2010年 05月 04日
Love and Human Remains
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トーマス・ギブソン出演作。
1993年公開のDenys Arcand監督によるカナダの映画です。
日本版は出ていない模様。UK版で鑑賞。
なんとゆーか、この映画、ホッチが鳥肌がたつほど色っぽいので、トーマス・ギブソンもしくはホッチのファンの方なら、是非一度ご覧になって損はないかと。
ピアス、革のジャケット、チェーンスモーキング。片手で優雅にブックマッチを擦る姿にビックリしたり(失礼な。や、だって、ホッチってぶきっちょさんだと思ってたから(汗))。
ブラッド・フレーザーの絶賛された舞台劇がベースの映画で、ルームメイトにして元恋人であるふたりが中心的役割を演じている。 シニカルなゲイのデヴィッド(トーマス・ギブソン)は、テレビ俳優崩れのウェイターで、「愛」なんてものは存在しないと頑なに信じている。美しき書評家のキャンディ(ルース・マーシャル)は、いまだに深くデヴィッドを愛していながら、必死に愛を捜し求めている。
デヴィッドが働くレストランのウェイター見習い、17歳のケイン(マシュー・ファーガソン)は、デヴィッドに興味を抱き、魅了され、かれのゲイ的ライフスタイルに好奇心を抱いてまとわりついてくる。
デヴィッドのふたりの親友のうち、バーニー(キャメロン・バンクロフト)は夜毎に女を換えるプレイボーイ。SMの女王をしているベニータ(ミア・カーシュナー)は、サイキック能力者でもあった。
一方キャンディは、同時にふたりのパートナーを見つける。ひとりはバーテンダーのロバート(リック・ロバーツ)、もうひとりはレズビアンのジェリー(ジョアンヌ・ヴァニコラ)。
これら7人の若者たちのうちひとりが、恐らくシリアルキラーであると思われるのだが……。(ジャケ裏の解説より拙訳)。
若者たちの青春群像と平行して、街を震撼とさせた女性連続殺人事件のエピソードがからむのですが、あくまで主眼は、愛に不器用な若者たちの物語であって、ホッチが連続殺人鬼を追う! とかいうような話ではありません。フーダニットのサスペンスとしても、犯行が可能な人間が限られるため、犯人はすぐに割れる。つまりミステリとして作られたものではなく、ジャンル的にはむしろ、コメディに分類されてるっぽいです(18禁だけど)。
ホッチ(デヴィッドですが、以下ホッチで)とキャンディとの関係は、ホッチがゲイであることをカミングアウトして以来、恋人からただのルームメイトへとシフトしており、「今夜はブラインドデートなんだ♪」なんてことをあからさまに言うホッチに対し、キャンディが「釣果はどうだった?」と尋ねれば、「ブロンドをゲット~♪」と答えたりする関係なのですが、恋人以上の親密さと気遣いに包まれた不思議な空気が維持されています。
ホッチはキャンディの仕事を重んじ、ちゃんと食べてるのかとか、もっと外に出た方がいいとか、優しい気遣いを忘れない。ホッチがこんなひとだから、いくらゲイだと告白されても、キャンディはスッパリとあきらめきれない。ホッチにはもう何の愛情も残っていないのか、試してみたくなるときもある。
「セックスだけじゃなくてそれ以上のものが欲しい」
とキャンディが口火を切れば、
「だから神はTVを創り賜うたのさ」
のらりくらりと会話を逃げるホッチ。
「わたしのこと愛してる?」「愛してるんでしょ?」「愛してるってわかってるのよ?」とエスカレートしていくキャンディ。
「なんで今そんな話をするんだ?」ついに音をあげるホッチ。「もう寝るわ」傷ついて自室にひっこもうとするキャンディ。「お休みのキスは?」ポツンとつぶやくホッチに、投げキッスで返すキャンディ。なんとも微妙なふたりの関係。
恋人同士じゃないくせに、まるで新婚さんみたいにスーパーで一緒に買い物するふたり。ショッピングカートにもたれて新聞読みながら買い物につきあうくわえタバコのホッチ。実は知り合ったばかりのジェリーを家に招くつもりのキャンディ。ホッチの予定が気になります。
「今夜は仕事?」「ああ。なんで?」「ちょっと訊いてみただけ」
いかにもな雰囲気を漂わせつつ、オリーブだの牡蠣の燻製だの、普段なら買わない食材を買い込むキャンディ。ははぁ、こいつはオタノシミだな、と感づいて、「オマエ、誰だよ? キャンディに何をした?」ふざけてスーパーで大声を出すホッチ。「今夜、誰か招いたな? 白状しろよ、誰だい、例のバーテンダーか? ちがう? だったら噂のオナベの方か!?」
キャンディの動向が気になってしかたのないホッチだから、ふたりの部屋で、ロバートとジェリーが鉢合わせしてしまったときには大はしゃぎ! まさにシットコムのシチュエーションが展開されます。こういうシーンがあるからこの映画、コメディに分類されるのでしょうね。
このシーン、ホッチのかわいい台詞がいっぱいあるのですが、キリがないので一個だけ。
「30分は前に着いてなきゃならないのに」
ロバートの到着が遅れてソワソワするキャンディをニヤニヤ見守るホッチ。
「車がトラブったんじゃないか?」
「そんなに遠くには住んでいないわ」
「じゃ、足がトラブったんだ♪」
このときの、いたずらっこ丸出しの表情が、ものっそかわいいです(笑)。

一方、ホッチとケインの関係ですが。
ケインは以前ホッチが出ていたTVショーをビデオに撮って保存してるくらいのファンで、子犬みたいにまとわりついてくる。
ふんわりウェービーな長髪といい、クリンと大きな瞳といい、ほっそりと華奢な身体つきといい、Dr.リードの少年時代という感じの、とても美しい少年で、こんな子に懐かれて、ホッチだって嬉しくないわけがない。
だけど、なにしろ相手は「自称」18歳。パパの車で送ってくれるというので、上がってビールでも飲んでく? と誘えば、門限があるからダメなんて言う。ホッチとしてはどうしても踏み出す勇気がもてません。サイキック能力のある親友のベニータに頼んで、ケインのマインド・リーディングをしてもらったりする。
「あなた、テレビ、漫画本、恐れ」「それだけ?」「だってまだ17歳ですもの」「え? 18じゃなくて?」「かれはあなたが欲しいのよ。今この瞬間もあなたのことを考えてるわ。ほんとにあなたを愛しているのね」「愛なんてものは存在しないよ」
ケインの頭の中はホッチで一杯なのに、それを知らされても、やはり踏み込めないホッチ。ケインを残酷に弄ぶようなことをしてしまう。
ホッチの複雑な思いに気づけないお子ちゃまのケインは、かれの古傷をえぐるようなことをしてしまうのですが、それに復讐するかのように、「おまえはおれのことが怖いんだろ?」とケインを挑発し、怖くないならキスしてみろ、と強要するホッチ。
おずおずと伸び上がって(ホッチとケインは頭ひとつ身長差があるので)ホッチにキスするケインに、背を向けてズボンを下ろせ、とさらに残酷な要求をつきつけるホッチ。これにも従おうとするケインなのに、指一本触れようとせず、出て行ってしまうホッチ。
だけど、そんなホッチの仕打ちにもめげず、アプローチを続けるケインに、怖がってるのはあなたの方だ、と看破されてしまう。
そしてふたりの関係は、「結局、あの子、あなたにとって“誰”なの?」とキャンディに問われても、「おれにもまだはっきりわからない」と答えるしかないホッチなのです。
そうは言っても、ドラマの中核をなすのは、実はホッチとバーニーとの関係です。
もう恋人じゃなくなったキャンディとも、ただの友達のベニータとも、カジュアルに優しく唇でキスを交わし、ケインにキスを強要し、クラブでデートする相手とは濃厚なキスをするホッチなのに、唯一キス「しない」相手がバーニーなのです。
ホッチとバーニーは、バーニーがとっかえひっかえする女性のことをオープンに話題にするような「普通の友だち」の関係。なのに、バーニーはゲイじゃないのか、とひとに訊かれれば、ほんの一瞬言いよどんでしまうホッチ。もしかしてホッチは、バーニーへの思いがありながら、かれの性癖を知っている(と思い込んでいる)ゆえに、告げる言葉を持たなかったのかもしれない。だけど、ホッチが知ってると思い込んでいるバーニーの心には、半年前にホッチが演技の仕事を投げ出してしまってから、何かが燻っている様子。
何かにつけて、ホッチがウェイターをしていることに批判的な態度を隠さないバーニー。ホッチは例によって「給仕は尊敬されるべき専門職だ」なんて、のらくら逃げようとするんだけど、ほかのひととは違って、バーニーの追及は執拗です。バーニーにとって、ホッチがアクターであるということは、とっても大切なことだったらしい。なんとかホッチに演技の仕事に戻ってほしいようなのです。
追い込まれたホッチがポツリと漏らしたのは、「演技はいいんだ。でも、オーディションに耐えられない」……。
ホッチ、オーディションで一体何があったんだ(汗)。や、普通に考えても、オーディションはきついことだと思うし、屈辱的なことや割り切れないことも多いでしょうけど、ここまで嫌うというか、傷ついている様子を見ると、「役をやる代わりに言うことを聞け」みたいなことがあったんじゃないかと邪推してしまいます(具体的な言及はナイです、念のため)。
そしてやがて明らかにされる恐ろしい事実。
「一体何があったんだよ!?」と半泣きのホッチに、「おまえに棄てられてから、おれは変わってしまったんだ」と吐き棄てるバーニー。
「おまえを棄てた?」
「棄てたじゃないか! おまえはいつだって一番楽な道ばっかり選ぶんだ! みんなに覚えててもらおうなんて決してしやしない。おれはおまえのためにやったんだ。だって、おれは、おまえみたいになりたかったんだから。おれにできることはそれしかなかった。でも、これできっと、おまえはおれのこと忘れられやしないだろ?」
最後に"I love you"と告げて、ビルからジャンプしてしまうバーニー。
泣き崩れるホッチ。
そして……。
時が移ろい、冬になった街には、気持ちを新たにし、役者の道へ戻るため、オーディションを受ける決意をするホッチの姿がありました。そしてそんなホッチに寄り添うキャンディとケイン。
やっぱりできない、ドアの前まで来て尻込みするホッチに、大丈夫、頑張って、と両方から伸び上がって頬にキスする小柄なふたりと長身のホッチの、世にも愛らしいスリーショット。
そこでホッチは微笑んで、ふたりにそっと告げるのです、"I love you"と。
観終わったあと、心がしーんとして、それからほわーっとあったかくなる、ほんとにステキな映画です。
そして、トーマス・ギブソンが、コメディともちがう、FBIエージェントともちがう、ほんとに繊細な演技で魅了してくれます。
by shirakian
| 2010-05-04 20:17
| 映画ら行