2011年 03月 09日
英国王のスピーチ
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★ネタバレ注意★
ついさきごろ発表された第83回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞を受賞した作品です。受賞者のみなさまには、心よりお祝い申し上げます☆
とにかくですね、もう、チャァァァミング! というに尽きる、とってもチャーミングな映画なんでありますが、この映画がここまでチャーミングであったのも、一にも二にも、主演のコリン・ファースがチャーミングだったからだと思うのです。ほんとに最近のファースさんは、のりにのっていらっさる。
英国王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の次男アルバート・フレデリック・アーサー・ジョージ・ウィンザー(コリン・ファース、家族内でのペットネームはバーティー)は、幼い頃から吃音というコンプレックスを抱えていたが、立場上、スピーチをこなさなければならない機会が多く、しかも、長兄のエドワード8世(ガイ・ピアース)の奔放な人柄のせいで、アルバートが代理で人前に立たねばならない機会はさらに増えていた。
吃音を克服すべく、さまざまな療法を試みるのだがはかばかしい改善は得られず、そんなある日、妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)が見つけてきたのが、スピーチ矯正の専門家、オーストラリア人のライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)だった。
というわけで、ローグの型破りな指導の下、特訓を重ねたジョージ6世が、英国がドイツと開戦するにあたり、国民を鼓舞するための大事なスピーチを成功させる、という流れは、由緒正しいスポコンのようでもあり、破天荒な指導をするローグに、おれは王族だぞ? 王族のおれにこんなことさせるのか? という戸惑いやら反発やらを乗り越えて、しぶしぶと、しかし素直に従うジョージ6世とローグとのかけあいは、この上なく上質のコメディとしても楽しめる仕掛け。
中でも観客の心を暖かく包むのは、ジョージ6世もローグも、ともに妻を愛し、子どもたちを慈しむ、よき夫、よき父親であり、妻からも愛され、子どもたちからも慕われて、すばらしい家庭を築き、かつそれを大事にしているというのが伝わってくる数々の描写です。
やたら出来のいいローグの息子(博士と呼ばれている)が、ローグを喜ばすために、シェイクごっこ(シェイクスピアの芝居の一節を父親に演じさせて、どの芝居のどのキャラかを当ててあげるゲーム)をしてあげるシーンとか、娘のエリザベスにお話をせがまれたジョージ6世が、身振り手ぶりたっぷりにペンギンの話をして聞かせるシーンとか、観ているだけで幸せな気持ちになってしまいます。
複雑すぎるしがらみとか、長年治療効果のあがらない苛立ちとか、あれやこれやで頑なになっていたジョージ6世が、ローグに対して次第に胸襟を開いていく描写が瑞々しく、特に、「前から作ってみたかった」飛行機のプラモデル(ローグの息子が作りかけていたもの)におずおずと手を触れながら、自分の過去のトラウマや、父や兄との確執、女性との初体験などについてぽつぽつと語りだすファースの姿はいじらしく、そこまで心を許したというのに、後になってローグが医師免許をもたないもぐりの治療師だったことが発覚して、裏切られたように傷つくシーンのやるせなさ。
しかしそれでも、戴冠式を前に、ローグをジョージ6世から遠ざけようとするカンタベリー大司教コスモ・ラング(デレク・ジャコビ)の進言を退け、ローグの治療方針に従い、かれを信頼し続けたジョージ6世にはホロリとします。
尊大にふるまうにしろ、激昂するにしろ、悲しむにしろ、喜ぶにしろ、はにかむにしろ、感謝するにしろ、怯えるにしろ、全ての感情表現において、ファースの演技はジョージ6世の誠実さを感じさせるもので、ほんとにすばらしいと思うのです。そして、もひとつすばらしいのが、ジョージ6世の英国人らしい若干皮肉なユーモア感覚。どんなに追い詰められても自分を客観視する姿勢をなくさない王様は、真に信頼するに足る貴人であるよなぁ、と思うのでした。
やがてついに英国はドイツに宣戦布告。ジョージ6世は、ラジオの生放送で国民を鼓舞する演説をすることになるのですが、演説に到るまでの緊迫感、そして、演説そのものの高揚感。これはほんとにクライマックスと呼ぶにふさわしい名シーンに仕上がっています。
何より、スピーチライターが書いた演説用原稿なんて、内容はどれも似たりよったりで、ありきたりのことしか言っていないと思うのに(っていうか、あんまり奇想天外な内容では逆に困る)、この演説そのものがものすごく感動的なのは一体どうしたことでありましょう。結構延々と流れるのだけど、ほんとうにそのときの英国国民のような気持ちになって、国王の言葉のひとつひとつに真剣に耳を傾ける気持ちになってしまう。
これって、あれですか、名優が読み上げると、レストランのメニューですら観客を感動させることができるってやつ?
ジョージ6世に関しては、兄エドワード8世との関係が面白いのですが、特にやっぱり、エドワード8世が「王冠を賭けた恋」の末に王位をおっぽりだしてしまったとき、子どものときから帝王教育を受けてきたのは兄の方なのに、何の準備もしていない自分に王位を押し付けるなんてひどい、国事に関する書類なんか見たことすらないのに、と困惑し、不安がり、さんざん嫌がっていたにもかかわらず、結局は逃げることなく王位についた辺りの描写が、さきにも述べたジョージ6世の誠実さを際立たせています。
ただそこで疑問に思うのが、お兄ちゃんの配役がなんでガイ・ピアース? ってとこですよね。確かピアースってファースよりだいぶ年下のはず、と思って調べたみたらば、やっぱり7つも下だし、それにそもそも年齢相応に見えるファースに比べて、ピアースは実年齢より若く見えるタイプじゃあるまいか? まあ、兄の方が若く見える兄弟なんて珍しくもないでしょうけれども、それにしても、ピアースと言えば、あまたいる世界的に活躍しているオーストラリア俳優の中でも、特にオージー・イメージが強いひとだし(出身はイギリスだけど)、なぜ敢てかれに英国国王の役を? と思ってしまうわけですが。
うーん、エドワード8世の実年齢に近い配役、ということだったのかな。だとしたら、当時30代だったジョージ6世をコリン・ファースが演じる方がムリ、ということになるのでしょうけれども……。
ほかに配役について言えば、ヘレナ・ボナム=カーターの飄々とした味わいは文句のつけようがなく、マイケル・ガンボンのジョージ5世も重厚ですばらしかったですが、ティモシー・スポールのウィンストン・チャーチルはちょっとイメージがちがったかも……。や、演技がどうのということじゃなくて、ほかのひととちがって、チャーチルに関しては実物の顔をよく知ってるから違和感があった、というだけの話ですけど。
ついさきごろ発表された第83回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞を受賞した作品です。受賞者のみなさまには、心よりお祝い申し上げます☆
とにかくですね、もう、チャァァァミング! というに尽きる、とってもチャーミングな映画なんでありますが、この映画がここまでチャーミングであったのも、一にも二にも、主演のコリン・ファースがチャーミングだったからだと思うのです。ほんとに最近のファースさんは、のりにのっていらっさる。
英国王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の次男アルバート・フレデリック・アーサー・ジョージ・ウィンザー(コリン・ファース、家族内でのペットネームはバーティー)は、幼い頃から吃音というコンプレックスを抱えていたが、立場上、スピーチをこなさなければならない機会が多く、しかも、長兄のエドワード8世(ガイ・ピアース)の奔放な人柄のせいで、アルバートが代理で人前に立たねばならない機会はさらに増えていた。
吃音を克服すべく、さまざまな療法を試みるのだがはかばかしい改善は得られず、そんなある日、妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)が見つけてきたのが、スピーチ矯正の専門家、オーストラリア人のライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)だった。
というわけで、ローグの型破りな指導の下、特訓を重ねたジョージ6世が、英国がドイツと開戦するにあたり、国民を鼓舞するための大事なスピーチを成功させる、という流れは、由緒正しいスポコンのようでもあり、破天荒な指導をするローグに、おれは王族だぞ? 王族のおれにこんなことさせるのか? という戸惑いやら反発やらを乗り越えて、しぶしぶと、しかし素直に従うジョージ6世とローグとのかけあいは、この上なく上質のコメディとしても楽しめる仕掛け。
中でも観客の心を暖かく包むのは、ジョージ6世もローグも、ともに妻を愛し、子どもたちを慈しむ、よき夫、よき父親であり、妻からも愛され、子どもたちからも慕われて、すばらしい家庭を築き、かつそれを大事にしているというのが伝わってくる数々の描写です。
やたら出来のいいローグの息子(博士と呼ばれている)が、ローグを喜ばすために、シェイクごっこ(シェイクスピアの芝居の一節を父親に演じさせて、どの芝居のどのキャラかを当ててあげるゲーム)をしてあげるシーンとか、娘のエリザベスにお話をせがまれたジョージ6世が、身振り手ぶりたっぷりにペンギンの話をして聞かせるシーンとか、観ているだけで幸せな気持ちになってしまいます。
複雑すぎるしがらみとか、長年治療効果のあがらない苛立ちとか、あれやこれやで頑なになっていたジョージ6世が、ローグに対して次第に胸襟を開いていく描写が瑞々しく、特に、「前から作ってみたかった」飛行機のプラモデル(ローグの息子が作りかけていたもの)におずおずと手を触れながら、自分の過去のトラウマや、父や兄との確執、女性との初体験などについてぽつぽつと語りだすファースの姿はいじらしく、そこまで心を許したというのに、後になってローグが医師免許をもたないもぐりの治療師だったことが発覚して、裏切られたように傷つくシーンのやるせなさ。
しかしそれでも、戴冠式を前に、ローグをジョージ6世から遠ざけようとするカンタベリー大司教コスモ・ラング(デレク・ジャコビ)の進言を退け、ローグの治療方針に従い、かれを信頼し続けたジョージ6世にはホロリとします。
尊大にふるまうにしろ、激昂するにしろ、悲しむにしろ、喜ぶにしろ、はにかむにしろ、感謝するにしろ、怯えるにしろ、全ての感情表現において、ファースの演技はジョージ6世の誠実さを感じさせるもので、ほんとにすばらしいと思うのです。そして、もひとつすばらしいのが、ジョージ6世の英国人らしい若干皮肉なユーモア感覚。どんなに追い詰められても自分を客観視する姿勢をなくさない王様は、真に信頼するに足る貴人であるよなぁ、と思うのでした。
やがてついに英国はドイツに宣戦布告。ジョージ6世は、ラジオの生放送で国民を鼓舞する演説をすることになるのですが、演説に到るまでの緊迫感、そして、演説そのものの高揚感。これはほんとにクライマックスと呼ぶにふさわしい名シーンに仕上がっています。
何より、スピーチライターが書いた演説用原稿なんて、内容はどれも似たりよったりで、ありきたりのことしか言っていないと思うのに(っていうか、あんまり奇想天外な内容では逆に困る)、この演説そのものがものすごく感動的なのは一体どうしたことでありましょう。結構延々と流れるのだけど、ほんとうにそのときの英国国民のような気持ちになって、国王の言葉のひとつひとつに真剣に耳を傾ける気持ちになってしまう。
これって、あれですか、名優が読み上げると、レストランのメニューですら観客を感動させることができるってやつ?
ジョージ6世に関しては、兄エドワード8世との関係が面白いのですが、特にやっぱり、エドワード8世が「王冠を賭けた恋」の末に王位をおっぽりだしてしまったとき、子どものときから帝王教育を受けてきたのは兄の方なのに、何の準備もしていない自分に王位を押し付けるなんてひどい、国事に関する書類なんか見たことすらないのに、と困惑し、不安がり、さんざん嫌がっていたにもかかわらず、結局は逃げることなく王位についた辺りの描写が、さきにも述べたジョージ6世の誠実さを際立たせています。
ただそこで疑問に思うのが、お兄ちゃんの配役がなんでガイ・ピアース? ってとこですよね。確かピアースってファースよりだいぶ年下のはず、と思って調べたみたらば、やっぱり7つも下だし、それにそもそも年齢相応に見えるファースに比べて、ピアースは実年齢より若く見えるタイプじゃあるまいか? まあ、兄の方が若く見える兄弟なんて珍しくもないでしょうけれども、それにしても、ピアースと言えば、あまたいる世界的に活躍しているオーストラリア俳優の中でも、特にオージー・イメージが強いひとだし(出身はイギリスだけど)、なぜ敢てかれに英国国王の役を? と思ってしまうわけですが。
うーん、エドワード8世の実年齢に近い配役、ということだったのかな。だとしたら、当時30代だったジョージ6世をコリン・ファースが演じる方がムリ、ということになるのでしょうけれども……。
ほかに配役について言えば、ヘレナ・ボナム=カーターの飄々とした味わいは文句のつけようがなく、マイケル・ガンボンのジョージ5世も重厚ですばらしかったですが、ティモシー・スポールのウィンストン・チャーチルはちょっとイメージがちがったかも……。や、演技がどうのということじゃなくて、ほかのひととちがって、チャーチルに関しては実物の顔をよく知ってるから違和感があった、というだけの話ですけど。
by shirakian
| 2011-03-09 19:22
| 映画あ行