ見せたいだろうし、だったら、ふたりの「出会い」はできるだけ早い時間にもってくるのが定石でしょう。こんなの、演出力によほどの自信がなければできることじゃないです。やっぱりリドリー・スコット監督って、すごい。
そんで、最初にラッセルがデンゼルと遭遇する舞台が、アリの試合会場だっていうのもうまいですね。時代背景をうまく使って、絵的にもとても面白いシーンになっています。
二人が出会ってからの展開は、この映画が単純な「デンゼルVSラッセル」という構図であったら得られないはずの、思いがけないカタルシスをもたらしてくれるものです。
なるほどこの30分のための二時間であったか、とポンと膝を叩きたくなるような見事な締めくくりです。取調室で向き合う二人の名優のシーンは、すばらしいの一言。
一つだけ、たった一つだけ残念に思えたのは、「チームもの」好きの白木庵の単なるないものねだりの贅沢なのですが、ラッセルが任された個人捜査チームの、個々のメンバーのキャラクターがあんまり立っていなかったことです。
NYの麻薬捜査官の四分の三が汚職に手に染めるような環境で、決して賄賂に屈することのないメンツを集めたチームです。かれらは、それぞれに強烈な個性をもった面白い男たちであったに違いないし、それぞれに適材適所的特技や得意な捜査方法などもあったでしょうから、それをもうちょっとクッキリと際だたせてくれたら、捜査のシーンにさらなるワクワク感が生じたでしょうに、その辺は結構サラリと流されちゃった感じで、ちょっと残念だったのでした。
ところでこのレビュー、こんな短い文章で、3回も「ワクワク」って言葉を使ってますよ。よっぽどワクワクしたらしいです。
や、ちょっと違うかな、とても面白い本を読んでいる時、残りページを確認して、まだまだたっぷりあることを知って思わずニンマリする時のあの感じです。「まだ残りがたっぷりあるのが嬉しい」、という体験です。映画でこんなの、珍しい。
映画って、ほんとにのめり込んで観ている時は時間というものを意識しないものだし、長さを感じる時って、結構ネガティブな気持ちがあるものです。
なのにこの映画、157分という長尺であることが、ワクワクするほど嬉しくさせてくれるのですから、ほんと、珍しい。
それってつまり、全てのシーンが「必然」だからです。必要なシーンは観たいシーンです。観たいシーンがたくさんあるから、残りの時間にも期待感が持続するのです。
テンポよく次々とイベントが起こり、あっという間に時間が流れていくのとはまた別の面白さです。リドリー・スコット監督は決して先を急がない。必要なシーンを必要なテンポでじっくりと描いていってくれるので、観客は物語の展開を一つ一つ自分の中に積み上げて行く作業ができる。積み上げていく過程が納得できるだけに、積み上げて行った先に納得できる物語が待っていることがわかっている。
だから、「まだ残りがたっぷりあるのが嬉しい」と思ってしまうのです。
リドリー・スコット監督って、すごい。至福の体験をさせてもらえました。
でもね、劇場に足を運んだ時は、「普通のハリウッド大作」を観るような気持ちでした。このメンツでガッカリはないだろうけど、それほど期待もしてない気持ち。強いて言えば、デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウの二大スターの激突! ということから、同じくアル・パチーノとロバート・デ・ニーロの二大スターが激突した『ヒート』を連想して、あの映画くらい面白かったらいいな、って思ってた(マイケル・マン監督も、『ヒート』も、大好きなので)。
観終わって思うことは、デンゼル・ワシントンは『トレーニング・デイ』でオスカーがもらえたのなら、この映画ではオスカーを三つぐらいもらってもおかしくないよね、ということです。かれの代表作を言うなら、もはや『トレーニング・デイ』ではないです。この映画です。二大スターの激突! と言いながら、この映画の主役は、一歩退いた演技をしているラッセルではなく、圧倒的にデンゼルの方である、と思われる。
ところがどっこい、物語の主眼はそれでもラッセル、つまりNYPDの方にあるのです。それが後半30分の流れでどっと鮮明になる。こんなに個性の違う、それぞれに凛々しいヒーローが似合うふたりのスターを使い、どちらか一方に偏らず、二人を共に生かして使い切ってしまうリドリー・スコット監督って、すごい。
片やイタリアン・マフィアが100年かかってもなしとげられなかった事――――産地直送(笑)のドラッグを仲介者を通さず直取引することにより「良心的な製品をリーズナブルな価格で提供する」巨大ビジネスを築き上げた「黒人の」ギャングスター。
片や警察機構の中で延々と累積されていった腐敗を一掃させたはみだし刑事純情派。
共に型破りなふたりが、二時間半の映画の中で二時間が経過するまで出会うこともないのです。しかも出会うその時まで、デンゼルの方はラッセルの存在すら知らない。
このことから生じるものすごい緊張感。これが観客のワクワク感をグイグイと牽引していく原動力になっているから不思議です。だって普通なら、ふたりの「対決」をこそ見せたいだろうし、だったら、ふたりの「出会い」はできるだけ早い時間にもってくるのが定石でしょう。こんなの、演出力によほどの自信がなければできることじゃないです。やっぱりリドリー・スコット監督って、すごい。
そんで、最初にラッセルがデンゼルと遭遇する舞台が、アリの試合会場だっていうのもうまいですね。時代背景をうまく使って、絵的にもとても面白いシーンになっています。
二人が出会ってからの展開は、この映画が単純な「デンゼルVSラッセル」という構図であったら得られないはずの、思いがけないカタルシスをもたらしてくれるものです。
なるほどこの30分のための二時間であったか、とポンと膝を叩きたくなるような見事な締めくくりです。取調室で向き合う二人の名優のシーンは、すばらしいの一言。
一つだけ、たった一つだけ残念に思えたのは、「チームもの」好きの白木庵の単なるないものねだりの贅沢なのですが、ラッセルが任された個人捜査チームの、個々のメンバーのキャラクターがあんまり立っていなかったことです。
NYの麻薬捜査官の四分の三が汚職に手に染めるような環境で、決して賄賂に屈することのないメンツを集めたチームです。かれらは、それぞれに強烈な個性をもった面白い男たちであったに違いないし、それぞれに適材適所的特技や得意な捜査方法などもあったでしょうから、それをもうちょっとクッキリと際だたせてくれたら、捜査のシーンにさらなるワクワク感が生じたでしょうに、その辺は結構サラリと流されちゃった感じで、ちょっと残念だったのでした。
ところでこのレビュー、こんな短い文章で、3回も「ワクワク」って言葉を使ってますよ。よっぽどワクワクしたらしいです。
by shirakian
| 2008-02-07 22:41
| 映画あ行