2015年 04月 09日
ジュピター
|
★ネタバレ注意★
ウォシャウスキーきょうだいの最新作!
ということで、わたくし的には、ボジョレヌーボー解禁! とか、ワールドカップ開幕! ぐらいのイベント感があったのですが、世間的にはそれほどでもなかったのかしら? 劇場がガラガラだったので、あれれ? と肩すかしだったのですが。
ロシアからの不法移民であるジュピター(ミラ・クニス)は、清掃員の仕事をしながら母親を初めとする叔父叔母従兄弟の一族郎党がわんさとひしめく小さな家で共同生活をしていた。朝は暗いうちから起き、自分の部屋すらなく、他人の邸宅のトイレを掃除する毎日。そんな彼女の口癖は「こんな人生まっぴら」。ある日、遊ぶ金ほしさの従兄弟に唆され、不妊クリニックに卵子を売りに行ったジュピターは、まるでLotRのゴレムみたいな謎の生き物に襲撃されたところを、これまた謎の尖り耳の男ケイン・ワイズ(チャニング・テイタム)に助けられる。あまりの急展開に現状認識もままならぬうちに、ジュピターは宇宙最大の王族の後継者争いに巻き込まれてしまうのだが。
というお話。
出演者はほかに、映画冒頭で死亡したジュピターの父親にジェームズ・ダーシー、ケインと同じくジュピターを狙っているハンターだか傭兵だかコントラクトキラーだかにペ・ドゥナという『クラウドアトラス』組の顔が見えるほか、ケインの元上官であるスティンガーにショーン・ビーン、宇宙最大の王族の筆頭継承者である長男バレムにエディ・レッドメインという顔ぶれ。
予告編では結構ショーン・ビーンの扱いが大きかったので、それなりに期待していたのですが、そんなに大事な役というわけでもなく、特に見せ場があるというわけでもなく、面白い台詞やアクションがあるというわけでもないけれど、なんだかんだで最後まで細々と出てきます。なにより死なないです。繰り返します。ショーン・ビーンが死なないです。エンタメ系の映画に出て死ななかったためしのないショーン・ビーンが、「生き残れるか」ではなく「どんな死に方をするか」が興味の対象であるはずのショーン・ビーンが、最後まで死なないのです。これは特筆すべきことかもしらんね。
さてそんなこの映画ですけれども、映像は華やかだったけど、お話はどうにもこうにも退屈だった印象。なにがいけないって、ぐだぐだぐだぐだ台詞であれこれ説明しすぎる上に、その説明の段取りがまたもたもたもたもた手間取るし、段取りが悪いだけならまだしも、内容がまた目新しさが全くない上に類似情報の繰返しが多く、長台詞の割に台詞自体に情報量があんまりない。本来的にはアクションメインのイベントムービーなのに空疎な長台詞に阻害されてテンポが著しく悪く、どんなにチャニング・テイタムが反重力シューズで縦横無尽に駆け回っても、ドラマ的には疾走感が皆無なのです。
ストーリーがだれるのはたぶん、脚本も悪いけど編集も悪い。これと同じフィルムを『アメリカン・スナイパー』の編集をしたひとに渡したら、全く別の映画に仕上がっただろうになぁ。(そりゃそうだ、別の映画だ)。
映像についても、大作感のある物凄い映像ではあるけれど、オドロキがまるでないのが逆にびっくり。ザ・ウォシャウスキーズ、一体どうしちゃったの。
あと、字幕が若干雑だったのではあるまいか。いやさ、戸棚字幕ほどひっかかりはしないのだけど、あちこち結構「ん?」って思うことがあって、たとえば、陛下と尊称する相手に対する二人称が「君」っていうのはアリなのかしら、とか、何も知らないミラ・クニスにショーン・ビーンが「地球人類の成り立ち」という(陳腐きわまりない)解説をするシーンで、「あんたの一味が恐竜を殺したの!?」と憤るクニスに対して、今まで普通の口調で話していたビーンが唐突に「さようでございます、陛下」って言う字幕が、一体何事? と違和感ありまくりなんだけど、実際の台詞は「厳密に言うと、あなたの一味です、陛下」なので、意訳なのだとしてもどういう意図だろう、ちょっとわかりにくい。
まあしかし、ストーリーが退屈でも映像やアクションにオドロキがなくても、キャラクターさえよければわたくしのごときキャラ観ミーハーは楽しんで鑑賞することができるんだけど、この映画はキャラクター描写も弱かったかなぁ。
狼とのハイブリッドで人間っていうより犬に近い存在なんだと自認するチャニング・テイタムは、始終無表情で感情表現に乏しく、ストイックとかクールとか言うより陰気で魯鈍な感じに見えるし、テイタムの元上官を演じたショーン・ビーンに関しては、主人公より年長の男ということで、ワイズマンかタフガイ(いずれにしても主人公を導く存在)の役割が期待されるのに、実際は何の役にも立たないなぜきみはそこにいる的キャラだし(善人そうだったのは何よりですが)、一番困るのはヒロインのミラ・クニスがとにかくひたすら何もしない、ということだぁよ。そりゃ、いきなり戦ったり陰謀を巡らしたり扇動したりなんて、できる方がおかしいわけで、右往左往してるだけ、っていうのはある意味正解ではあるんだけど、無駄に目力の強いヒロインが、結局やっぱり何にもしませんでした、というのでは冒険活劇としてはあまりに残念すぎる。
そんな中、ひとり怪気炎を上げていたのがエディ・レッドメインです。
ホーキング博士を演じた後、太る暇がなかったのか(撮影時期的にどっちが先だったのかは知りませんが)今にも折れそうな華奢な身体に、憂愁に閉ざされた面差し。かすれた声でアンニュイに喋っていたかと思うと、突如感情を爆発させる不安定さ。何万年も生きすぎて細胞があちこちヤバイことになってるんじゃないかと健康状態が心配になると同時に、精神面に関しても不安を抱かせるようなキャラクターで、しかしそれでも、実は悪魔のように頭のきれる男で、壮大な規模の陰謀を企んでいるのではないかと思いきや、蓋をあけてみれば、すでに手にしている莫大な富を弟とも妹とも分かち合いたくなくて駄々をこねているだけだったという困ったちゃんだったのでした。この困ったちゃん、一応ラスボスって言えばラスボスなんだけど、肉体的に全く強くない以上に精神的にもヘタレなんです。いまだかつてこれほどヘタレな悪役がいたであろうかっていうぐらい、もう見事なまでにヘタレなんです。もしかしたら悪役名鑑に残るかもしれない大変面白いキャラクターでした。
お話としては結局、ほんとうの幸せは常にあなたの身近にあったのです、という青い鳥的教訓話に帰着した模様。トイレ掃除に明け暮れる日々の鬱憤を、翼のはえた恋人とビルの上空を駆け回って発散することで、トイレ掃除に明け暮れる毎日を楽しく生きていけるヒロインなのでした。めでたしめでたし。
……小さい。あれだけ大騒ぎしておきながら……。
・ジュピター@ぴあ映画生活
ウォシャウスキーきょうだいの最新作!
ということで、わたくし的には、ボジョレヌーボー解禁! とか、ワールドカップ開幕! ぐらいのイベント感があったのですが、世間的にはそれほどでもなかったのかしら? 劇場がガラガラだったので、あれれ? と肩すかしだったのですが。
ロシアからの不法移民であるジュピター(ミラ・クニス)は、清掃員の仕事をしながら母親を初めとする叔父叔母従兄弟の一族郎党がわんさとひしめく小さな家で共同生活をしていた。朝は暗いうちから起き、自分の部屋すらなく、他人の邸宅のトイレを掃除する毎日。そんな彼女の口癖は「こんな人生まっぴら」。ある日、遊ぶ金ほしさの従兄弟に唆され、不妊クリニックに卵子を売りに行ったジュピターは、まるでLotRのゴレムみたいな謎の生き物に襲撃されたところを、これまた謎の尖り耳の男ケイン・ワイズ(チャニング・テイタム)に助けられる。あまりの急展開に現状認識もままならぬうちに、ジュピターは宇宙最大の王族の後継者争いに巻き込まれてしまうのだが。
というお話。
出演者はほかに、映画冒頭で死亡したジュピターの父親にジェームズ・ダーシー、ケインと同じくジュピターを狙っているハンターだか傭兵だかコントラクトキラーだかにペ・ドゥナという『クラウドアトラス』組の顔が見えるほか、ケインの元上官であるスティンガーにショーン・ビーン、宇宙最大の王族の筆頭継承者である長男バレムにエディ・レッドメインという顔ぶれ。
予告編では結構ショーン・ビーンの扱いが大きかったので、それなりに期待していたのですが、そんなに大事な役というわけでもなく、特に見せ場があるというわけでもなく、面白い台詞やアクションがあるというわけでもないけれど、なんだかんだで最後まで細々と出てきます。なにより死なないです。繰り返します。ショーン・ビーンが死なないです。エンタメ系の映画に出て死ななかったためしのないショーン・ビーンが、「生き残れるか」ではなく「どんな死に方をするか」が興味の対象であるはずのショーン・ビーンが、最後まで死なないのです。これは特筆すべきことかもしらんね。
さてそんなこの映画ですけれども、映像は華やかだったけど、お話はどうにもこうにも退屈だった印象。なにがいけないって、ぐだぐだぐだぐだ台詞であれこれ説明しすぎる上に、その説明の段取りがまたもたもたもたもた手間取るし、段取りが悪いだけならまだしも、内容がまた目新しさが全くない上に類似情報の繰返しが多く、長台詞の割に台詞自体に情報量があんまりない。本来的にはアクションメインのイベントムービーなのに空疎な長台詞に阻害されてテンポが著しく悪く、どんなにチャニング・テイタムが反重力シューズで縦横無尽に駆け回っても、ドラマ的には疾走感が皆無なのです。
ストーリーがだれるのはたぶん、脚本も悪いけど編集も悪い。これと同じフィルムを『アメリカン・スナイパー』の編集をしたひとに渡したら、全く別の映画に仕上がっただろうになぁ。(そりゃそうだ、別の映画だ)。
映像についても、大作感のある物凄い映像ではあるけれど、オドロキがまるでないのが逆にびっくり。ザ・ウォシャウスキーズ、一体どうしちゃったの。
あと、字幕が若干雑だったのではあるまいか。いやさ、戸棚字幕ほどひっかかりはしないのだけど、あちこち結構「ん?」って思うことがあって、たとえば、陛下と尊称する相手に対する二人称が「君」っていうのはアリなのかしら、とか、何も知らないミラ・クニスにショーン・ビーンが「地球人類の成り立ち」という(陳腐きわまりない)解説をするシーンで、「あんたの一味が恐竜を殺したの!?」と憤るクニスに対して、今まで普通の口調で話していたビーンが唐突に「さようでございます、陛下」って言う字幕が、一体何事? と違和感ありまくりなんだけど、実際の台詞は「厳密に言うと、あなたの一味です、陛下」なので、意訳なのだとしてもどういう意図だろう、ちょっとわかりにくい。
まあしかし、ストーリーが退屈でも映像やアクションにオドロキがなくても、キャラクターさえよければわたくしのごときキャラ観ミーハーは楽しんで鑑賞することができるんだけど、この映画はキャラクター描写も弱かったかなぁ。
狼とのハイブリッドで人間っていうより犬に近い存在なんだと自認するチャニング・テイタムは、始終無表情で感情表現に乏しく、ストイックとかクールとか言うより陰気で魯鈍な感じに見えるし、テイタムの元上官を演じたショーン・ビーンに関しては、主人公より年長の男ということで、ワイズマンかタフガイ(いずれにしても主人公を導く存在)の役割が期待されるのに、実際は何の役にも立たないなぜきみはそこにいる的キャラだし(善人そうだったのは何よりですが)、一番困るのはヒロインのミラ・クニスがとにかくひたすら何もしない、ということだぁよ。そりゃ、いきなり戦ったり陰謀を巡らしたり扇動したりなんて、できる方がおかしいわけで、右往左往してるだけ、っていうのはある意味正解ではあるんだけど、無駄に目力の強いヒロインが、結局やっぱり何にもしませんでした、というのでは冒険活劇としてはあまりに残念すぎる。
そんな中、ひとり怪気炎を上げていたのがエディ・レッドメインです。
ホーキング博士を演じた後、太る暇がなかったのか(撮影時期的にどっちが先だったのかは知りませんが)今にも折れそうな華奢な身体に、憂愁に閉ざされた面差し。かすれた声でアンニュイに喋っていたかと思うと、突如感情を爆発させる不安定さ。何万年も生きすぎて細胞があちこちヤバイことになってるんじゃないかと健康状態が心配になると同時に、精神面に関しても不安を抱かせるようなキャラクターで、しかしそれでも、実は悪魔のように頭のきれる男で、壮大な規模の陰謀を企んでいるのではないかと思いきや、蓋をあけてみれば、すでに手にしている莫大な富を弟とも妹とも分かち合いたくなくて駄々をこねているだけだったという困ったちゃんだったのでした。この困ったちゃん、一応ラスボスって言えばラスボスなんだけど、肉体的に全く強くない以上に精神的にもヘタレなんです。いまだかつてこれほどヘタレな悪役がいたであろうかっていうぐらい、もう見事なまでにヘタレなんです。もしかしたら悪役名鑑に残るかもしれない大変面白いキャラクターでした。
お話としては結局、ほんとうの幸せは常にあなたの身近にあったのです、という青い鳥的教訓話に帰着した模様。トイレ掃除に明け暮れる日々の鬱憤を、翼のはえた恋人とビルの上空を駆け回って発散することで、トイレ掃除に明け暮れる毎日を楽しく生きていけるヒロインなのでした。めでたしめでたし。
……小さい。あれだけ大騒ぎしておきながら……。
・ジュピター@ぴあ映画生活
by shirakian
| 2015-04-09 00:31
| 映画さ行