2014年 04月 29日
ハイ・クライムズ
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★ネタバレ注意★
2002年、カール・フランクリン監督作品。
ジム・カヴィーゼルの出演作です。
主演はアシュレイ・ジャッド、そしてモーガン・フリーマン。
1997年の『コレクター』、1999年の『ダブル・ジョパディー』、1999年の『氷の接吻』、2004年の『ツイステッド』と、90年代の後半から2000年代にかけて、アシュレイ・ジャッドのクライム・サスペンスが立て続けに公開されたのですが、この映画もその流れの一本。
クレア(アシュレイ・ジャッド)とトム(ジム・カヴィーゼル)のキュービック夫妻は、妻は敏腕弁護士、夫は建設会社を経営するリッチなカップル。マリブ郡の森の中に快適な家を構えて幸せに暮らしていた。夫妻の目下の興味は子作り。懐妊可能日ともあれば寸暇を惜しんで共同作業に精を出す仲睦まじい日々だった。
しかしそんなある日、ふたりの城に泥棒が入り、警察の捜査が入ったために、トムの指紋が当局に知られるところとなり、驚くべき事実が判明する。なんとその指紋は、指名手配犯のロナルド・チャップマンのものと一致したのだ。
チャップマンの容疑は9人もの民間人の多重殺人。1988年当時、海兵隊特殊部隊員としてエルサルバドルに赴任していたチャップマンは、現地の民間人を虐殺したというのである。
トムことロナルドは、軍から逃亡し、名を偽ってクレアと結婚した事は認めたが、殺人の事実だけは頑として否定、無実の証明のためにはポリグラフの検査も厭わなかった。夫の無実を信じたクレアは、軍事裁判に詳しい元軍人弁護士のチャーリー・グライムス(モーガン・フリーマン)を協力者に得る。しかし軍には何やら隠蔽したい事実があるらしく、容赦ない妨害工作を仕掛けてくる。
かくてクレアとチャーリーは、自らの命をもかけて困難な裁判に挑む。
海兵隊、特殊部隊、エルサルバドル、とくればもう、陰謀とか隠蔽とか、悪い展開しか予測できませんが、この物語もそういったバリエーションの一つです。
前提や経過にさほどの新味がないということに加えて、結論的にも、軍部の隠蔽工作が真っ向から糾弾されることもなければ、一方で殺人事件の犯人の方もまた司直の手によって裁かれるということもなく、どちらも有耶無耶のまま、臭い物には蓋をする式の終え方をしてしまう裁判そのものの流れが、どうにもモヤモヤとすっきりしません。なので、サスペンスとしては可もなく不可もなくといった印象です。
などと上から目線で偉そうなことを言っておりますが、ジム・カヴィーゼルとしてはかなりお得な一本。何と言ってもカヴィーゼルが一粒で三度おいしい☆
一つ目は、幸せな結婚生活を送る理想のハズバンドとしてのジムです。
物語冒頭でのジム(ってか、トムなのかロンなのか)は、アシュレイ・ジャッド演じるポジティブでアクティブでアグレッシブな妻をふんわり包んで受け止める優しい夫です。常に穏やかな微笑を絶やさず、ふたりしてクリスマスショッピングに出かければ、98%は妻のものに違いないてんこ盛りの買い物荷物を全て軽々と持ってくれるナイトっぷり。
さきほど、「懐妊可能日ともあれば寸暇を惜しんで共同作業に精を出す仲睦まじい日々」とか言う不自然な書きかたをしましたが、これは文字通り描写がこういう風なのでこういう書きかたになったのですが、子どもがほしくてたまらないクレアは、基礎体温の測定結果をもとに、まさに今日がその日と見れば、出勤前のわずかな時間に夫に突撃するわけです。
「7分ですませるわよ!」
「10分に延長できないか?」
「9分半!」
「承知した」
などという情緒のない行為をしかけてくる妻の行動は、もはや「種付け」という単語を彷彿とさせたりもするのに、決してめげない妻ラブな男。(後の展開を見れば実際この時クレアは妊娠してるっぽいので、トムってばある意味、ものっそ有能。ジム・カヴィーゼルってば、何をやらせてもものっそ有能)。
そして、ふたりのデートのシーンで、酒場でビリヤード対決している場面があるのですが、この時トムは、器用に両手を使ってキューを操ってみせます。このシーンは一見、やぁだぁ、利き手じゃなくても打てるなんてズル~い、ハハハ、参ったか! みたいな微笑ましい夫婦のやりとりを描いているかに見えるのですが、実はこれが後の重要な伏線になっています。
実際カヴィーゼルは両手が使える人で、『パーソン・オブ・インタレスト』の無敵の膝撃ち男ジョン・リースもまた、右手でも左手でも、その時々で最も撃ちやすいポジションで銃を構える姿が印象的です。こんなヤツ敵に回すの、ほんとイヤ。
二つ目のフェーズはよるべなき子犬の目をしたジム。
ロンが犯したとされる犯罪で有罪判決が出たら、死刑を免れることはできません。ロンとしては何としても自らの無実を優秀な弁護士である妻に信じてもらわなければなりませんでした。まさにクレアこそ、かれの唯一の希望だったのです。当然クレアを見る目は縋るようなものになります。
君に嘘をついていたことは本当に悪かった。でも信じてほしい。おれは絶対に冷酷な殺人鬼なんかじゃない。
かくてロンは、スレートブルーの目をけぶらせ、長い睫毛をしとどに濡らして、クレアを見つめてほろほろと泣くのです。これはアカン。こんなん見せられたら、目の前で現行犯逮捕されたって無実を信じてしまいそうだわ。
そして三つ目は(やっぱりそうだった)冷酷な性格破綻者としてのジム。
軍が、自分たちのしでかしたドジを隠蔽するために施した数々の工作はともかく、エルサルバドルの山村で9人もの村人を虐殺した真犯人に関しては、様々なひとの口から、様々な情況で、共通する証言が語られていきます。
曰く、犯人は冷酷な男で、片手から片手へ器用に銃を投げ渡し、弄びながら、村人たちを竦み上がらせ、そして殺した。
曰く、目撃者である夫の下を訪れ、口封じのために殺した犯人は、何か物を、片手から片手へと器用に投げ渡す特徴的な仕種が印象的だったので、それがかれだとすぐにわかった。
片手から片手へ。両手が使える器用な男。
ビリヤードのキューを両手で自在に操れる男。
殺人事件とは別の、軍の隠蔽工作のために、裁判自体が取り下げられ、無罪放免となったロンでしたが、やはり虐殺の犯人はこの男だった。男は、軍の命令によるオペレーションの実行を大義名分に、人々の恐怖を楽しみ、人々に暴力を振るうことを楽しみ、人々を殺害することを楽しんだ。
情報収集に訪れたメキシコで事の真相を知ったチャーリー・グライムスでしたが、知った時にはすでにロンは釈放されてしまっていた。そのロンと一緒にいるクレアに、せめて警告の電話をかけるチャーリー。チャーリーの口から戦慄の真相を知らされたクレアの目の前に、何食わぬ顔で現れる「優しい夫」は、車のキーを弄んでいた、片手から片手へと器用に投げ渡しながら。
秘密が露になった後のジム・カヴィーゼルの狂気を秘めたほの暗い顔には、まさに背筋が凍ります。これぞカヴィーゼル三段活用。
正直、映画的には、真相が露見した後の処理があまりスマートでなかったりして非情に残念なのですが、いいのいいの、カヴィーゼル三段活用が見られたんだし。
そのほかの役者さんについて言えば、『レボリューショナリー・ロード』で有名になる前のマイケル・シャノンが軍に嘘の証言を強要された兵士のひとり、という小さな役で出ていました。小さな役だけど、やっぱ、目立つね。さすがだわ。
2002年、カール・フランクリン監督作品。
ジム・カヴィーゼルの出演作です。
主演はアシュレイ・ジャッド、そしてモーガン・フリーマン。
1997年の『コレクター』、1999年の『ダブル・ジョパディー』、1999年の『氷の接吻』、2004年の『ツイステッド』と、90年代の後半から2000年代にかけて、アシュレイ・ジャッドのクライム・サスペンスが立て続けに公開されたのですが、この映画もその流れの一本。
クレア(アシュレイ・ジャッド)とトム(ジム・カヴィーゼル)のキュービック夫妻は、妻は敏腕弁護士、夫は建設会社を経営するリッチなカップル。マリブ郡の森の中に快適な家を構えて幸せに暮らしていた。夫妻の目下の興味は子作り。懐妊可能日ともあれば寸暇を惜しんで共同作業に精を出す仲睦まじい日々だった。
しかしそんなある日、ふたりの城に泥棒が入り、警察の捜査が入ったために、トムの指紋が当局に知られるところとなり、驚くべき事実が判明する。なんとその指紋は、指名手配犯のロナルド・チャップマンのものと一致したのだ。
チャップマンの容疑は9人もの民間人の多重殺人。1988年当時、海兵隊特殊部隊員としてエルサルバドルに赴任していたチャップマンは、現地の民間人を虐殺したというのである。
トムことロナルドは、軍から逃亡し、名を偽ってクレアと結婚した事は認めたが、殺人の事実だけは頑として否定、無実の証明のためにはポリグラフの検査も厭わなかった。夫の無実を信じたクレアは、軍事裁判に詳しい元軍人弁護士のチャーリー・グライムス(モーガン・フリーマン)を協力者に得る。しかし軍には何やら隠蔽したい事実があるらしく、容赦ない妨害工作を仕掛けてくる。
かくてクレアとチャーリーは、自らの命をもかけて困難な裁判に挑む。
海兵隊、特殊部隊、エルサルバドル、とくればもう、陰謀とか隠蔽とか、悪い展開しか予測できませんが、この物語もそういったバリエーションの一つです。
前提や経過にさほどの新味がないということに加えて、結論的にも、軍部の隠蔽工作が真っ向から糾弾されることもなければ、一方で殺人事件の犯人の方もまた司直の手によって裁かれるということもなく、どちらも有耶無耶のまま、臭い物には蓋をする式の終え方をしてしまう裁判そのものの流れが、どうにもモヤモヤとすっきりしません。なので、サスペンスとしては可もなく不可もなくといった印象です。
などと上から目線で偉そうなことを言っておりますが、ジム・カヴィーゼルとしてはかなりお得な一本。何と言ってもカヴィーゼルが一粒で三度おいしい☆
一つ目は、幸せな結婚生活を送る理想のハズバンドとしてのジムです。
物語冒頭でのジム(ってか、トムなのかロンなのか)は、アシュレイ・ジャッド演じるポジティブでアクティブでアグレッシブな妻をふんわり包んで受け止める優しい夫です。常に穏やかな微笑を絶やさず、ふたりしてクリスマスショッピングに出かければ、98%は妻のものに違いないてんこ盛りの買い物荷物を全て軽々と持ってくれるナイトっぷり。
さきほど、「懐妊可能日ともあれば寸暇を惜しんで共同作業に精を出す仲睦まじい日々」とか言う不自然な書きかたをしましたが、これは文字通り描写がこういう風なのでこういう書きかたになったのですが、子どもがほしくてたまらないクレアは、基礎体温の測定結果をもとに、まさに今日がその日と見れば、出勤前のわずかな時間に夫に突撃するわけです。
「7分ですませるわよ!」
「10分に延長できないか?」
「9分半!」
「承知した」
などという情緒のない行為をしかけてくる妻の行動は、もはや「種付け」という単語を彷彿とさせたりもするのに、決してめげない妻ラブな男。(後の展開を見れば実際この時クレアは妊娠してるっぽいので、トムってばある意味、ものっそ有能。ジム・カヴィーゼルってば、何をやらせてもものっそ有能)。
そして、ふたりのデートのシーンで、酒場でビリヤード対決している場面があるのですが、この時トムは、器用に両手を使ってキューを操ってみせます。このシーンは一見、やぁだぁ、利き手じゃなくても打てるなんてズル~い、ハハハ、参ったか! みたいな微笑ましい夫婦のやりとりを描いているかに見えるのですが、実はこれが後の重要な伏線になっています。
実際カヴィーゼルは両手が使える人で、『パーソン・オブ・インタレスト』の無敵の膝撃ち男ジョン・リースもまた、右手でも左手でも、その時々で最も撃ちやすいポジションで銃を構える姿が印象的です。こんなヤツ敵に回すの、ほんとイヤ。
二つ目のフェーズはよるべなき子犬の目をしたジム。
ロンが犯したとされる犯罪で有罪判決が出たら、死刑を免れることはできません。ロンとしては何としても自らの無実を優秀な弁護士である妻に信じてもらわなければなりませんでした。まさにクレアこそ、かれの唯一の希望だったのです。当然クレアを見る目は縋るようなものになります。
君に嘘をついていたことは本当に悪かった。でも信じてほしい。おれは絶対に冷酷な殺人鬼なんかじゃない。
かくてロンは、スレートブルーの目をけぶらせ、長い睫毛をしとどに濡らして、クレアを見つめてほろほろと泣くのです。これはアカン。こんなん見せられたら、目の前で現行犯逮捕されたって無実を信じてしまいそうだわ。
そして三つ目は(やっぱりそうだった)冷酷な性格破綻者としてのジム。
軍が、自分たちのしでかしたドジを隠蔽するために施した数々の工作はともかく、エルサルバドルの山村で9人もの村人を虐殺した真犯人に関しては、様々なひとの口から、様々な情況で、共通する証言が語られていきます。
曰く、犯人は冷酷な男で、片手から片手へ器用に銃を投げ渡し、弄びながら、村人たちを竦み上がらせ、そして殺した。
曰く、目撃者である夫の下を訪れ、口封じのために殺した犯人は、何か物を、片手から片手へと器用に投げ渡す特徴的な仕種が印象的だったので、それがかれだとすぐにわかった。
片手から片手へ。両手が使える器用な男。
ビリヤードのキューを両手で自在に操れる男。
殺人事件とは別の、軍の隠蔽工作のために、裁判自体が取り下げられ、無罪放免となったロンでしたが、やはり虐殺の犯人はこの男だった。男は、軍の命令によるオペレーションの実行を大義名分に、人々の恐怖を楽しみ、人々に暴力を振るうことを楽しみ、人々を殺害することを楽しんだ。
情報収集に訪れたメキシコで事の真相を知ったチャーリー・グライムスでしたが、知った時にはすでにロンは釈放されてしまっていた。そのロンと一緒にいるクレアに、せめて警告の電話をかけるチャーリー。チャーリーの口から戦慄の真相を知らされたクレアの目の前に、何食わぬ顔で現れる「優しい夫」は、車のキーを弄んでいた、片手から片手へと器用に投げ渡しながら。
秘密が露になった後のジム・カヴィーゼルの狂気を秘めたほの暗い顔には、まさに背筋が凍ります。これぞカヴィーゼル三段活用。
正直、映画的には、真相が露見した後の処理があまりスマートでなかったりして非情に残念なのですが、いいのいいの、カヴィーゼル三段活用が見られたんだし。
そのほかの役者さんについて言えば、『レボリューショナリー・ロード』で有名になる前のマイケル・シャノンが軍に嘘の証言を強要された兵士のひとり、という小さな役で出ていました。小さな役だけど、やっぱ、目立つね。さすがだわ。
by shirakian
| 2014-04-29 13:41
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