2009年 12月 29日
Moviegoing 2009 作品編
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●印象に残った作品 ()内は監督名、50音順
01 アバウト・エリ(アスガー・ファルハディ)
02 イングロリアス・バスターズ(クエンティン・タランティーノ)
03 カールじいさんの空飛ぶ家(ピート・ドクター)
04 きみがぼくを見つけた日(ロベルト・シュヴェンケ)
05 グラン・トリノ(クリント・イーストウッド)
06 3時10分、決断のとき(ジェームズ・マンゴールド)
07 スペル(サム・ライミ)
08 スラムドッグ$ミリオネア(ダニー・ボイル)
09 チェンジリング(クリント・イーストウッド)
10 ディファイアンス(エドワード・ズウィック)
11 フロスト×ニクソン(ロン・ハワード)
12 BOY A(ジョン・クローリー)
13 レスラー(ダーレン・アロノフスキー)
14 レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで(サム・メンデス)
空中キャンプさんの企画に参加させていただいたので、今年はこの類のまとめ的なエントリーはもういいかな、とも思ったのですが、やっぱり季節物なので(?)、今年もひっそり私的なまとめをつぶやきたいと思います。
ここ数年、年間100スクリーンに届かない年が続いているので、今年こそ、と意気込んで、前半、せっせと劇場に通ったのですが、夏以降、映画どころじゃなくなってしまい、結局77本の鑑賞となりました。
いずれにしても、この雑文は2009年の映画界を総括する、などといった大それた企画ではなく、わたしが個人的に観た範囲で、個人的に印象に残った作品を列挙する、というだけの、ごくごく個人的なものですので、数が少ないのは見逃してください(汗)。
そして、もちろん、あくまで「印象に残った」作品・女優・男優についてのエントリーですから、優劣を述べる類のものでも(例年のごとく)ありません。(だから並べ方も50音順です)。
今年はやっぱりわたしの胸には『グラン・トリノ』が燦然と輝く年でした。観たときからこれはもしかして年間ベスト? と思った予感を裏切らず、ほんとにベスト作品となりました。イーストウッド翁、すばらしい映画をどうもありがとう。
結局感想をupできなかったのですが、『カールじいさんの空飛ぶ家』は、「何かが『失われた』ことを描くには、失われていない状態はどうであったのか、を説明する必要があります。喪失が別離なら共にいた時間を描かないことには、別離の辛さなんてだれにも伝わるはずがない。ところがこれは容易なことではなく、成功している例を未だ知らないと言っても過言ではないくらい。ある人がある人にとって、その人でなければならないほどに『特別』であることを描写するには、やはりある程度の描写の積み重ねが必要であり、短い『説明シーン』でそれを描くのは至難の業。」という、かねてからの持論を、見事にくつがえしてくれた映画として、わたしの映画鑑賞史(笑)に深く刻み込まれた一作でした。
とにかく、あの、冒頭10分間については、わたしはむしろ、奇跡、と呼びたい。
このリストは、たぶん、そんなにマイナーな作品やツウごのみの異色作が挙がってるわけでもないと思うのですが、映画祭で(のみ?)上映された『アバウト・エリ』についてだけ、ちょこっと言及しておきたいと思います。
去年は、『至上の掟』をリストにいれておきながらレビューをupしていなかったのですが、今年も同じ結果になってしまいました。『至上の掟』はトルコの映画でしたが、『アバウト・エリ』はイランの映画です。
この映画は、一言で言えば、ミニマリズムの極地、という映画です。登場人物、ロケーション、状況設定、すべてが極限までそぎ落とされて、ほんとぉにシンプル。ここまで「少ない駒」で一本の映画をなりたたせてしまった監督の力量とセンスには、心の底から脱帽してしまいます。
学生時代からの友人で、それぞれが結婚して子どもができても相変わらず仲のいいグループ。例年のようにみんなでバカンスを楽しむために繰り出したのだけれど、今年は、仲間のひとりが離婚したばかり。かれをなぐさめるべく、新しい彼女を紹介したいと思ったメンバーのひとりが、子どもの幼稚園の先生に声をかけて一緒に連れてきていたのでした。
この幼稚園の先生が「エリ」さんなんですが、食べ物の好き嫌いいから好きな映画や本や音楽まで、互いのことは互いに熟知しあっているメンバー全員の中で、彼女について知っているひとはひとりもいなかったのです。
ということで生じたある事件を描いたミステリータッチの、心優しい悲劇なんですが、このメンバーファミリーの演技の自然さには舌を巻きます。
それもそのはず、監督は、撮影に先立つ数ヶ月、役者さんたちを集めて合宿を行ったそうですが、そこでは脚本にもとづいた演技の練習などは一切せず、ただひたすら、かれらが過ごした学生時代、青春の日々から大人になっていく過程を、回顧し、想像し、隙間をうめ、実際にそれがあったかのごとく疑似体験することに費やしたのだそうです。 なるほど、それでこそ、とうなずけるリアリティです。
かれらの存在が迫真のリアリティを持っているがために、起こった事件(映画で描かれる事件としては、ごくつつましいものだと言っていいと思います)についての、一瞬も目が話せないサスペンスが持続するのです。
見事な映画でした。
最近、邦画ばかりが上映され、上映される邦画はテレビの焼き直しのようなものが多く、世界中の映画を楽しみたい人間には、ちょっと冬の到来を感じさせてしまいますが、それでも、映画が観られるって、なんて幸せなことなんだろう。
今年もまた、映画の神様、どうもありがとう。
■Moviegoing 2007 作品編
■Moviegoing 2008 作品編
01 アバウト・エリ(アスガー・ファルハディ)
02 イングロリアス・バスターズ(クエンティン・タランティーノ)
03 カールじいさんの空飛ぶ家(ピート・ドクター)
04 きみがぼくを見つけた日(ロベルト・シュヴェンケ)
05 グラン・トリノ(クリント・イーストウッド)
06 3時10分、決断のとき(ジェームズ・マンゴールド)
07 スペル(サム・ライミ)
08 スラムドッグ$ミリオネア(ダニー・ボイル)
09 チェンジリング(クリント・イーストウッド)
10 ディファイアンス(エドワード・ズウィック)
11 フロスト×ニクソン(ロン・ハワード)
12 BOY A(ジョン・クローリー)
13 レスラー(ダーレン・アロノフスキー)
14 レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで(サム・メンデス)
空中キャンプさんの企画に参加させていただいたので、今年はこの類のまとめ的なエントリーはもういいかな、とも思ったのですが、やっぱり季節物なので(?)、今年もひっそり私的なまとめをつぶやきたいと思います。
ここ数年、年間100スクリーンに届かない年が続いているので、今年こそ、と意気込んで、前半、せっせと劇場に通ったのですが、夏以降、映画どころじゃなくなってしまい、結局77本の鑑賞となりました。
いずれにしても、この雑文は2009年の映画界を総括する、などといった大それた企画ではなく、わたしが個人的に観た範囲で、個人的に印象に残った作品を列挙する、というだけの、ごくごく個人的なものですので、数が少ないのは見逃してください(汗)。
そして、もちろん、あくまで「印象に残った」作品・女優・男優についてのエントリーですから、優劣を述べる類のものでも(例年のごとく)ありません。(だから並べ方も50音順です)。
今年はやっぱりわたしの胸には『グラン・トリノ』が燦然と輝く年でした。観たときからこれはもしかして年間ベスト? と思った予感を裏切らず、ほんとにベスト作品となりました。イーストウッド翁、すばらしい映画をどうもありがとう。
結局感想をupできなかったのですが、『カールじいさんの空飛ぶ家』は、「何かが『失われた』ことを描くには、失われていない状態はどうであったのか、を説明する必要があります。喪失が別離なら共にいた時間を描かないことには、別離の辛さなんてだれにも伝わるはずがない。ところがこれは容易なことではなく、成功している例を未だ知らないと言っても過言ではないくらい。ある人がある人にとって、その人でなければならないほどに『特別』であることを描写するには、やはりある程度の描写の積み重ねが必要であり、短い『説明シーン』でそれを描くのは至難の業。」という、かねてからの持論を、見事にくつがえしてくれた映画として、わたしの映画鑑賞史(笑)に深く刻み込まれた一作でした。
とにかく、あの、冒頭10分間については、わたしはむしろ、奇跡、と呼びたい。
このリストは、たぶん、そんなにマイナーな作品やツウごのみの異色作が挙がってるわけでもないと思うのですが、映画祭で(のみ?)上映された『アバウト・エリ』についてだけ、ちょこっと言及しておきたいと思います。
去年は、『至上の掟』をリストにいれておきながらレビューをupしていなかったのですが、今年も同じ結果になってしまいました。『至上の掟』はトルコの映画でしたが、『アバウト・エリ』はイランの映画です。
この映画は、一言で言えば、ミニマリズムの極地、という映画です。登場人物、ロケーション、状況設定、すべてが極限までそぎ落とされて、ほんとぉにシンプル。ここまで「少ない駒」で一本の映画をなりたたせてしまった監督の力量とセンスには、心の底から脱帽してしまいます。
学生時代からの友人で、それぞれが結婚して子どもができても相変わらず仲のいいグループ。例年のようにみんなでバカンスを楽しむために繰り出したのだけれど、今年は、仲間のひとりが離婚したばかり。かれをなぐさめるべく、新しい彼女を紹介したいと思ったメンバーのひとりが、子どもの幼稚園の先生に声をかけて一緒に連れてきていたのでした。
この幼稚園の先生が「エリ」さんなんですが、食べ物の好き嫌いいから好きな映画や本や音楽まで、互いのことは互いに熟知しあっているメンバー全員の中で、彼女について知っているひとはひとりもいなかったのです。
ということで生じたある事件を描いたミステリータッチの、心優しい悲劇なんですが、このメンバーファミリーの演技の自然さには舌を巻きます。
それもそのはず、監督は、撮影に先立つ数ヶ月、役者さんたちを集めて合宿を行ったそうですが、そこでは脚本にもとづいた演技の練習などは一切せず、ただひたすら、かれらが過ごした学生時代、青春の日々から大人になっていく過程を、回顧し、想像し、隙間をうめ、実際にそれがあったかのごとく疑似体験することに費やしたのだそうです。 なるほど、それでこそ、とうなずけるリアリティです。
かれらの存在が迫真のリアリティを持っているがために、起こった事件(映画で描かれる事件としては、ごくつつましいものだと言っていいと思います)についての、一瞬も目が話せないサスペンスが持続するのです。
見事な映画でした。
最近、邦画ばかりが上映され、上映される邦画はテレビの焼き直しのようなものが多く、世界中の映画を楽しみたい人間には、ちょっと冬の到来を感じさせてしまいますが、それでも、映画が観られるって、なんて幸せなことなんだろう。
今年もまた、映画の神様、どうもありがとう。
■Moviegoing 2007 作品編
■Moviegoing 2008 作品編
by shirakian
| 2009-12-29 22:30