2010年 06月 24日
シーウルフ
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2008年のドイツのテレビムービーです。クリストフ・シュラーエ監督作品。
何かというと、もちろん、トーマス・クレッチマン出演作であります。
不思議なことに、クレッチマンの出演作って、なかなか日本では劇場公開されない反面、こうして割とコンスタントにDVDが出ている模様であります。なんだ、やっぱり、クレッチファンってちゃんと一定数いるんじゃない! と思ったりするわけですが、クレッチファンのみなさま、お元気ですか?
うちのブログでは、同じトーマスさんでも、ギブソンさんちのトーマスさんの方が、ここんとこ、検索ワードのぶっちぎり一位独走状態です。ちなみに二位はカーマイン・ジョヴィナッツォ。最近徐々にマシュー・グレイ・ギュブラーもきてる感じ。同好の士の方に読んでいただけてるかと思うと、すごく嬉しいのですが、クレッチでの検索は見たことナイ(寂)。
閑話休題、この映画はジャック・ロンドンの『海の狼』が原作。
原作は未読ですが、大変人気の高い小説らしく、何度も映画化されているらしいです。その辺のことを全く何も知らずに観たので、なんでドイツ船が日本近海でアザラシ猟なんかしてんねん、そのアメリカ国旗は何やねん、と首をひねってしまったのですが、そっか、アメリカの話だったのね。言語はドイツ語ですが、お給料はドル立てです(笑)。
1906年。文学者のハンフリー・ヴァン・ワイデン(フロリアン・シュテッター)は、乗っていた客船が遭難し、漂流しているところを、アザラシ猟船”ゴースト号”に救助される。船長のウルフ・ラーセン(トーマス・クレッチマン)は恐怖で船を支配している暴君だった。自ら「紳士」と名乗り、肉体労働なんかできません、とのたもうていた軟弱者のハンフリーは、暴力に晒される日々の中、次第に土性骨を据え、海の男に変貌していく。そんなある日、”ゴースト号”は更なる遭難者を救助したが、その中に美しい女流作家モード・ブルースター(ペトラ・シュミット・シャラー)がいた。荒くれ男の只中に美女ひとり。ハンフリーは、モードをレイプしようとしたラーセンを刺し、モードと共に決死の脱走を決意する。
という、なんだろう、海洋冒険アドベンチャーといった趣の作品。
残念ながら、語り手であるハンフリーに全く魅力がないので、かれの物語として観ると、さほど面白いとは思えません。
ところがやっぱり、トーマス・クレッチマン演じるラーセン船長が面白い。単なる粗野な暴君ではなく、かなり複雑微妙な人物として描かれていて、一体この男はどういう人間なんだろう、という興味でぐいぐい引き込まれていきます。
このラーセンという男、実はとんでもない教養人で、知に対する好奇心も渇望も強い。かれの部屋にはたくさんの本があり、しかもその内容たるや、『種の起源』だの『ツァラトゥストラはかく語りき』だのといった単なるタイムキラーには程遠いラインナップ、しかも、余白にはぎっしりと書き込みがしてある様子。なにやら鬼気迫るものすら感じさせるのです。
そんな男がなぜこんな環境で、こんな職業に就いているのか、あるいは、こんな環境で、こんな職業に就いているような男が、どこでそのような教養を身につけたのか。そしてまた、これほどの教養のある男が、どうしてあのように粗野で残酷に振舞えるのか。あのように粗野で残酷な振る舞いをするのなら、なんのためにあれほどの教養を身につけたのか。映画ではその辺りのことは全く語られません。
語られないと言えば、なにやら曰くありげな兄との確執も、詳述されることがない。兄もまたアザラシ猟船“マケドニア号”の船長であるらしいのだけど、帆船である“ゴースト号”に対し“マケドニア号”は蒸気船、何倍もの速度を誇り、ラーセンを蹴散らしていくのです。ラーセンはそんな兄の船に戦闘を挑む。果たしてふたりの間にどんなドラマがあったのか。ラーセンの兄というひとは、顔すら出てこない描写なので、その辺のこともさっぱりわかりません。正直、語り手ハンプ(ハンフリー)の去就はどうでもいいから、もっとラーセン船長の物語を聞きたいんですけど、と思ってしまうのでした。
ドラマ以外に特筆すべきは、アザラシ猟の描写です。ゴースト号は、毛皮が目的でアザラシを捕獲しているらしいのですが、その際、船から直接投網したり、銛を打ったりするのではなく、二人乗りの小型ボート(手漕ぎ、帆つき)で大海原に乗り出し、銃でもってしとめます。
アザラシの群を見つけたぞぉ! の合図と共に、船団を組んでわらわらと漕ぎ出していく小型ボート群はそれだけで圧巻ですが、小型ボートは、悪天候に弱いので、天候が急変すると急いで本船に回収しなければなりません。この回収の描写がダイナミックで手に汗握る迫力。
クレッチマンのワイルドバージョンもなかなかオツなものがありますので、画像をペッタリしておきますね。
by shirakian
| 2010-06-24 21:22
| 映画さ行