2013年 10月 14日
エリジウム
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★ネタバレ注意★
『第9地区』のニール・ブロンカンプ監督の新作ですよ!
期待するなと言う方がムリ!
しかも主演は、出演作にハズレのないマット・デイモンだし、敵役はジョディ・フォスターだし、そのほかにもディエゴ・ルナとかウィリアム・フィクトナーとか、期待するなと言う方がムリ!
2154年。人口増加でスラムと化した地球を見捨て、富裕層は軌道上のスペース・コロニー「エリジウム」に移住していた。完璧に管理された環境、公園のような街並み、ゆったりとした邸宅、そして各家庭ごとに設置された、どんな病気もたちどころに診断治療が可能な医療ポッド。人々の寿命は飛躍的に延び、病も老いも遠ざけられ、健康で快適な暮らしが約束された世界。現世に天国があるのなら、エリジウムこそがまさにそれだった。
その一方で人口の大部分を占める貧困層は過密状態のスラムで、ろくな医療も受けられずカツカツの生活を送っていた。エリジウムの市民権を持たぬ者は、そこに足を踏み入れることすら許されない。わずか400キロの上空に常に見えている現世の天国は、地上で暮らす人々には決して手の届かぬ別天地だった。
ドロイドの組み立て工場で働くマックス・ダ・コスタ(マット・デイモン)は、作業中の事故で大量の放射線に被曝してしまい、余命5日の宣告を受ける。有り余る労働者なんか使い捨て。当然会社はマックスの治療になど興味を示さない。放り出されたマックスは生き延びるために、エリジウムへの道を模索するのだが。
『第9地区』にビビッときた観客は、まずはエリジウムの偉容にテンションあがります。それは優雅で巨大なホイール。遠景からクローズアップして上空から鳥瞰するその勇姿はまさに(うんとちっちゃい)リング・ワールド! だってなにしろ屋根がない! 居住区からそのままスコンと突きぬけて大宇宙。シャトルの発着さえ可能。まさかこれって人工重力だけで大気の流出を留めているの!? あんな薄い大気層で一体どうやって宇宙線を防いでいるのか!?
こまけぇこたぁいいんだよ!!
どんなテクノロジーの勝利なのかそんなことは知りませんが、それにしたってあのビジュアルを見せてくれただけで観客は8割方満足です。ありがとう、ブロンカンプ監督、ほんとうにどうもありがとう。
そして一転、地上のスラムの描写は『第9地区』の南アフリカの隔離地区の描写の延長という感じですが、安定の描写力。貧しさと不潔さとやるせなさが匂い立つような過酷な環境。ただひとつ残念だったのは、冒頭映し出されたスラム化した高層ビルが全然生かされていかなったことかな。どうしてマックスはあのビルのどこかに住んでなかったんだろう。レジスタンス組織のボス、スパイダー(ワグネル・モウラ)のアジトでもいいけど。あそこを舞台にするのは予算がかかりすぎたのかな。
とにかくビジュアルは大変すばらしい。CGのできがとてつもなくナイスで、合成技術もすばらしい。あの自由自在に飛び交うシャトルの描写ときたら。
ただこれ、物語としてはどうなんだろ。
逆境の中から民衆のために立ち上がる救国の英雄の物語、ではないし、敢えて危険な怪物に立ち向かうドラゴン・スレイヤーの物語でもない。主人公の目標は社会改革でもないし、人類の平等でもないし、極悪非道な侵略者に対する自衛のための戦争でもない。だったら主人公は何のために戦ったのかと言うと、基本的には「自分のため」ですね。完全なとばっちり的不可抗力で立ち上がらざるを得なくなったから立ち上がっただけで、その行動の動機はただ単に自分が生き延びるために過ぎない。まずは主人公の行動に魅力や説得力が乏しいのです。
かれが日頃からこんな不平等社会はまちがっとる、どげんかせんといかん、とコツコツと地下で準備を進めてきた、というのならまだわかるけど、かれが虐げられてウンザリしている描写はあっても、事故が起こるそのときまでは、ただ頭を低くしてやり過ごそうとするばかりで、積極的に何かをしようとしていた形跡がないのです。むしろ、マックスを自分のプランに強引に巻きこんで(危険な脳手術をしてまで)エリジウムに送り込んだスパイダーの方がキャラクターとしては面白い。
ドラマのダイナミズムの力点の置きようにしても、全く無策な主人公の闇雲な肉弾戦などより、エリジウムの開発者であるジョン・カーライル(ウィリアム・フィクトナー)を抱き込んでクーデターを起こそうとしたデラコート防衛長官(ジョディ・フォスター)のラインの方が圧倒的に面白いのだから、もっとこちらを突き詰めてほしかった感じがします。とにかく、タフでクールなデラコートが、一介のならず者に過ぎない雇われ始末人のクルーガー(シャールト・コプリー)ごときにあっさりやられてしまう顛末は、どうにも納得がいかないのです。ブロンカンプ監督は、『第9地区』に大成功をもたらした立役者であるシャールト・コプリーに花を持たせたかったのかなぁ。ちょっとコプリーに比重がかかりすぎな印象がありました。
そういう表層の動きはともかく、根本的に一番ひっかかったのは、貧しい民衆のレジスタンスの対象であるエリジウムという存在が、正当な対価を支払って贖われたものである、ということです。高度なテクノロジーを結集した快適な環境を維持するには莫大な資金が必要となる。一体どうやってそれを賄うのか、ということ。人類みな平等なんだから、人口爆発で地上にあふれかえる全ての人類に解放せよ、といのが正義かどうかはともかく、それをしてあの環境が維持できるのか、ということ。富が偏在するのはもちろん好ましくないことであるとして、だったら有限の富を広く薄く全ての人類に配分したら、エリジウムを維持できるのか、否、それ以前に、あんなとてつもない人造物を作り出すことができるのか、ということ。
確かにエリジウム側でも、これほどまでの貧富の格差に対してあまりに無策すぎた印象はあります。不法移民船に対しての防衛ラインを地上にいるクルーガーのような者に任せていた、という防衛上の能天気さもそうですが(この点にまず、デラコートは危機感を抱いてクーデターを企てたわけですが)、それ以前に、エリジウムが存続するための生産基地として地球やその住民が必要であるのなら、強大な警察力で押さえつけるだけではなく、飴もまた与えておくべきだったはず。
飴とはもちろん医療です。どんな病気もたちどころに診断治療ができるマシンがあるのなら、「一家に一台」というのはいくらなんでもトゥーマッチ。こんな事態になる前に、地上のスラムの疲弊しきった病院にも、せめて型落ちの旧型機でも設置しておけば、人々の不満のかなりの部分は逸らせたであろうと思われます。要するに、ラストでいかにもハッピーエンドのように描かれた医療団の派遣のごときは、もっと早くやっとけよ、と思うのよ。やっぱりこの流れって、アメリカに於ける国民皆保険のプロパガンダなのかしら。こんだけの風呂敷を広げて、それじゃあんまり矮小化しすぎ。地上の人口爆発は加速するわよ。
ことほどさように色々ともやもやする展開ではありましたが、マックスの相棒フリオを演じたディエゴ・ルナが超絶かわいかったです☆ なにしろ三つ編みのお下げ髪! ヒロインポジションなのに好感度的に残念な印象だったアリシー・ブラガよりよっぽどキュートでした。ディエゴ・ルナ、刑事かFBI捜査官の役やってくれないかな。かわいい子にはFBIの役をやらせよ。
『第9地区』のニール・ブロンカンプ監督の新作ですよ!
期待するなと言う方がムリ!
しかも主演は、出演作にハズレのないマット・デイモンだし、敵役はジョディ・フォスターだし、そのほかにもディエゴ・ルナとかウィリアム・フィクトナーとか、期待するなと言う方がムリ!
2154年。人口増加でスラムと化した地球を見捨て、富裕層は軌道上のスペース・コロニー「エリジウム」に移住していた。完璧に管理された環境、公園のような街並み、ゆったりとした邸宅、そして各家庭ごとに設置された、どんな病気もたちどころに診断治療が可能な医療ポッド。人々の寿命は飛躍的に延び、病も老いも遠ざけられ、健康で快適な暮らしが約束された世界。現世に天国があるのなら、エリジウムこそがまさにそれだった。
その一方で人口の大部分を占める貧困層は過密状態のスラムで、ろくな医療も受けられずカツカツの生活を送っていた。エリジウムの市民権を持たぬ者は、そこに足を踏み入れることすら許されない。わずか400キロの上空に常に見えている現世の天国は、地上で暮らす人々には決して手の届かぬ別天地だった。
ドロイドの組み立て工場で働くマックス・ダ・コスタ(マット・デイモン)は、作業中の事故で大量の放射線に被曝してしまい、余命5日の宣告を受ける。有り余る労働者なんか使い捨て。当然会社はマックスの治療になど興味を示さない。放り出されたマックスは生き延びるために、エリジウムへの道を模索するのだが。
『第9地区』にビビッときた観客は、まずはエリジウムの偉容にテンションあがります。それは優雅で巨大なホイール。遠景からクローズアップして上空から鳥瞰するその勇姿はまさに(うんとちっちゃい)リング・ワールド! だってなにしろ屋根がない! 居住区からそのままスコンと突きぬけて大宇宙。シャトルの発着さえ可能。まさかこれって人工重力だけで大気の流出を留めているの!? あんな薄い大気層で一体どうやって宇宙線を防いでいるのか!?
こまけぇこたぁいいんだよ!!
どんなテクノロジーの勝利なのかそんなことは知りませんが、それにしたってあのビジュアルを見せてくれただけで観客は8割方満足です。ありがとう、ブロンカンプ監督、ほんとうにどうもありがとう。
そして一転、地上のスラムの描写は『第9地区』の南アフリカの隔離地区の描写の延長という感じですが、安定の描写力。貧しさと不潔さとやるせなさが匂い立つような過酷な環境。ただひとつ残念だったのは、冒頭映し出されたスラム化した高層ビルが全然生かされていかなったことかな。どうしてマックスはあのビルのどこかに住んでなかったんだろう。レジスタンス組織のボス、スパイダー(ワグネル・モウラ)のアジトでもいいけど。あそこを舞台にするのは予算がかかりすぎたのかな。
とにかくビジュアルは大変すばらしい。CGのできがとてつもなくナイスで、合成技術もすばらしい。あの自由自在に飛び交うシャトルの描写ときたら。
ただこれ、物語としてはどうなんだろ。
逆境の中から民衆のために立ち上がる救国の英雄の物語、ではないし、敢えて危険な怪物に立ち向かうドラゴン・スレイヤーの物語でもない。主人公の目標は社会改革でもないし、人類の平等でもないし、極悪非道な侵略者に対する自衛のための戦争でもない。だったら主人公は何のために戦ったのかと言うと、基本的には「自分のため」ですね。完全なとばっちり的不可抗力で立ち上がらざるを得なくなったから立ち上がっただけで、その行動の動機はただ単に自分が生き延びるために過ぎない。まずは主人公の行動に魅力や説得力が乏しいのです。
かれが日頃からこんな不平等社会はまちがっとる、どげんかせんといかん、とコツコツと地下で準備を進めてきた、というのならまだわかるけど、かれが虐げられてウンザリしている描写はあっても、事故が起こるそのときまでは、ただ頭を低くしてやり過ごそうとするばかりで、積極的に何かをしようとしていた形跡がないのです。むしろ、マックスを自分のプランに強引に巻きこんで(危険な脳手術をしてまで)エリジウムに送り込んだスパイダーの方がキャラクターとしては面白い。
ドラマのダイナミズムの力点の置きようにしても、全く無策な主人公の闇雲な肉弾戦などより、エリジウムの開発者であるジョン・カーライル(ウィリアム・フィクトナー)を抱き込んでクーデターを起こそうとしたデラコート防衛長官(ジョディ・フォスター)のラインの方が圧倒的に面白いのだから、もっとこちらを突き詰めてほしかった感じがします。とにかく、タフでクールなデラコートが、一介のならず者に過ぎない雇われ始末人のクルーガー(シャールト・コプリー)ごときにあっさりやられてしまう顛末は、どうにも納得がいかないのです。ブロンカンプ監督は、『第9地区』に大成功をもたらした立役者であるシャールト・コプリーに花を持たせたかったのかなぁ。ちょっとコプリーに比重がかかりすぎな印象がありました。
そういう表層の動きはともかく、根本的に一番ひっかかったのは、貧しい民衆のレジスタンスの対象であるエリジウムという存在が、正当な対価を支払って贖われたものである、ということです。高度なテクノロジーを結集した快適な環境を維持するには莫大な資金が必要となる。一体どうやってそれを賄うのか、ということ。人類みな平等なんだから、人口爆発で地上にあふれかえる全ての人類に解放せよ、といのが正義かどうかはともかく、それをしてあの環境が維持できるのか、ということ。富が偏在するのはもちろん好ましくないことであるとして、だったら有限の富を広く薄く全ての人類に配分したら、エリジウムを維持できるのか、否、それ以前に、あんなとてつもない人造物を作り出すことができるのか、ということ。
確かにエリジウム側でも、これほどまでの貧富の格差に対してあまりに無策すぎた印象はあります。不法移民船に対しての防衛ラインを地上にいるクルーガーのような者に任せていた、という防衛上の能天気さもそうですが(この点にまず、デラコートは危機感を抱いてクーデターを企てたわけですが)、それ以前に、エリジウムが存続するための生産基地として地球やその住民が必要であるのなら、強大な警察力で押さえつけるだけではなく、飴もまた与えておくべきだったはず。
飴とはもちろん医療です。どんな病気もたちどころに診断治療ができるマシンがあるのなら、「一家に一台」というのはいくらなんでもトゥーマッチ。こんな事態になる前に、地上のスラムの疲弊しきった病院にも、せめて型落ちの旧型機でも設置しておけば、人々の不満のかなりの部分は逸らせたであろうと思われます。要するに、ラストでいかにもハッピーエンドのように描かれた医療団の派遣のごときは、もっと早くやっとけよ、と思うのよ。やっぱりこの流れって、アメリカに於ける国民皆保険のプロパガンダなのかしら。こんだけの風呂敷を広げて、それじゃあんまり矮小化しすぎ。地上の人口爆発は加速するわよ。
ことほどさように色々ともやもやする展開ではありましたが、マックスの相棒フリオを演じたディエゴ・ルナが超絶かわいかったです☆ なにしろ三つ編みのお下げ髪! ヒロインポジションなのに好感度的に残念な印象だったアリシー・ブラガよりよっぽどキュートでした。ディエゴ・ルナ、刑事かFBI捜査官の役やってくれないかな。かわいい子にはFBIの役をやらせよ。
by shirakian
| 2013-10-14 21:20
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