2012年 02月 22日
TIME/タイム
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★ネタバレ注意★
『ガタカ』のアンドリュー・ニコル監督作品。
ジャスティン・ティンバーレイク&アマンダ・セイフライド。
近未来、全ての人間は25歳を境に肉体的には年をとらなくなった。死亡までの残り時間は、所有財産として扱われ、残高がある間はいつまでも死ぬことはないが、腕に刻まれたディスプレイの数字が0を刻んだ途端、問答無用で息絶えてしまう。「時間」は通貨として使われ、日々の賃金は時間で支払われ、家賃も交通費も食料品も時間で贖われるようになった。富める者は無限に生き続けることができる反面、貧しい者は日々死の恐怖に直面していた。
スラム育ちで、手元に一日以上の時間を持っていたためしのない(つまり、一日以上の余命があったためしのない)ウィル・サラス(ジャスティン・ティンバーレイク)は、ある日成り行きで暴徒の手から金持ちを助ける。その男、ヘンリー・ハミルトン(マット・ボマー)は、終わることのない人生に倦み疲れており、ウィルに100年単位の時間を譲渡して自殺する。
ヘンリーの口から、金持ちが永遠に生き続けることによる人口爆発を回避するために、貧困層は常に大量に死ぬことが望まれており、物価や税金を操作することによって、容赦なく不当に時間をむしりとる仕組みになっている、ということを知らされたウィルは、社会の不平等を正し、スラムの人々を日々直面する死の恐怖から救うべく、富裕層が暮らすエリアへ単身赴く。まるで別世界のような富裕層のエリアでウィルは、無難に生き続けることに倦怠を感じていた富豪の娘シルビア・ワイス(アマンダ・セイフライド)と出会う。
時間が通貨の変わりに使われる社会というユニークな設定は、ニコル監督のオリジナルだそうですよ。SFに対する感受性を感じさせます。さすが『ガタカ』の監督さん☆
それに、全人類が肉体的には25歳から年をとらないということは、この映画には目障りで醜いチューネンもロージンも出てこないということです(笑)。そしてその、若者だけの世界を彩るのは、主演のジャスティン・ティンバーレイクのほかにも、アレックス・ペティファー、キリアン・マーフィ、ヴィンセント・カーシーザー、マット・ボマーといったイケメンの皆様&バービー人形のように愛らしいアマンダ・セイフライド という仕様ですから、まさに目が洗われるようです☆
ティンバーレイクの母親がオリヴィア・ワイルドだったり、アマンダ・セイフライドの父親がヴィンセント・カーシーザーだったりする常識やぶりな絵柄も面白いし、カーシーザーがティンバーレイクに、「母と妻と娘だ」と紹介した家族が、全く同年代に見える三人の美女だったりするビジュアルも、この設定ならではでとても面白かった。
ただ、これほど大きくシステムが変容した社会を描くにしては、あまりに穴が多すぎて、どこからつっこんだらいいのか、というより、もはやつっこむことなどどうでもよくなってきてしまうのには困ってしまいました(汗)。特に目だった弱点は、以下の三つかなぁ。
第一に、貧困の描写が甘いこと。
手持ちの時間がゼロになったら即刻死、というシビアな世界で、ウィルの母親が50歳まで生きてこられた、というのがまず説得力がないです。毎日道端に転がる死体を目にしない日はないというようなスラムです。人々の平均寿命はせいぜい25歳プラスαといったあたりが常識的ラインだと思う。つまり、カウントダウンが始まってしまえば、貧民にはほとんど生き延びる術はないということ。アフリカの最貧国の現状を見てごらんよ。
生きたいのに生きられないエリアに住むウィルだからこそ、生きることに価値など見出せないのに永遠に行き続けてしまえるシルビアとの対比が生きてくるはずなのに、スラムですら何十年も生きることができるというのは、タイムアウトで母親が死ぬシーンを描きたいがための「為にする設定」にしか思えません。確かに「タッチの差が生死を分ける」シーンは印象的だけど、何も別に母親でなくても、親友でもよかったと思うのだけど。
更に言えば、スラムの人々の金銭感覚の描写の仕方もおかしいと思う。手元に一日分の時間しかないのに4分の対価を払って敢えてコーヒーを買うかしら? タッチの差で生死を分ける状態に追い込まれるまで、手持ちの時間をギリギリまで支払いに当てたりするかしら?
しかも、それだけ生死ギリギリの状態にありながら、スラムでは略奪が横行しているわけではない、ということ。他人の時間を奪うことは実はとても簡単なのですね。それなのに、自分の残り時間が数分となっても、通りすがりの誰かの時間を略奪するのではなく、大人しく死を選ぶ人々の不思議。フォーティス(アレックス・ペティファー)のような「職業的ギャング」もいるにはいるけど、どうやらかれらは少数派らしい。あくまでルールを逸脱しない人々。「秩序あるスラム」という異様さ。
弱点の二つ目は、時間の管理システムが全く描けていないことです。
命に関わる時間なれど、譲渡するにも奪い取るにも何のチェックも制約も受けません。職場や金融機関からの振込みだって、特に何も介在しなくても簡単にできてしまうので、時間授受に伴うIDのチェックも安全措置も何もない。たとえば、時間管理局のレイモンド・レオン(キリアン・マーフィ)に追われたウィルが、レイモンドの車(時間管理局が所有しているパトロールカー)に勝手に乗り込んで、レイモンドが受け取るはずだった時間を詐取する、なんてことが簡単にできてしまう。
そして三つ目、格差を是正する方策に対して思考が完全に停止していること。
常識的に言って、全く勝ち目のなさそうな徒手空拳のヒーローが、一体どうやってたったひとりで巨大な社会システムを転覆させ、革命を成し遂げることができるんだろう、一体どんな驚天動地のアイディアがあるんだろう、と固唾を飲んで見守っていたのに、ウィルのやったことって、銀行強盗だけだったよ……。大金を盗んで弱者にばらまく……。それで富の偏在が解消されればいいけどねぇ。
最後に、近未来を描いたビジュアルが、圧倒的にショボかったことがまた非常に残念でした。時間管理局のオフィスとか、どこの町役場だよという感じだったし、貧富を分けるゾーン間のゲートにしても、普通の都市高速の料金所の方がまだ近未来的なデザインだよなぁ、と思ってしまったのでした。
・TIME/タイム@ぴあ映画生活
『ガタカ』のアンドリュー・ニコル監督作品。
ジャスティン・ティンバーレイク&アマンダ・セイフライド。
近未来、全ての人間は25歳を境に肉体的には年をとらなくなった。死亡までの残り時間は、所有財産として扱われ、残高がある間はいつまでも死ぬことはないが、腕に刻まれたディスプレイの数字が0を刻んだ途端、問答無用で息絶えてしまう。「時間」は通貨として使われ、日々の賃金は時間で支払われ、家賃も交通費も食料品も時間で贖われるようになった。富める者は無限に生き続けることができる反面、貧しい者は日々死の恐怖に直面していた。
スラム育ちで、手元に一日以上の時間を持っていたためしのない(つまり、一日以上の余命があったためしのない)ウィル・サラス(ジャスティン・ティンバーレイク)は、ある日成り行きで暴徒の手から金持ちを助ける。その男、ヘンリー・ハミルトン(マット・ボマー)は、終わることのない人生に倦み疲れており、ウィルに100年単位の時間を譲渡して自殺する。
ヘンリーの口から、金持ちが永遠に生き続けることによる人口爆発を回避するために、貧困層は常に大量に死ぬことが望まれており、物価や税金を操作することによって、容赦なく不当に時間をむしりとる仕組みになっている、ということを知らされたウィルは、社会の不平等を正し、スラムの人々を日々直面する死の恐怖から救うべく、富裕層が暮らすエリアへ単身赴く。まるで別世界のような富裕層のエリアでウィルは、無難に生き続けることに倦怠を感じていた富豪の娘シルビア・ワイス(アマンダ・セイフライド)と出会う。
時間が通貨の変わりに使われる社会というユニークな設定は、ニコル監督のオリジナルだそうですよ。SFに対する感受性を感じさせます。さすが『ガタカ』の監督さん☆
それに、全人類が肉体的には25歳から年をとらないということは、この映画には目障りで醜いチューネンもロージンも出てこないということです(笑)。そしてその、若者だけの世界を彩るのは、主演のジャスティン・ティンバーレイクのほかにも、アレックス・ペティファー、キリアン・マーフィ、ヴィンセント・カーシーザー、マット・ボマーといったイケメンの皆様&バービー人形のように愛らしいアマンダ・セイフライド という仕様ですから、まさに目が洗われるようです☆
ティンバーレイクの母親がオリヴィア・ワイルドだったり、アマンダ・セイフライドの父親がヴィンセント・カーシーザーだったりする常識やぶりな絵柄も面白いし、カーシーザーがティンバーレイクに、「母と妻と娘だ」と紹介した家族が、全く同年代に見える三人の美女だったりするビジュアルも、この設定ならではでとても面白かった。
ただ、これほど大きくシステムが変容した社会を描くにしては、あまりに穴が多すぎて、どこからつっこんだらいいのか、というより、もはやつっこむことなどどうでもよくなってきてしまうのには困ってしまいました(汗)。特に目だった弱点は、以下の三つかなぁ。
第一に、貧困の描写が甘いこと。
手持ちの時間がゼロになったら即刻死、というシビアな世界で、ウィルの母親が50歳まで生きてこられた、というのがまず説得力がないです。毎日道端に転がる死体を目にしない日はないというようなスラムです。人々の平均寿命はせいぜい25歳プラスαといったあたりが常識的ラインだと思う。つまり、カウントダウンが始まってしまえば、貧民にはほとんど生き延びる術はないということ。アフリカの最貧国の現状を見てごらんよ。
生きたいのに生きられないエリアに住むウィルだからこそ、生きることに価値など見出せないのに永遠に行き続けてしまえるシルビアとの対比が生きてくるはずなのに、スラムですら何十年も生きることができるというのは、タイムアウトで母親が死ぬシーンを描きたいがための「為にする設定」にしか思えません。確かに「タッチの差が生死を分ける」シーンは印象的だけど、何も別に母親でなくても、親友でもよかったと思うのだけど。
更に言えば、スラムの人々の金銭感覚の描写の仕方もおかしいと思う。手元に一日分の時間しかないのに4分の対価を払って敢えてコーヒーを買うかしら? タッチの差で生死を分ける状態に追い込まれるまで、手持ちの時間をギリギリまで支払いに当てたりするかしら?
しかも、それだけ生死ギリギリの状態にありながら、スラムでは略奪が横行しているわけではない、ということ。他人の時間を奪うことは実はとても簡単なのですね。それなのに、自分の残り時間が数分となっても、通りすがりの誰かの時間を略奪するのではなく、大人しく死を選ぶ人々の不思議。フォーティス(アレックス・ペティファー)のような「職業的ギャング」もいるにはいるけど、どうやらかれらは少数派らしい。あくまでルールを逸脱しない人々。「秩序あるスラム」という異様さ。
弱点の二つ目は、時間の管理システムが全く描けていないことです。
命に関わる時間なれど、譲渡するにも奪い取るにも何のチェックも制約も受けません。職場や金融機関からの振込みだって、特に何も介在しなくても簡単にできてしまうので、時間授受に伴うIDのチェックも安全措置も何もない。たとえば、時間管理局のレイモンド・レオン(キリアン・マーフィ)に追われたウィルが、レイモンドの車(時間管理局が所有しているパトロールカー)に勝手に乗り込んで、レイモンドが受け取るはずだった時間を詐取する、なんてことが簡単にできてしまう。
そして三つ目、格差を是正する方策に対して思考が完全に停止していること。
常識的に言って、全く勝ち目のなさそうな徒手空拳のヒーローが、一体どうやってたったひとりで巨大な社会システムを転覆させ、革命を成し遂げることができるんだろう、一体どんな驚天動地のアイディアがあるんだろう、と固唾を飲んで見守っていたのに、ウィルのやったことって、銀行強盗だけだったよ……。大金を盗んで弱者にばらまく……。それで富の偏在が解消されればいいけどねぇ。
最後に、近未来を描いたビジュアルが、圧倒的にショボかったことがまた非常に残念でした。時間管理局のオフィスとか、どこの町役場だよという感じだったし、貧富を分けるゾーン間のゲートにしても、普通の都市高速の料金所の方がまだ近未来的なデザインだよなぁ、と思ってしまったのでした。
・TIME/タイム@ぴあ映画生活
by shirakian
| 2012-02-22 12:00
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