2014年 04月 11日
アナと雪の女王
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★ネタバレ注意★
クリス・バック監督のディズニーアニメーションです。3Dアニメですが2Dで観ました。スクリーンも小ちゃかったです。さきのアカデミー賞では長編アニメーション賞と主題歌賞の2冠を受賞。小さなスクリーンでも楽曲の迫力は満点でした。
そう言えば、今年のアカデミー賞は、なんだかあんまりしっくりとこないラインナップだったのですが、この作品はクリーンヒットしました。楽しかったです。バック監督、ありがとう。
アレンデール王国の姉王女エルサ(イディナ・メンゼル)には、触れるもの全てを雪と氷に変えてしまうという不思議な力があった。幼いうちは、その力は何の脅威にもならず、エルサは大の仲良しの妹のアナ(クリステン・ベル)と共に、お城の大広間で雪だるまを作ったり、スケートをしたり、毎日楽しく遊び暮らしていた。ところがある日、いつものように一緒に遊んでいたアナを誤って傷つけてしまう。激しく自分を責めたエルサは、日々強まる能力に怯え、それを封印して部屋に閉じこもってしまった。その一方で、トロールの力によりトラウマになる事故の記憶を消されたアナは、なぜ姉から遠ざけられるのかわからないまま、寂しく成長していくこととなった。
国王夫妻が事故で亡くなり、姉王女が戴冠式を迎える日、妹王女はその日出会ったばかりの異国の王子ハンス(サンティノ・フォンタナ)と結婚の約束をしてしまう。ただでさえ制御し難い己の力を必死で抑えて重要な日に臨んでいたエルサは、妹の軽薄な行為に動揺するあまり、力の制御を失い、真夏の王国を冬に変えてしまう。
というお話は、アンデルセンの原作とはストーリーはもとより、マインドもテイストももはや別物ですが、「最後に愛は勝つ」というテーマだけは共通しているのかもしれません。っていうか、アンデルセン版は解釈次第で如何ようにでも展開できる深みを持っているので、これもまたひとつのバリエーションとしてアリだなぁ、と思いましたです。
この物語の中でとにかく一番重要なのは、姉妹ふたりの間にある「本物の愛情」というイシューです。心から妹を愛する姉と、同じく心から姉を愛する妹。この関係性がきちんと描けないことには全てが崩壊してしまう。
まずエルサからアナへの愛情ですが、これを描くのは比較的容易だったと思う。妹を傷つけたことへの悔恨、嫌悪、恐怖、自責のあまり、己の寂しさも不自由さも孤独も悲しみも全て度外視して、ひたすら息を殺して生きることを選んだ姉の生き様そのものがすでに自己犠牲的愛情の発露であるからです。
だけど逆はむずかしい。
奔放で明るく物怖じしない性格のアナにとって、世界はエルサひとりじゃない。ただでさえ如何ようにでも外の世界に心を向けることができた上に、記憶を消されてしまったアナにはエルサがなぜ自分を締め出そうとするのかがわからない。理解できない理由で自分を遠ざける相手を、それでもあなたが一番好きだ、自分のことを犠牲にしてもあなたが大事でたまらない、と言えるとしたら、それはもう、よほどのこと。そのよほどのことを短い尺でどう描く? むずかしいよ?
そこでミュージカルですよ。
部屋に閉じこもる姉に向かって、何度も何度も何年にもわたって繰り返し声をかけ続ける妹の姿を歌った”Do you want to build a snowman”。無視されても締め出されても遠ざけられても声をかけずにいられない。なぜならあなたが大好きだから。ストレートプレイでこれに説得力を持たせるとあれば、それは至難の業ですが、歌ならば伝わる。まちがいなく伝わる。これだけで泣けます。この曲ひとつがあるために、この映画は成立していると言っても過言ではありません。
それを前提にしての戴冠式の日なんだけれども、ここがちょっと「?」な感じです。数年ぶりにようやく顔をあわせた姉妹。ぎこちなく挨拶を交わすシーンのほほえましさ、ほろ苦さ、愛らしさは、とてもセンシティブな演出でほんとにすばらしいのだけど、その後が、どうしてハンス? と思ってしまうのです。エルサとの再会という一大イベントが成し遂げられたその同じ日に、ハンスごときに気をとられるとあっては、あまりにもステレオタイプ、というよりご都合主義です。
このハンスというキャラクターは、一応一国の王子様ではあるんだけれど、13人兄弟の末っ子という冷や飯食い。アレンデール女王の戴冠式にやって来たのも、あわよくば王女のうちどちらかの気をひいて、この国の王座に食いこもうという魂胆あってのこと。このキャラクターはディズニーの王子様としてはとても新しいと思うのです。外見も、ディズニー定番の「見るからにワル」という感じじゃなくて、優しそうで誠実そうでしかも愛されずに育った寂しさすら漂わせていて、まさかこの王子がワルモノとは誰も思わない。だけどそのギャップのインパクトっていうのがうまく機能していない感じで、ワルモノであることを観客に悟らせまいとするがあまり、前半の王子の描写はあまりにもミスリードが過ぎると思う。有体に言って観客に嘘をついている印象。
だけど、それはまだいい。とにかく、冷酷な心を持った悪い王子、という「新しいキャラクター」の特性を、もっと上手に生かせなかったものかと、それが悔やまれるのです。愛し合う姉妹の間に徹底的に立ちはだかる圧倒的な障害として描けていれば、もっと緊迫したドラマが描けていたのになぁ、と。王子が正体を現わすタイミングが早過ぎるし、現わし方が馬鹿正直に過ぎる。この王子には、もっともっと狡猾に立ち回ってほしかった。
アナに対しては、ギリギリまで汚れた動機を伏せて愛しているふりを貫き、エルサに対しては、「アナへの真実の愛」を武器にして操る。アナを救えるのはこの男しかいないとあれば、エルサはどこまでも自分を犠牲にしようとするだろうし、ハンスの愛情を本物と思いこめば、アナのエルサへの不審は取り返しのつかないものになる。しかし、そこで一発大逆転。しかしそれでも、という展開。どんなにハンスが立ちはだかろうと、やっぱりアナはエルサを信じることをやめられない。なぜならエルサを愛しているから。最後の瞬間で、すさまじい内心の葛藤を経て、王子ではなく姉を選択するアナ。盛り上がったと思うのだけど。……だけど、ここまでやったらディズニーアニメにはふさわしくないわな。
こうして改めて感想を書いてみてしみじみと思うのは、クリストフ、いらなかったなぁ、ということです。
クリストフ(ジョナサン・グロフ)は、雪に閉ざされてしまったアレンデールを救うために、エルサの後を追ったアナが旅の途中で出会い、協力してもらうことになる若者です。ピンだととってもいいキャラなんだけど、ストーリーにはうまく絡んでいなかったなぁ、という印象。
えっと、まず、クリストフ自身はとってもいいキャラだと言うのは、このひとは映画的にはすごく大事にされていて、幼少のころからきちんと描写があり、成長してきた過程が伺えるようになっている。天涯孤独の身、きつい肉体労働、それでも明るさや優しさを失わない健やかな精神の持ち主。友達はトナカイのスヴェンだけ、会話を交わす相手もスヴェンだけ。だけどもちろんトナカイが言葉を喋るはずもないから、クリストフの「会話」は一人二役、「スヴェンがこう言っているだろう」と推測する台詞を、クリストフ自身が喋るのです。それは実は、「スヴェンにこう言ってほしい」とクリストフが考える台詞なので、スヴェンの意図がクリストフの意に染まないものであるとき、途端にクリストフには「スヴェンの言っていること」がわからなくなる。こういう演出がとてもいい。
だけど、このクリストフがいたがために、アナが自分自身の問題にきっちり自分自身で立ち向かう、という図式がぼやけてしまいました。物語のテーマを考えるならば、アナはひとりで氷雪に立ち向かわなければならなかったはずだし、アナとエルサとハンス、という「真実の愛」をめぐる仕掛けを意図するのなら、「エルサではない愛情の対象」はあくまで今後の話であって進行形の物語の中ではとにかく邪魔にしかならないです。
第一、アナのサイドキックとしては、「夏に憧れる陽気な雪だるま」のオラフというステキなキャラがいるしね。この雪だるまはキャラとして大成功ですね。雪だるまと夏への憧れという組み合わせが不吉すぎるので、『プリンセスと魔法のキス』のいさましいちびのファイアーフライのレイみたく、凍えたアナを暖めようとして暖炉の火で溶けてしまうんじゃないかと心配したのですが、オラフに関してはエルサの半端ナイ能力のおかげで事なきを得たので、胸をなでおろしました。
それにしてもエルサの能力、恐るべし。
国ひとつまるまる雪に閉ざしてしまうわ、深いフィヨルドを凍りつかせるわ、橋を築くわ、城を建てるわ、果ては生命まで生み出してしまうという恐怖のスーパーパワー。X-MENに出たら大活躍することまちがいなし。暢気に国民にスケートなんかさせてる場合じゃないわよ。
クリス・バック監督のディズニーアニメーションです。3Dアニメですが2Dで観ました。スクリーンも小ちゃかったです。さきのアカデミー賞では長編アニメーション賞と主題歌賞の2冠を受賞。小さなスクリーンでも楽曲の迫力は満点でした。
そう言えば、今年のアカデミー賞は、なんだかあんまりしっくりとこないラインナップだったのですが、この作品はクリーンヒットしました。楽しかったです。バック監督、ありがとう。
アレンデール王国の姉王女エルサ(イディナ・メンゼル)には、触れるもの全てを雪と氷に変えてしまうという不思議な力があった。幼いうちは、その力は何の脅威にもならず、エルサは大の仲良しの妹のアナ(クリステン・ベル)と共に、お城の大広間で雪だるまを作ったり、スケートをしたり、毎日楽しく遊び暮らしていた。ところがある日、いつものように一緒に遊んでいたアナを誤って傷つけてしまう。激しく自分を責めたエルサは、日々強まる能力に怯え、それを封印して部屋に閉じこもってしまった。その一方で、トロールの力によりトラウマになる事故の記憶を消されたアナは、なぜ姉から遠ざけられるのかわからないまま、寂しく成長していくこととなった。
国王夫妻が事故で亡くなり、姉王女が戴冠式を迎える日、妹王女はその日出会ったばかりの異国の王子ハンス(サンティノ・フォンタナ)と結婚の約束をしてしまう。ただでさえ制御し難い己の力を必死で抑えて重要な日に臨んでいたエルサは、妹の軽薄な行為に動揺するあまり、力の制御を失い、真夏の王国を冬に変えてしまう。
というお話は、アンデルセンの原作とはストーリーはもとより、マインドもテイストももはや別物ですが、「最後に愛は勝つ」というテーマだけは共通しているのかもしれません。っていうか、アンデルセン版は解釈次第で如何ようにでも展開できる深みを持っているので、これもまたひとつのバリエーションとしてアリだなぁ、と思いましたです。
この物語の中でとにかく一番重要なのは、姉妹ふたりの間にある「本物の愛情」というイシューです。心から妹を愛する姉と、同じく心から姉を愛する妹。この関係性がきちんと描けないことには全てが崩壊してしまう。
まずエルサからアナへの愛情ですが、これを描くのは比較的容易だったと思う。妹を傷つけたことへの悔恨、嫌悪、恐怖、自責のあまり、己の寂しさも不自由さも孤独も悲しみも全て度外視して、ひたすら息を殺して生きることを選んだ姉の生き様そのものがすでに自己犠牲的愛情の発露であるからです。
だけど逆はむずかしい。
奔放で明るく物怖じしない性格のアナにとって、世界はエルサひとりじゃない。ただでさえ如何ようにでも外の世界に心を向けることができた上に、記憶を消されてしまったアナにはエルサがなぜ自分を締め出そうとするのかがわからない。理解できない理由で自分を遠ざける相手を、それでもあなたが一番好きだ、自分のことを犠牲にしてもあなたが大事でたまらない、と言えるとしたら、それはもう、よほどのこと。そのよほどのことを短い尺でどう描く? むずかしいよ?
そこでミュージカルですよ。
部屋に閉じこもる姉に向かって、何度も何度も何年にもわたって繰り返し声をかけ続ける妹の姿を歌った”Do you want to build a snowman”。無視されても締め出されても遠ざけられても声をかけずにいられない。なぜならあなたが大好きだから。ストレートプレイでこれに説得力を持たせるとあれば、それは至難の業ですが、歌ならば伝わる。まちがいなく伝わる。これだけで泣けます。この曲ひとつがあるために、この映画は成立していると言っても過言ではありません。
それを前提にしての戴冠式の日なんだけれども、ここがちょっと「?」な感じです。数年ぶりにようやく顔をあわせた姉妹。ぎこちなく挨拶を交わすシーンのほほえましさ、ほろ苦さ、愛らしさは、とてもセンシティブな演出でほんとにすばらしいのだけど、その後が、どうしてハンス? と思ってしまうのです。エルサとの再会という一大イベントが成し遂げられたその同じ日に、ハンスごときに気をとられるとあっては、あまりにもステレオタイプ、というよりご都合主義です。
このハンスというキャラクターは、一応一国の王子様ではあるんだけれど、13人兄弟の末っ子という冷や飯食い。アレンデール女王の戴冠式にやって来たのも、あわよくば王女のうちどちらかの気をひいて、この国の王座に食いこもうという魂胆あってのこと。このキャラクターはディズニーの王子様としてはとても新しいと思うのです。外見も、ディズニー定番の「見るからにワル」という感じじゃなくて、優しそうで誠実そうでしかも愛されずに育った寂しさすら漂わせていて、まさかこの王子がワルモノとは誰も思わない。だけどそのギャップのインパクトっていうのがうまく機能していない感じで、ワルモノであることを観客に悟らせまいとするがあまり、前半の王子の描写はあまりにもミスリードが過ぎると思う。有体に言って観客に嘘をついている印象。
だけど、それはまだいい。とにかく、冷酷な心を持った悪い王子、という「新しいキャラクター」の特性を、もっと上手に生かせなかったものかと、それが悔やまれるのです。愛し合う姉妹の間に徹底的に立ちはだかる圧倒的な障害として描けていれば、もっと緊迫したドラマが描けていたのになぁ、と。王子が正体を現わすタイミングが早過ぎるし、現わし方が馬鹿正直に過ぎる。この王子には、もっともっと狡猾に立ち回ってほしかった。
アナに対しては、ギリギリまで汚れた動機を伏せて愛しているふりを貫き、エルサに対しては、「アナへの真実の愛」を武器にして操る。アナを救えるのはこの男しかいないとあれば、エルサはどこまでも自分を犠牲にしようとするだろうし、ハンスの愛情を本物と思いこめば、アナのエルサへの不審は取り返しのつかないものになる。しかし、そこで一発大逆転。しかしそれでも、という展開。どんなにハンスが立ちはだかろうと、やっぱりアナはエルサを信じることをやめられない。なぜならエルサを愛しているから。最後の瞬間で、すさまじい内心の葛藤を経て、王子ではなく姉を選択するアナ。盛り上がったと思うのだけど。……だけど、ここまでやったらディズニーアニメにはふさわしくないわな。
こうして改めて感想を書いてみてしみじみと思うのは、クリストフ、いらなかったなぁ、ということです。
クリストフ(ジョナサン・グロフ)は、雪に閉ざされてしまったアレンデールを救うために、エルサの後を追ったアナが旅の途中で出会い、協力してもらうことになる若者です。ピンだととってもいいキャラなんだけど、ストーリーにはうまく絡んでいなかったなぁ、という印象。
えっと、まず、クリストフ自身はとってもいいキャラだと言うのは、このひとは映画的にはすごく大事にされていて、幼少のころからきちんと描写があり、成長してきた過程が伺えるようになっている。天涯孤独の身、きつい肉体労働、それでも明るさや優しさを失わない健やかな精神の持ち主。友達はトナカイのスヴェンだけ、会話を交わす相手もスヴェンだけ。だけどもちろんトナカイが言葉を喋るはずもないから、クリストフの「会話」は一人二役、「スヴェンがこう言っているだろう」と推測する台詞を、クリストフ自身が喋るのです。それは実は、「スヴェンにこう言ってほしい」とクリストフが考える台詞なので、スヴェンの意図がクリストフの意に染まないものであるとき、途端にクリストフには「スヴェンの言っていること」がわからなくなる。こういう演出がとてもいい。
だけど、このクリストフがいたがために、アナが自分自身の問題にきっちり自分自身で立ち向かう、という図式がぼやけてしまいました。物語のテーマを考えるならば、アナはひとりで氷雪に立ち向かわなければならなかったはずだし、アナとエルサとハンス、という「真実の愛」をめぐる仕掛けを意図するのなら、「エルサではない愛情の対象」はあくまで今後の話であって進行形の物語の中ではとにかく邪魔にしかならないです。
第一、アナのサイドキックとしては、「夏に憧れる陽気な雪だるま」のオラフというステキなキャラがいるしね。この雪だるまはキャラとして大成功ですね。雪だるまと夏への憧れという組み合わせが不吉すぎるので、『プリンセスと魔法のキス』のいさましいちびのファイアーフライのレイみたく、凍えたアナを暖めようとして暖炉の火で溶けてしまうんじゃないかと心配したのですが、オラフに関してはエルサの半端ナイ能力のおかげで事なきを得たので、胸をなでおろしました。
それにしてもエルサの能力、恐るべし。
国ひとつまるまる雪に閉ざしてしまうわ、深いフィヨルドを凍りつかせるわ、橋を築くわ、城を建てるわ、果ては生命まで生み出してしまうという恐怖のスーパーパワー。X-MENに出たら大活躍することまちがいなし。暢気に国民にスケートなんかさせてる場合じゃないわよ。
by shirakian
| 2014-04-11 11:12
| 映画あ行