2008年 04月 17日
アメリカを売った男
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クリス・クーパー氏のファンなので、楽しみにしてた映画です。
とても見ごたえアリでした♪
対ソ諜報活動の最前線で管理官まで務めたロバート・ハンセン(クリス・クーパー)は、実はアメリカの重要機密をソ連に売っている売国奴であり、かれの密告によって50人ものアメリカスパイがKGBによって処刑されていた。FBIに25年も務めながらついにしっぽを掴ませなかったハンセンを現行犯で逮捕するため、監視の任務につかされたのがエリック・オニールことライアン・フィリップです。
というわけで、スパイ物ではあるのですが、もちろん007とは対極をなすような、地味で静かな心理劇です。超ハイテク秘密兵器が出てこないのはもとより、銃撃戦もカーチェイスも殺人も破壊もなし。ところがそれでも手に汗握るサスペンスフルな110分です。
サスペンスの拠って来る所以は人間そのものだと思われます。人間という複雑怪奇な存在自体がサスペンス。なにが善でなにが悪か、なにが真実でなにが嘘か、信仰とはなにか禁欲とはなにか愛とはなにか信頼とはなにか。
ハンセン逮捕からまだ7年、ほとぼりが冷めるどころか、関係者全員健在という状況では、実話ベースの話であっても、ドキュメンタリーにするわけにはいかず、当然フィクションという選択がなされていますが、だからこそ、人間心理の襞に入り込む、面白いドラマに仕上がっていて、圧倒的なリアリティを感じさせるのです。
ハンセンの「見張り役」としてオニールが抜擢されたのは、優秀であったことはもちろんですが、かれがカトリックであることが大きな要因でした。というのも、ハンセン自身も熱心なカトリック信者であったからです。
しかし、神の愛を信じ、神の道に背かず光の中を歩むべき熱心な信者は、性的には変質者であり、公的には国を裏切っていた。その、一筋縄ではいなかい複雑な側面が、この稀代の「裏切り者」を陰翳に富んだ、一種魅力的な人物に見せています。
過度の抑圧は反動を生む。それがハンセンに歪みをもたらしていた――――と推測することは容易で、作劇的にもそうした意図があるのはまちがいありませんが、だけど、単にそれだけ、と決め付けていないこともまた、このドラマの魅力になっていると思います。それが端的に現れるのが、逮捕された直後の車中でのハンセンの独白に近い告白です。
スパイに対する尋問は、協力的であればあるほど楽に済ませる、と「忠告」する元同僚は「特に動機については速やかに自白すべき」と「助言」します。それに対してハンセンは、「Maybe……」と繰り返しながら、さまざまな「可能性」について口にする。そのどれもが真実をついているようで、そのどれもが真実からは程遠いようでもある。真実なんて、そんなに簡単に顕わになるものではないと嘲笑うかのように。
まあ、とにかく、クリス・クーパー氏の演技、緻密にして重厚。今年のアカデミー賞は、ダニエル・デイ・ルイスとハビエル・バルデムという二人の怪物君と鉢合わせてしまったので、いいお仕事をしたほかの役者さんには誠にお気の毒、という年になりましたが、そうでなかったら、クーパー氏もかなり健闘したんじゃないかと思わせる演技です。
冷ややかで冷笑的で倣岸で極めてとっつきにくいキャラクターである故に、逆に、ふっと信頼を寄せられたり、弱さを覗かせたり、笑顔を見せられたりしたら、クラッときてしまう。真相を知っていてなお、ライアン・フィリップがかれを憎めなかった気持ちが痛いほどによぉくわかるのです。史上最悪の売国奴は、始末に困るくらいに魅力的な人物でもあった。
そしてそんなクーパー氏に一歩もひけをとらないライアン・フィリップもすばらしいんですよ! 一見青臭い、不安定なキャラクターに見えつつ、実はどうしてなかなかしたたか。嘘を憎みつつ、自らも、怪物・ハンセンをすら騙し得るほどの超絶巧みな嘘をつく。しかもつき通す。そうやって嘘をつきつつ、かれの中で、嘘とほんとうの垣根がどんどん崩れていく。その心理劇が、もう、めちゃめちゃエキサイティングで面白いです。……どうでもいいけど、あのふっくらしたセクシーな唇と、クルンとカールした素敵なまつ毛についても是非言及しておきたいと思います(笑)。(ちょっとジェンセン・アクレス氏を思わせるのよね(笑))。
あ、それと、ライアン・フィリップの上司を演じたローラ・リニーがまた、とてもいいです。クールでやり手だけど人間の体温を感じさせます。オフィスでのスーツ姿がとってもカッコイイですが、外のシーンでの毛糸のお帽がかわいいのであった。
とても見ごたえアリでした♪
対ソ諜報活動の最前線で管理官まで務めたロバート・ハンセン(クリス・クーパー)は、実はアメリカの重要機密をソ連に売っている売国奴であり、かれの密告によって50人ものアメリカスパイがKGBによって処刑されていた。FBIに25年も務めながらついにしっぽを掴ませなかったハンセンを現行犯で逮捕するため、監視の任務につかされたのがエリック・オニールことライアン・フィリップです。
というわけで、スパイ物ではあるのですが、もちろん007とは対極をなすような、地味で静かな心理劇です。超ハイテク秘密兵器が出てこないのはもとより、銃撃戦もカーチェイスも殺人も破壊もなし。ところがそれでも手に汗握るサスペンスフルな110分です。
サスペンスの拠って来る所以は人間そのものだと思われます。人間という複雑怪奇な存在自体がサスペンス。なにが善でなにが悪か、なにが真実でなにが嘘か、信仰とはなにか禁欲とはなにか愛とはなにか信頼とはなにか。
ハンセン逮捕からまだ7年、ほとぼりが冷めるどころか、関係者全員健在という状況では、実話ベースの話であっても、ドキュメンタリーにするわけにはいかず、当然フィクションという選択がなされていますが、だからこそ、人間心理の襞に入り込む、面白いドラマに仕上がっていて、圧倒的なリアリティを感じさせるのです。
ハンセンの「見張り役」としてオニールが抜擢されたのは、優秀であったことはもちろんですが、かれがカトリックであることが大きな要因でした。というのも、ハンセン自身も熱心なカトリック信者であったからです。
しかし、神の愛を信じ、神の道に背かず光の中を歩むべき熱心な信者は、性的には変質者であり、公的には国を裏切っていた。その、一筋縄ではいなかい複雑な側面が、この稀代の「裏切り者」を陰翳に富んだ、一種魅力的な人物に見せています。
過度の抑圧は反動を生む。それがハンセンに歪みをもたらしていた――――と推測することは容易で、作劇的にもそうした意図があるのはまちがいありませんが、だけど、単にそれだけ、と決め付けていないこともまた、このドラマの魅力になっていると思います。それが端的に現れるのが、逮捕された直後の車中でのハンセンの独白に近い告白です。
スパイに対する尋問は、協力的であればあるほど楽に済ませる、と「忠告」する元同僚は「特に動機については速やかに自白すべき」と「助言」します。それに対してハンセンは、「Maybe……」と繰り返しながら、さまざまな「可能性」について口にする。そのどれもが真実をついているようで、そのどれもが真実からは程遠いようでもある。真実なんて、そんなに簡単に顕わになるものではないと嘲笑うかのように。
まあ、とにかく、クリス・クーパー氏の演技、緻密にして重厚。今年のアカデミー賞は、ダニエル・デイ・ルイスとハビエル・バルデムという二人の怪物君と鉢合わせてしまったので、いいお仕事をしたほかの役者さんには誠にお気の毒、という年になりましたが、そうでなかったら、クーパー氏もかなり健闘したんじゃないかと思わせる演技です。
冷ややかで冷笑的で倣岸で極めてとっつきにくいキャラクターである故に、逆に、ふっと信頼を寄せられたり、弱さを覗かせたり、笑顔を見せられたりしたら、クラッときてしまう。真相を知っていてなお、ライアン・フィリップがかれを憎めなかった気持ちが痛いほどによぉくわかるのです。史上最悪の売国奴は、始末に困るくらいに魅力的な人物でもあった。
そしてそんなクーパー氏に一歩もひけをとらないライアン・フィリップもすばらしいんですよ! 一見青臭い、不安定なキャラクターに見えつつ、実はどうしてなかなかしたたか。嘘を憎みつつ、自らも、怪物・ハンセンをすら騙し得るほどの超絶巧みな嘘をつく。しかもつき通す。そうやって嘘をつきつつ、かれの中で、嘘とほんとうの垣根がどんどん崩れていく。その心理劇が、もう、めちゃめちゃエキサイティングで面白いです。……どうでもいいけど、あのふっくらしたセクシーな唇と、クルンとカールした素敵なまつ毛についても是非言及しておきたいと思います(笑)。(ちょっとジェンセン・アクレス氏を思わせるのよね(笑))。
あ、それと、ライアン・フィリップの上司を演じたローラ・リニーがまた、とてもいいです。クールでやり手だけど人間の体温を感じさせます。オフィスでのスーツ姿がとってもカッコイイですが、外のシーンでの毛糸のお帽がかわいいのであった。
by shirakian
| 2008-04-17 22:03
| 映画あ行