2011年 11月 29日
マネーボール
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★ネタバレ注意★
オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンが、いかにして低迷していた球団を常勝チームへと作りかえたか、という実話をもとにしたストーリー。『カポーティ』のベネット・ミラー監督作品、主演はブラッド・ピットです。
アスレチックスという球団は、とにかくお金がない。お金がないから、せっかく有望な選手を育てても、お金を持っているほかの球団からあっさり横取りされてしまう。主力選手が次々に抜けていくも、補給もままならない。引き抜かれた選手と同等の選手を新たに雇うなんて夢のまた夢だから、若干見劣りはしても、そこそこ近い選手を手に入れようとするのだけれど、次善の選手にトップ選手の代わりが勤まるはずもなく、そんな後手後手の戦術では、勝てるチームが作れるはずもなし。
そもそもの方法論を変えなきゃダメ。経験とか直感とか言ってたんじゃ、もう間にあわない。早急に根本的抜本的な変革をしなくては!
旧態依然の「老練」(老害?)なスカウトマンたちの、十年一日がごとき「経験論」にウンザリしていたGMのビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、名門イェール大の経済学部を卒業し、インディアンズのスタッフとして独自に選手のデータ分析を行っていたピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)と出会う。
もっさりと太っちょのオタク系、おとなしくて言いたいこともろくに言えないおどおどとした雰囲気なのに、「いいからおまえの考えを言ってみろ!」と発破をかければ、思わず驚くほどの鋭い意見をぶつけてくる。これはいける、と感じたビリーは、さっそくピーターをアスレチックスに引っこ抜き、かれが分析したデータを基に、現時点では評価されていない安い選手(盛りを過ぎていたり、故障していたり、若くて無名だったり)を買い叩き、それらの選手を巧みに組み合わせて勝てるチームを作り上げていく。
その仕組みは以下の通りです。どんなに物凄いパフォーマンスで観客を魅了しようと、得点しない限りチームは勝てない、得点するためには出塁しなければならない、出塁しさえすればいいのであれば、安打であろうがフォアボールであろうが結果は同じ。だったら、当たれば大きいホームランバッターがひとりいるより、打席で確実に四球を選ぶことのできる地味でも慎重な選手が9人いる方が勝てるチームにはなる、という理屈です。そして実際に、その理論が正しいことは実践によって証明されていくのです。
この展開の心地よさって、従来のやり方でダメなことなら根本から発想を変えてみる、というその点にあるのだと思う。名選手に固執するなら、お金のない球団に勝ち目はない。お金がないという前提は動かせないのだから、乏しい資金力で調達できる選手でいかに勝つか、をこそ考えねばならない。正論なのに、スカウトマンたちの会議では、そうした発想に立つひとがひとりもいなかった。
これって、いまの日本のエネルギー政策の現状に似てる。
というわけで、「今問題になっているイシュー」を確実に解決するアプローチを見出し、強力にそれを推進していくブラピの姿はまっこと小気味よくはあるのですが、でも、モノが野球だからね。ほんとにソレでいいのか? という割り切れなさは拭いきれない。勝たなきゃ話にならんとは言え、ただ勝てばそれでいいのか。野球は夢を売る商売。勝つことも確かに夢だけど、スター選手、スーパープレイ、華やかなパフォーマンスをこそ、ファンは愛しているのかもしれない。
と、観客が思わず足を止めるとき、ビリーの人物描写が生きてきます。単に有能なGMであるのみならず、自身名プレイヤーであったビリー。高校では、攻守走打の全てにおいてバランスよく力量を発揮できるスーパー選手で、プロ球団が巨額の契約金を積んでほしがるほどだったのに、いざプロになってしまえば鳴かず飛ばず。あのとき、金に目がくらんでプロ球団に行くのではなく、進学が決まっていた大学に行ってさえいれば。ビリーの中には溶かしきれない後悔の念がある。それが物語に陰翳をつけ、ビリーを単なる経済原則一本遣りのガリガリ亡者には見せていないのです。
2002年に主力選手のジェイソン・ジオンビらが去った後のアスレチックスを、ア・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズまで進出せしめ、ボストン・レッドソックスから史上最高年俸でGMとして招かれたにもかかわらず、結局そのオファーを蹴って敢えてアスレチックスに残る決意をしたビリー。当然そこには、若き日の過ちを再び繰り返してはならないという思いがあったことでしょう。お金のない球団が、勝つために極端な戦法を用いはしたけれど、勝利は決してお金のためだけではなかった。
野球場には魔物が住む。とはだれも言ってないけど、や、そう実感しましたよ、野球のことなんかなんにもわからないけれど。
離婚した妻シャロン(ロビン・ライト)のもとで暮らす娘のケイシー・ビーン(ケリス・ドーシー)が素直にとってもかわいかったです。すっごく歌がうまくって、パパのために歌ってくれたりするんだけど、これがほんとにいいです。名シーンです。ケイシーはパパのことが大好きなんだね。だけど、もうお年頃だから、日頃一緒に暮らしていないパパと会うのはちょぴり恥ずかしい。それに第一、パパっつーのがブラピだものね。そりゃ、女子としてははにかんじゃうよね。
ビリーというキャラクターが、もともと短気な上に、周り中と戦ってかなきゃならない情況で、常にピリピリしている雰囲気だったので、この愛らしいお嬢さんのはにかんだ微笑は、何にも代え難い癒しでした。ビリーもケイシーにはいつも穏やかで優しいし☆
最後に是非とも特筆すべきは、アスレチックスのアート・ハウ監督を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンです。すごいよ、PSH、全く野球人にしか見えないんだ、あの体格と雰囲気のままで!
本来かれって、スポーツマンのイメージからは最も遠い役者さんだと思うのだけど、この映画ではきっちりしっかり往年の名選手にして現名監督、という人物に見えるんですもの。そりゃ、現役選手じゃないから身体を作るところまでやらなくてもよかった、っていうのはあるかもしれないけど、それなら尚一層のこと、身体を作ることすらせずに演技力だけでスポーツマンに見せてしまうなんて、天使からヘンタイまで完璧に演じ分けるカメレオン俳優の名にふさわしいかれだけのことはあります。出番はあまり多くないんだけど、ビリーのやり方とは対極を行く「経験に裏打ちされた」方法論を確立している人物で、よいスパイスになっていました。
・マネーボール@ぴあ映画生活
オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンが、いかにして低迷していた球団を常勝チームへと作りかえたか、という実話をもとにしたストーリー。『カポーティ』のベネット・ミラー監督作品、主演はブラッド・ピットです。
アスレチックスという球団は、とにかくお金がない。お金がないから、せっかく有望な選手を育てても、お金を持っているほかの球団からあっさり横取りされてしまう。主力選手が次々に抜けていくも、補給もままならない。引き抜かれた選手と同等の選手を新たに雇うなんて夢のまた夢だから、若干見劣りはしても、そこそこ近い選手を手に入れようとするのだけれど、次善の選手にトップ選手の代わりが勤まるはずもなく、そんな後手後手の戦術では、勝てるチームが作れるはずもなし。
そもそもの方法論を変えなきゃダメ。経験とか直感とか言ってたんじゃ、もう間にあわない。早急に根本的抜本的な変革をしなくては!
旧態依然の「老練」(老害?)なスカウトマンたちの、十年一日がごとき「経験論」にウンザリしていたGMのビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、名門イェール大の経済学部を卒業し、インディアンズのスタッフとして独自に選手のデータ分析を行っていたピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)と出会う。
もっさりと太っちょのオタク系、おとなしくて言いたいこともろくに言えないおどおどとした雰囲気なのに、「いいからおまえの考えを言ってみろ!」と発破をかければ、思わず驚くほどの鋭い意見をぶつけてくる。これはいける、と感じたビリーは、さっそくピーターをアスレチックスに引っこ抜き、かれが分析したデータを基に、現時点では評価されていない安い選手(盛りを過ぎていたり、故障していたり、若くて無名だったり)を買い叩き、それらの選手を巧みに組み合わせて勝てるチームを作り上げていく。
その仕組みは以下の通りです。どんなに物凄いパフォーマンスで観客を魅了しようと、得点しない限りチームは勝てない、得点するためには出塁しなければならない、出塁しさえすればいいのであれば、安打であろうがフォアボールであろうが結果は同じ。だったら、当たれば大きいホームランバッターがひとりいるより、打席で確実に四球を選ぶことのできる地味でも慎重な選手が9人いる方が勝てるチームにはなる、という理屈です。そして実際に、その理論が正しいことは実践によって証明されていくのです。
この展開の心地よさって、従来のやり方でダメなことなら根本から発想を変えてみる、というその点にあるのだと思う。名選手に固執するなら、お金のない球団に勝ち目はない。お金がないという前提は動かせないのだから、乏しい資金力で調達できる選手でいかに勝つか、をこそ考えねばならない。正論なのに、スカウトマンたちの会議では、そうした発想に立つひとがひとりもいなかった。
これって、いまの日本のエネルギー政策の現状に似てる。
というわけで、「今問題になっているイシュー」を確実に解決するアプローチを見出し、強力にそれを推進していくブラピの姿はまっこと小気味よくはあるのですが、でも、モノが野球だからね。ほんとにソレでいいのか? という割り切れなさは拭いきれない。勝たなきゃ話にならんとは言え、ただ勝てばそれでいいのか。野球は夢を売る商売。勝つことも確かに夢だけど、スター選手、スーパープレイ、華やかなパフォーマンスをこそ、ファンは愛しているのかもしれない。
と、観客が思わず足を止めるとき、ビリーの人物描写が生きてきます。単に有能なGMであるのみならず、自身名プレイヤーであったビリー。高校では、攻守走打の全てにおいてバランスよく力量を発揮できるスーパー選手で、プロ球団が巨額の契約金を積んでほしがるほどだったのに、いざプロになってしまえば鳴かず飛ばず。あのとき、金に目がくらんでプロ球団に行くのではなく、進学が決まっていた大学に行ってさえいれば。ビリーの中には溶かしきれない後悔の念がある。それが物語に陰翳をつけ、ビリーを単なる経済原則一本遣りのガリガリ亡者には見せていないのです。
2002年に主力選手のジェイソン・ジオンビらが去った後のアスレチックスを、ア・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズまで進出せしめ、ボストン・レッドソックスから史上最高年俸でGMとして招かれたにもかかわらず、結局そのオファーを蹴って敢えてアスレチックスに残る決意をしたビリー。当然そこには、若き日の過ちを再び繰り返してはならないという思いがあったことでしょう。お金のない球団が、勝つために極端な戦法を用いはしたけれど、勝利は決してお金のためだけではなかった。
野球場には魔物が住む。とはだれも言ってないけど、や、そう実感しましたよ、野球のことなんかなんにもわからないけれど。
離婚した妻シャロン(ロビン・ライト)のもとで暮らす娘のケイシー・ビーン(ケリス・ドーシー)が素直にとってもかわいかったです。すっごく歌がうまくって、パパのために歌ってくれたりするんだけど、これがほんとにいいです。名シーンです。ケイシーはパパのことが大好きなんだね。だけど、もうお年頃だから、日頃一緒に暮らしていないパパと会うのはちょぴり恥ずかしい。それに第一、パパっつーのがブラピだものね。そりゃ、女子としてははにかんじゃうよね。
ビリーというキャラクターが、もともと短気な上に、周り中と戦ってかなきゃならない情況で、常にピリピリしている雰囲気だったので、この愛らしいお嬢さんのはにかんだ微笑は、何にも代え難い癒しでした。ビリーもケイシーにはいつも穏やかで優しいし☆
最後に是非とも特筆すべきは、アスレチックスのアート・ハウ監督を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンです。すごいよ、PSH、全く野球人にしか見えないんだ、あの体格と雰囲気のままで!
本来かれって、スポーツマンのイメージからは最も遠い役者さんだと思うのだけど、この映画ではきっちりしっかり往年の名選手にして現名監督、という人物に見えるんですもの。そりゃ、現役選手じゃないから身体を作るところまでやらなくてもよかった、っていうのはあるかもしれないけど、それなら尚一層のこと、身体を作ることすらせずに演技力だけでスポーツマンに見せてしまうなんて、天使からヘンタイまで完璧に演じ分けるカメレオン俳優の名にふさわしいかれだけのことはあります。出番はあまり多くないんだけど、ビリーのやり方とは対極を行く「経験に裏打ちされた」方法論を確立している人物で、よいスパイスになっていました。
・マネーボール@ぴあ映画生活
by shirakian
| 2011-11-29 21:49
| 映画ま行