2011年 05月 04日
トムとトーマス
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★ネタバレ注意★
2002年、エスメ・ラマーズ監督作品。
近年活躍著しいアーロン・ジョンソンが、9歳のふたごの少年、トムとトーマスを一人二役で演じています。そして、そのパパがショーン・ビーン☆ 日本ではDVDスルーですが、公開から日本版DVDが出るまでかなりタイムラグがあったので、当時、熱心なショーン・ビーンファンのひとは、オランダから輸入したりして頑張ったものでした(わたしは頑張らなかったです(汗))。
画家のポール・シェパード(ショーン・ビーン)は、妻に先立たれ、男手ひとつで息子のトーマス(アーロン・ジョンソン)を育てていた。実はトーマスは赤ん坊のころシェパード家の養子になった子どもであり、トーマスもそのことを承知していたが、ポールとトーマスの間には実の親子以上の愛情と信頼関係が築かれていた。しかし、トーマスにはトムというイマジナリー・フレンドがいて、最近、日増しにその存在感を増していきつつあり、それに伴い、不穏な言動が多くなるトーマスに、ポールは心を痛めていた。
というのが導入であります。
ショーン・ビーンという役者は、「お父さん」を演じさせるともう、絶品なんですよね。なんか、ほんっとに心の底から子どもを愛してる感じが無理なく伝わってくるし、しかも、「大の男の子ども好き」はヘタすると幼児性愛者っぽく見えてしまったりする場合もあるのに、かれの場合は全くそんな不安を抱かせません。ああ、こんなパパがいてくれたら、子どもは幸せであるに間違いないよ、と見る者をして安心させる暖かみと包容力を感じさせる。
なので、この映画の大きな見所は、ショーンとアーロンの微笑ましいにも程があるステキな親子関係の描写であろうかと思います。悪夢を見て、夜中目を醒ましてしまった幼い息子を抱きしめてキスして、大丈夫、なにも怖いことなんかないからね、と父親が宥める平凡なシーンも、かれが演じると、ほんとに生きたシーンになるのです。
さて、そこでトムの存在。
もちろんトムは、トーマスの想像上の存在なんかじゃなく、赤ん坊の頃生き別れとなっていたふたごの片割れだったわけで、ふたりはふたごならではのスーパーナチュラルな繋がりでもって、互いの存在を感じあっていたのでした。
すばらしい里親に引き取られて愛情一杯に育てられたトーマスとはちがい、トムは施設育ち。しかもその施設というのがとんでもない場所で、子どもを攫っては外国に売り飛ばしていたのでした。犯罪現場を目撃してしまったトムにも魔の手が迫る! からくも逃げ出したトムは、そこで初めてトーマスと出会うのでした。
この出会いのシーンが印象的です。科学博物館の鏡の間で出会うのですね。たくさんの鏡に映し出される無数の分身、反射して映りこむ鏡像のさらに奥に存在する分身の分身の分身たちの中に、あれ、おかしな動きをする自分がいる!? という楽しいシーンです。
ここからも感じ取れるように、この映画、子どもが主人公のファミリー向け映画でありながら、細部の描写に手抜きがないのです。
トムがいた施設での犯罪を描くにしても、決して子ども騙しに堕さないサスペンスフルな描写で、マジで手に汗握ってしまいます。トムとトーマスの日常の描写にしても、トムと出会ったことにより、トーマスが勇気をもっていじめを克服しようとする描写や、トーマスには全く興味の対象にならなかった同じクラスの女の子のことをトムがいいな☆ と思っちゃう微笑ましい描写など、肌理細かな演出が光ります。
あと、ついでに言えば、妻の死からまだ完全には立ち直れないでいたポールが、新しい出会いをして、新しい恋に踏み出していく描写も、とても自然で暖かみがあります。しかもこの相手の女性が、トムトマを犯罪から救い出す役割の一助を担うというのもいい。
だけどやっぱり、一番凄いなぁ、と思うのは、アーロン・ジョンソンがトムとトーマスというふたりの人格をきちんと演じ分けていることだろうなぁ、と思います。
たとえば王子と乞食とか、明らかに極端に違うキャラクターを演じ分けるのなら、有る程度器用な役者だったらできないことではないように思うのだけど、トムとトーマスは、そんなに凄く個性が異なるわけじゃない。でも、ふたりは全くちがった育ち方をしているわけで、そこからくる微妙な違いというのは確かにあるのです。
言葉遣いももちろんちがうけど、仕種とか、何より表情とか。たっぷりと愛されて育ったトーマスは、大人を疑うことをしないけど、虐待された経験のあるトムは大人を怖がる。それぞれ大袈裟にそうした表現があるわけではないけど、日常のささいなシーンの全てにわたって、そうした背景がにじみ出てくるような演技です。まさに栴檀は双葉より芳しいアーロンくんです。
世紀の大傑作、とかいうのじゃもちろんないけど、時々取り出しては再見してみたくなる映画です。クリスマス時期の映画なので、ほんとはクリスマスに観るのがふさわしいのかな。
ただひとつ残念なのは、ポールの新しい恋の相手を演じたインディ・バが、この映画の直後、若くして病気で亡くなってしまったということですね。映画の中でのことではないのに、なんだか、ポールがまたもや伴侶を失っちゃったような寂しさを感じてしまいます。
ご冥福をお祈り申し上げます。
2002年、エスメ・ラマーズ監督作品。
近年活躍著しいアーロン・ジョンソンが、9歳のふたごの少年、トムとトーマスを一人二役で演じています。そして、そのパパがショーン・ビーン☆ 日本ではDVDスルーですが、公開から日本版DVDが出るまでかなりタイムラグがあったので、当時、熱心なショーン・ビーンファンのひとは、オランダから輸入したりして頑張ったものでした(わたしは頑張らなかったです(汗))。
画家のポール・シェパード(ショーン・ビーン)は、妻に先立たれ、男手ひとつで息子のトーマス(アーロン・ジョンソン)を育てていた。実はトーマスは赤ん坊のころシェパード家の養子になった子どもであり、トーマスもそのことを承知していたが、ポールとトーマスの間には実の親子以上の愛情と信頼関係が築かれていた。しかし、トーマスにはトムというイマジナリー・フレンドがいて、最近、日増しにその存在感を増していきつつあり、それに伴い、不穏な言動が多くなるトーマスに、ポールは心を痛めていた。
というのが導入であります。
ショーン・ビーンという役者は、「お父さん」を演じさせるともう、絶品なんですよね。なんか、ほんっとに心の底から子どもを愛してる感じが無理なく伝わってくるし、しかも、「大の男の子ども好き」はヘタすると幼児性愛者っぽく見えてしまったりする場合もあるのに、かれの場合は全くそんな不安を抱かせません。ああ、こんなパパがいてくれたら、子どもは幸せであるに間違いないよ、と見る者をして安心させる暖かみと包容力を感じさせる。
なので、この映画の大きな見所は、ショーンとアーロンの微笑ましいにも程があるステキな親子関係の描写であろうかと思います。悪夢を見て、夜中目を醒ましてしまった幼い息子を抱きしめてキスして、大丈夫、なにも怖いことなんかないからね、と父親が宥める平凡なシーンも、かれが演じると、ほんとに生きたシーンになるのです。
さて、そこでトムの存在。
もちろんトムは、トーマスの想像上の存在なんかじゃなく、赤ん坊の頃生き別れとなっていたふたごの片割れだったわけで、ふたりはふたごならではのスーパーナチュラルな繋がりでもって、互いの存在を感じあっていたのでした。
すばらしい里親に引き取られて愛情一杯に育てられたトーマスとはちがい、トムは施設育ち。しかもその施設というのがとんでもない場所で、子どもを攫っては外国に売り飛ばしていたのでした。犯罪現場を目撃してしまったトムにも魔の手が迫る! からくも逃げ出したトムは、そこで初めてトーマスと出会うのでした。
この出会いのシーンが印象的です。科学博物館の鏡の間で出会うのですね。たくさんの鏡に映し出される無数の分身、反射して映りこむ鏡像のさらに奥に存在する分身の分身の分身たちの中に、あれ、おかしな動きをする自分がいる!? という楽しいシーンです。
ここからも感じ取れるように、この映画、子どもが主人公のファミリー向け映画でありながら、細部の描写に手抜きがないのです。
トムがいた施設での犯罪を描くにしても、決して子ども騙しに堕さないサスペンスフルな描写で、マジで手に汗握ってしまいます。トムとトーマスの日常の描写にしても、トムと出会ったことにより、トーマスが勇気をもっていじめを克服しようとする描写や、トーマスには全く興味の対象にならなかった同じクラスの女の子のことをトムがいいな☆ と思っちゃう微笑ましい描写など、肌理細かな演出が光ります。
あと、ついでに言えば、妻の死からまだ完全には立ち直れないでいたポールが、新しい出会いをして、新しい恋に踏み出していく描写も、とても自然で暖かみがあります。しかもこの相手の女性が、トムトマを犯罪から救い出す役割の一助を担うというのもいい。
だけどやっぱり、一番凄いなぁ、と思うのは、アーロン・ジョンソンがトムとトーマスというふたりの人格をきちんと演じ分けていることだろうなぁ、と思います。
たとえば王子と乞食とか、明らかに極端に違うキャラクターを演じ分けるのなら、有る程度器用な役者だったらできないことではないように思うのだけど、トムとトーマスは、そんなに凄く個性が異なるわけじゃない。でも、ふたりは全くちがった育ち方をしているわけで、そこからくる微妙な違いというのは確かにあるのです。
言葉遣いももちろんちがうけど、仕種とか、何より表情とか。たっぷりと愛されて育ったトーマスは、大人を疑うことをしないけど、虐待された経験のあるトムは大人を怖がる。それぞれ大袈裟にそうした表現があるわけではないけど、日常のささいなシーンの全てにわたって、そうした背景がにじみ出てくるような演技です。まさに栴檀は双葉より芳しいアーロンくんです。
世紀の大傑作、とかいうのじゃもちろんないけど、時々取り出しては再見してみたくなる映画です。クリスマス時期の映画なので、ほんとはクリスマスに観るのがふさわしいのかな。
ただひとつ残念なのは、ポールの新しい恋の相手を演じたインディ・バが、この映画の直後、若くして病気で亡くなってしまったということですね。映画の中でのことではないのに、なんだか、ポールがまたもや伴侶を失っちゃったような寂しさを感じてしまいます。
ご冥福をお祈り申し上げます。
by shirakian
| 2011-05-04 20:56
| 映画た行