2015年 09月 25日
オーバードライヴ
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★ネタバレ注意★
『カリフォルニア・ダウン』公開を記念してロック様の映画をもう一本。
リック・ローマン・ウォー監督のアメリカ映画です。公開は2013年。
以下、allcinemaさんからあらすじを。
運送会社を営むジョンは、別れた妻に引き取られた18歳の息子ジェイソンが麻薬密売容疑で逮捕されたとの知らせを受ける。友人から送りつけられた荷物に麻薬が入っていたのだ。それは、売人の容疑を掛けられた友人が、誰かを密告すれば刑が軽くなるという制度を悪用するためにジェイソンをハメたものだった。無実のジェイソンは、このままだと最低10年の禁固刑となってしまう。なんとかしてジェイソンを救いたいと願うジョンは、連邦検事のキーガンに掛け合い、息子の代わりに麻薬犯罪者の逮捕に協力することに。こうしてジョンは運び屋を装い、危険な麻薬組織への潜入を試みるのだったが…。(/引用これまで)。
原題の"snitch"は密告者という意味。この場合、「誰かを密告すれば刑が軽くなるという制度を悪用」した「売人の容疑を掛けられた友人」のことを指しています。司法取引の弱点をつかれたのね。考えれば怖い話ではあるけれど、たぶん、さすがのアメリカ人も訴訟沙汰にはウンザリしてるんだと思うよ。だからどんどん司法取引で刑が確定されていってしまう。実話をもとにしたお話である由。
まず、キャストがなかなか豪華であります。
主演の、身体を張って息子を救い出す父親ジョン・マシューズにドウェイン・ジョンソン、元妻シルヴィーがCSI:NYのステラことメリーナ・カナカレデス、現妻アナリッサがMajor Crimesのエマ・リオスことナディーン・ヴェラスケス、ジョンに潜入捜査をさせる麻薬捜査官クーパーにバリー・ペッパー、ジョンの従業員で前科持ちだったためジョンの潜入捜査に巻き込まれてしまったダニエルにジョン・バーンサル、そして捜査の決定権を握る連邦検事ジョアン・キーガンにスーザン・サランドンといった布陣。
この顔ぶれでわかる通り、痛快ドンパチアクションではなく、かなりリアル寄りの潜入捜査ドラマです。逆に言うとロック様の肉体が生かされている話ではない。ドウェイン・ジョンソン演じるジョンは、肚のすわった漢気のあるタフな男ではあるんですが、この役をこなすのになにもあの体格である必要はなく、むしろ頼りないヤッピー風の人物の方がハラハラ感は増したかもしれない。マイティ・ロックを楽しみたければ、やっぱヘラクレスとかを観るべき? ヘラクレス、面白い?
ドウェイン・ジョンソンとメリーナ・カナカレデスは離婚した夫婦の役なんだけど、ほんとに、そもそもなんでこの二人結婚したのかしら、と訝りたくなるほど相性の悪さが滲み出ていてお見事です。そりゃ離婚するよね。恐らく、若かりし頃のシルヴィーが若かったジョンの肉体に目が眩んだ結果の気の迷い婚。子まで設けた男女間のケミストリーとかは全くない。元妻は元夫が離婚後成功して財を成したことを恨めしく思っていて、その妬み感情は母親が親権をとった息子にも刷り込まれているのが切ない。父親はそんな息子でもかわいいし、自分が引き取るべきだったと後悔しているんだけど、元妻に対してはもはや何の感情もない。
一方のナディーン・ヴェラスケスは、ドウェイン・ジョンソンとは若干年齢差を感じさせる若妻なんですが、こちらは、郊外に小じゃれた邸宅を構える成功したビジネスマンがトロフィーとして手に入れた伴侶、というイメージにピッタリです。リッチで頼もしい夫に頼り切っている素直でかわいい女。愛らしい娘を産んでくれていつも身ぎれいにしていてくれる理想の主婦。Major Crimesのエマ・リオスとはえらい違いです。いつもながらに女優さんて凄い、と思います。
この話は、密告によって濡れ衣を着せることが可能な法制度もどうかしているし、初犯・軽罪の若者が執行猶予もなくいきなり実刑判決をくらってしまうのもどうかしてるし、だからって父親の「嘆願」で一旦決まった刑期が全てチャラになるのもどうかしてるし、その父親の「嘆願」だけど、息子を助けたいからって警察関係者でもないのに潜入捜査をやろうというのもどうかしてるし、それ以上にそのどうかしている計画を認めてしまう連邦検事が一番どうかしてるんだけど、結局よくある話、近づく選挙での再選のため功を焦っての暴挙だった、ということらしいです。
連邦検事のキーガンは、自分の懐は全く傷めずに手柄だけ得られるのだから、喜んでジョンの申し出を受け入れたばかりか、わかっていてジョンを見殺しにしようとすらする大変腹黒い女です。そんなキーガンがボスで、実際にジョンと仕事をするはめになる麻薬捜査官のクーパーの板挟みの立場がお気の毒。それにしてもクーパー、ヘンな顎鬚はやしてたなぁ。実話がもとになっているのだから、実在の人物を模しているのかなぁ。
全体を通して一番気になったのは、ジョンがダニエルを利用するやり口があまりにアンフェアだったことです。
麻薬密売組織に入り込むにあたり、ジョンは元売人だったダニエルに橋渡しを頼むのだけど、こちらの予想としては、いくら息子を助けたい一心で切羽詰まっていたとはいえ、そこはそれ、頼りになる男、ドウェイン・ジョンソンのすることですから、全ての事情を正直に話し、リスクもきちんと把握して、それに対する十分なセーフティネットを張った上で、土下座してダニエルに頼むものだとばかり思っていたのに、実際は完全な騙し討ち。息子の事情は伏せた上で、報酬はたったの2万ドルぽっち。犯罪から足を洗い、妻子と共にまっとうに生きて行こうとしていた矢先の足元をすくうような真似をしておきながら、しかも、事が露見すればダニエル自身はおろか、妻子の身にも危険が降りかかることは承知の上でのこの仕打ち。ロック様、せこい。
怒り心頭でもおかしくないところ、しかしダニエルはジョンが警察の犬であることを組織には黙り通し、尚且つ、かつて直接自分のボスであったマリクマリーク(マイケル・K・ウィリアムズ)に対しては自分の手で決着をつけるオトコマエ。かつては犯罪者だったかもしれないけれど、今はほんとうに心を入れ替え、妻子を愛し、大切にしている様子が丹念に描かれていましたので、そんなかれが「自分の家族を守るため」闘う姿には胸を打たれます。ダニエルには「自分の家族」のためだけにエゴを通す資格がある。ジョン・バーンサルが大変好演でした。この映画の功労者はかれだと思うよ。
ところでこれって実話ベースですよね? だったら、この映画のジョンのモデルになった人物って、潜入捜査を成功させた後、ほんとに証人保護プログラムを受けることになったんですよね? 映画になんかしちゃって大丈夫なのかしら? ちょっと気になってしまったのだけど。
気になったと言えばこの邦題もどうなんだろうね?
2004年公開の邦画で全く同じタイトルのがあるでしょ? 三味線のやつ。 "overdrive"という単語自体は、車などを過負荷で酷使するってことだから、一般人のジョンが大物麻薬組織に挑むというミッションそのものを指す言葉として違和感のないものだし、クライマックスのカーアクションなんかは文字通りオーバードライヴ状態だったし、タイトルとして悪くはないと思うんだけど、先述した通り、原題は全然別のタイトルだし、敢えてそれを無視してまで先行作品と全く同じタイトルをつけるというのはどういう考えなんだろう。
『カリフォルニア・ダウン』公開を記念してロック様の映画をもう一本。
リック・ローマン・ウォー監督のアメリカ映画です。公開は2013年。
以下、allcinemaさんからあらすじを。
運送会社を営むジョンは、別れた妻に引き取られた18歳の息子ジェイソンが麻薬密売容疑で逮捕されたとの知らせを受ける。友人から送りつけられた荷物に麻薬が入っていたのだ。それは、売人の容疑を掛けられた友人が、誰かを密告すれば刑が軽くなるという制度を悪用するためにジェイソンをハメたものだった。無実のジェイソンは、このままだと最低10年の禁固刑となってしまう。なんとかしてジェイソンを救いたいと願うジョンは、連邦検事のキーガンに掛け合い、息子の代わりに麻薬犯罪者の逮捕に協力することに。こうしてジョンは運び屋を装い、危険な麻薬組織への潜入を試みるのだったが…。(/引用これまで)。
原題の"snitch"は密告者という意味。この場合、「誰かを密告すれば刑が軽くなるという制度を悪用」した「売人の容疑を掛けられた友人」のことを指しています。司法取引の弱点をつかれたのね。考えれば怖い話ではあるけれど、たぶん、さすがのアメリカ人も訴訟沙汰にはウンザリしてるんだと思うよ。だからどんどん司法取引で刑が確定されていってしまう。実話をもとにしたお話である由。
まず、キャストがなかなか豪華であります。
主演の、身体を張って息子を救い出す父親ジョン・マシューズにドウェイン・ジョンソン、元妻シルヴィーがCSI:NYのステラことメリーナ・カナカレデス、現妻アナリッサがMajor Crimesのエマ・リオスことナディーン・ヴェラスケス、ジョンに潜入捜査をさせる麻薬捜査官クーパーにバリー・ペッパー、ジョンの従業員で前科持ちだったためジョンの潜入捜査に巻き込まれてしまったダニエルにジョン・バーンサル、そして捜査の決定権を握る連邦検事ジョアン・キーガンにスーザン・サランドンといった布陣。
この顔ぶれでわかる通り、痛快ドンパチアクションではなく、かなりリアル寄りの潜入捜査ドラマです。逆に言うとロック様の肉体が生かされている話ではない。ドウェイン・ジョンソン演じるジョンは、肚のすわった漢気のあるタフな男ではあるんですが、この役をこなすのになにもあの体格である必要はなく、むしろ頼りないヤッピー風の人物の方がハラハラ感は増したかもしれない。マイティ・ロックを楽しみたければ、やっぱヘラクレスとかを観るべき? ヘラクレス、面白い?
ドウェイン・ジョンソンとメリーナ・カナカレデスは離婚した夫婦の役なんだけど、ほんとに、そもそもなんでこの二人結婚したのかしら、と訝りたくなるほど相性の悪さが滲み出ていてお見事です。そりゃ離婚するよね。恐らく、若かりし頃のシルヴィーが若かったジョンの肉体に目が眩んだ結果の気の迷い婚。子まで設けた男女間のケミストリーとかは全くない。元妻は元夫が離婚後成功して財を成したことを恨めしく思っていて、その妬み感情は母親が親権をとった息子にも刷り込まれているのが切ない。父親はそんな息子でもかわいいし、自分が引き取るべきだったと後悔しているんだけど、元妻に対してはもはや何の感情もない。
一方のナディーン・ヴェラスケスは、ドウェイン・ジョンソンとは若干年齢差を感じさせる若妻なんですが、こちらは、郊外に小じゃれた邸宅を構える成功したビジネスマンがトロフィーとして手に入れた伴侶、というイメージにピッタリです。リッチで頼もしい夫に頼り切っている素直でかわいい女。愛らしい娘を産んでくれていつも身ぎれいにしていてくれる理想の主婦。Major Crimesのエマ・リオスとはえらい違いです。いつもながらに女優さんて凄い、と思います。
この話は、密告によって濡れ衣を着せることが可能な法制度もどうかしているし、初犯・軽罪の若者が執行猶予もなくいきなり実刑判決をくらってしまうのもどうかしてるし、だからって父親の「嘆願」で一旦決まった刑期が全てチャラになるのもどうかしてるし、その父親の「嘆願」だけど、息子を助けたいからって警察関係者でもないのに潜入捜査をやろうというのもどうかしてるし、それ以上にそのどうかしている計画を認めてしまう連邦検事が一番どうかしてるんだけど、結局よくある話、近づく選挙での再選のため功を焦っての暴挙だった、ということらしいです。
連邦検事のキーガンは、自分の懐は全く傷めずに手柄だけ得られるのだから、喜んでジョンの申し出を受け入れたばかりか、わかっていてジョンを見殺しにしようとすらする大変腹黒い女です。そんなキーガンがボスで、実際にジョンと仕事をするはめになる麻薬捜査官のクーパーの板挟みの立場がお気の毒。それにしてもクーパー、ヘンな顎鬚はやしてたなぁ。実話がもとになっているのだから、実在の人物を模しているのかなぁ。
全体を通して一番気になったのは、ジョンがダニエルを利用するやり口があまりにアンフェアだったことです。
麻薬密売組織に入り込むにあたり、ジョンは元売人だったダニエルに橋渡しを頼むのだけど、こちらの予想としては、いくら息子を助けたい一心で切羽詰まっていたとはいえ、そこはそれ、頼りになる男、ドウェイン・ジョンソンのすることですから、全ての事情を正直に話し、リスクもきちんと把握して、それに対する十分なセーフティネットを張った上で、土下座してダニエルに頼むものだとばかり思っていたのに、実際は完全な騙し討ち。息子の事情は伏せた上で、報酬はたったの2万ドルぽっち。犯罪から足を洗い、妻子と共にまっとうに生きて行こうとしていた矢先の足元をすくうような真似をしておきながら、しかも、事が露見すればダニエル自身はおろか、妻子の身にも危険が降りかかることは承知の上でのこの仕打ち。ロック様、せこい。
怒り心頭でもおかしくないところ、しかしダニエルはジョンが警察の犬であることを組織には黙り通し、尚且つ、かつて直接自分のボスであったマリクマリーク(マイケル・K・ウィリアムズ)に対しては自分の手で決着をつけるオトコマエ。かつては犯罪者だったかもしれないけれど、今はほんとうに心を入れ替え、妻子を愛し、大切にしている様子が丹念に描かれていましたので、そんなかれが「自分の家族を守るため」闘う姿には胸を打たれます。ダニエルには「自分の家族」のためだけにエゴを通す資格がある。ジョン・バーンサルが大変好演でした。この映画の功労者はかれだと思うよ。
ところでこれって実話ベースですよね? だったら、この映画のジョンのモデルになった人物って、潜入捜査を成功させた後、ほんとに証人保護プログラムを受けることになったんですよね? 映画になんかしちゃって大丈夫なのかしら? ちょっと気になってしまったのだけど。
気になったと言えばこの邦題もどうなんだろうね?
2004年公開の邦画で全く同じタイトルのがあるでしょ? 三味線のやつ。 "overdrive"という単語自体は、車などを過負荷で酷使するってことだから、一般人のジョンが大物麻薬組織に挑むというミッションそのものを指す言葉として違和感のないものだし、クライマックスのカーアクションなんかは文字通りオーバードライヴ状態だったし、タイトルとして悪くはないと思うんだけど、先述した通り、原題は全然別のタイトルだし、敢えてそれを無視してまで先行作品と全く同じタイトルをつけるというのはどういう考えなんだろう。
by shirakian
| 2015-09-25 20:44
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