2012年 02月 07日
J・エドガー |
★ネタバレ注意★

クリント・イーストウッド監督が、レオナルド・ディカプリオを主演に、初代FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーの生涯を描いた映画。
フーヴァー長官と言えば、巨大な権力を背景に政治家や社会活動家やその他有名人に対して諜報活動だの恐喝だの迫害だのを行い、マイ・ルールを貫くためにはいかなる横車も辞さず、汚い事件の背後には大抵この男の名前ありといった印象の、概ねワルモノ認識なんじゃないかと思うわけですが、この映画を観てもその印象が揺らぐことはなかったです。そっか、やっぱり、そういうヤツであったか。ふむふむ。つまりは、決して魅力的な人物ではない主人公を、一切美化することなく描いているにもかかわらず、この映画のフーヴァーには、曰く言い難い吸引力というか面白みというか、やはり一種の魅力があります。演じたのがレオプリオだったせいかもしれないけれども。でもやっぱり、面白いよね。
ジョン・エドガー・フーヴァーは、1895年生まれ。ジョージ・ワシントン大学を卒業後、司法省に入省し、在留敵国人登録課長として手腕を発揮した結果、1919年に新設された司法省所管の急進派対策課を任されたことを皮切りに、1921年にFBIの前身である司法省捜査局の長官代行となり、1924年にFBI長官に任命されると、1972年に亡くなるまで終生長官職に留まり続けました。在任中は、カルビン・クーリッジからリチャード・ニクソンまで、8代の大統領に仕えたというか、陰で操ったというか。享年77歳でした。
フーヴァーが最初にキャリアの足がかりを得た1919年という年は、ソ連が建国された年であり、アメリカもまたその影響によって、共産主義者や過激な労働運動家らによるテロが加熱しつつありました。ついには時の司法長官であったパーマーの自宅が爆破されるという事態を受けて、フーヴァーは断固過激派を根絶する態度を示し、頭角を現わしていきます。
かれの「仮想敵」はその後、マフィアや営利誘拐犯など多岐に渡っていきますが、そもそもの初めが「共産主義者」=自分とは異なる思想信条を有する人々、に対する排斥であったことは、この人物を端的に象徴していると思われます。
フーヴァーは極端な差別主義者であった。共産主義や組織犯罪を容認できなかったのみならず、肌の色の違う人々を認めることもできなかった。後にノーベル平和賞にノミネートされたキング牧師への卑劣な強迫はその最たる例です。
先鋭的な倫理観を持ち、それに合致しない人々に対しても我慢できなかった。歴代大統領はじめ、有力者への盗聴を繰り返し、後ろ暗い情報を蓄積していった動機についても、自らが権力を行使するための手段であったことは間違いないと思いますが、それらの人々の「不道徳な行為」に対する嫌悪感が根底にあったことは十分推測されるところです。
自ら長官に就任したFBIを再組織するに際しても、職員の私生活まで洗い出し、やれ服装が見苦しいの、生活態度がなっとらんの、体重が重すぎるの、借金があるの、不倫しているの、同性愛者だの、様々な理由をつけて解雇していきます。……自分だって、同性愛者だった(少なくともバイセクシュアルだった)のにね。
尤も、このときのかれの方針、できるだけ高い教育を受けた、できるだけ有能な人材を、全米から遍く募集する、ということのおかげで、FBIが今ある強大な組織になったことはまちがいありません。FBI捜査官はエリートの集まり。FBI捜査官であるということにかれらはみな誇りを持つことができる。これは非常に大きな功績だと思います。
夜学で苦学して学位を得たフーヴァーは、かつて勤めていた国会図書館で、蔵書をインデックス化し、検索時間を飛躍的に向上させたことを誇りに思っており、それを踏まえて、いままでバラバラに保管されていた全国民の指紋などの個人データを集約するシステムを構築していく一方で、物的証拠の解析にも拘り、腕のいい研究者を大勢引き抜いてくる。これまたFBIを今ある姿にあらしめた大きな功績のひとつだと思います。すなわち、効率のよい科学捜査の礎を作った。
エリートの採用、科学捜査、さらにもうひとつ、連邦捜査権の確立、この三つがFBIに対するフーヴァーの顕著な功績だったのだなぁと、この映画を観ると感じます。それはほんとうに小さくない功績です。人間としては色々とアレでしたが、職掌においてはやはりとてつもなく有能なひとだった、ということが、説得力たっぷりに描かれているのです。
フーヴァー個人に甚大な影響を与えた存在として、三人の人物がピックアップされています。母親のアニー・フーヴァー(ジュディ・デンチ)と、40年間個人秘書を務めあげたヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)と、同じく片腕として40年間アシスタント・ディレクターを務めあげたクライド・トルソン(アーミー・ハマー)です。
映画は、晩年のフーヴァーが、自分の若き日の活躍について、捜査官のひとりに口述タイプさせている、という形で進行していきます。すなわち、若いころの姿と、晩年の姿が交互に挿入されていく。すでに高齢の姿で現れるデンチは別として、レオプリオとワッツとハマーは、それぞれのキャラクターについて、若いときと老齢に達してからの二通りの姿で演じたことになります。
これはレオプリオの映画ですから、レオプリオが自分で両者を演じ分けたことは、もはや必然であったと思いますし、レオプリオ自身大変うまい役者さんですから、前途洋洋たる新長官時代も、凋落の陰を背負った晩年についても、違和感なく巧みに演じわけていました。特に、晩年の苦渋みなぎる顔の中にふと、若かりしころの覚束なげな表情が浮かんでしまうといった微妙な演技が最高でした。
そしてまた特筆すべきはナオミ・ワッツです。ほんとに自然ですばらしかった。特に老年期。毅然として品格があり、有能で頼りになり、「秘書道一筋」といった気概を感じさせ、酸いも甘いも噛みわけた年輪を感じさせるその演技は、まっこと賞賛に値します。進化した特殊メイクのおかげで、首筋の皺など容赦ない老けメイクが施されていたにもかかわらず、彼女はとても美しかった。
だけど一方アーミー・ハマーについては、うーん、そもそもレオプリオやワッツと比べる方が酷なのだけど、まだまだ役者不足という印象が拭いきれなかったです……。
若き日のトルソンは問題ないのです。長身でハンサムでチャーミングで聡明で優しくて楽しくて、まさにゲイの夢の中に現れるオトコを地で行ったような若き日のハマーについては、むしろ、どれだけ褒めても褒めたりないくらいなんではありますが、晩年のクライド・トルソンまでかれに演じさせたのは、ムリがあったんじゃないかなぁ、と。
ハマー、なんか、「老人演技」をやりすぎで、ちょっと老人コントみたいだったヨ(汗)。特に、レオプリオとのツーショットのシーンなんて、ふたりして老人に扮しているものだから、益々コント臭さが際立ってしまいました。トルソンの老年期だけは、その年代の役者さんにやらせた方がよかったんじゃないかなぁ……。
でもこの物語は、フーヴァーとトルソンの生涯続いた愛情の物語でもあるので、途中で役者さんが替わるのはやっぱりまずかったんだろうな。
複雑な立場にあり、性格も厄介なフーヴァー。子どもじみた英雄願望を持ち、平気で自伝に嘘や誇張を書かせる男。部下の手柄を妬み、横取りしたり追い出したりする男。政治家のスキャンダルを握り自分の思う様操ろうとした男。その一方で母親の影響下から決して抜け出すことのできなかった男。心の中に常に母親の顔色を伺う子どもの部分を残していた男。世間体を気にして、ゲイなのに女性とつきあい(や、これはもしかしたらバイセクシュアルだったからかもしれないけれど)、偽装(?)結婚まで口にする男。そんなフーヴァーであったのに、トルソンのフーヴァーに対する眼差しは、生涯一途であったと思います。トルソンは、いつもまっすぐにフーヴァーを愛していたし、だれよりもフーヴァーのことを思っていた。
フーヴァーがトルソンを副長官の地位に勧誘したときなんて、まるでポロポーズみたいなシーンだったのよ。フーヴァーのオファーにトルソンは答える。「条件がひとつあります。いい時も悪い時も、必ず昼食か夕食を一緒にすること」。そしてフーヴァーは、ほんとうに生涯その条件を守ったんです。このトルソンとの関係性の描写が、ゲスな野郎であるフーヴァーに、曰く言い難い吸引力や面白みや魅力を感じさせた要因になっていたと思うのです。
キビキビとリズムのある演出が大変快い一作です。クリミナル・マインドのファンのひとにも絶対お勧め(笑)。
・J・エドガー@ぴあ映画生活

クリント・イーストウッド監督が、レオナルド・ディカプリオを主演に、初代FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーの生涯を描いた映画。
フーヴァー長官と言えば、巨大な権力を背景に政治家や社会活動家やその他有名人に対して諜報活動だの恐喝だの迫害だのを行い、マイ・ルールを貫くためにはいかなる横車も辞さず、汚い事件の背後には大抵この男の名前ありといった印象の、概ねワルモノ認識なんじゃないかと思うわけですが、この映画を観てもその印象が揺らぐことはなかったです。そっか、やっぱり、そういうヤツであったか。ふむふむ。つまりは、決して魅力的な人物ではない主人公を、一切美化することなく描いているにもかかわらず、この映画のフーヴァーには、曰く言い難い吸引力というか面白みというか、やはり一種の魅力があります。演じたのがレオプリオだったせいかもしれないけれども。でもやっぱり、面白いよね。
ジョン・エドガー・フーヴァーは、1895年生まれ。ジョージ・ワシントン大学を卒業後、司法省に入省し、在留敵国人登録課長として手腕を発揮した結果、1919年に新設された司法省所管の急進派対策課を任されたことを皮切りに、1921年にFBIの前身である司法省捜査局の長官代行となり、1924年にFBI長官に任命されると、1972年に亡くなるまで終生長官職に留まり続けました。在任中は、カルビン・クーリッジからリチャード・ニクソンまで、8代の大統領に仕えたというか、陰で操ったというか。享年77歳でした。
フーヴァーが最初にキャリアの足がかりを得た1919年という年は、ソ連が建国された年であり、アメリカもまたその影響によって、共産主義者や過激な労働運動家らによるテロが加熱しつつありました。ついには時の司法長官であったパーマーの自宅が爆破されるという事態を受けて、フーヴァーは断固過激派を根絶する態度を示し、頭角を現わしていきます。
かれの「仮想敵」はその後、マフィアや営利誘拐犯など多岐に渡っていきますが、そもそもの初めが「共産主義者」=自分とは異なる思想信条を有する人々、に対する排斥であったことは、この人物を端的に象徴していると思われます。
フーヴァーは極端な差別主義者であった。共産主義や組織犯罪を容認できなかったのみならず、肌の色の違う人々を認めることもできなかった。後にノーベル平和賞にノミネートされたキング牧師への卑劣な強迫はその最たる例です。
先鋭的な倫理観を持ち、それに合致しない人々に対しても我慢できなかった。歴代大統領はじめ、有力者への盗聴を繰り返し、後ろ暗い情報を蓄積していった動機についても、自らが権力を行使するための手段であったことは間違いないと思いますが、それらの人々の「不道徳な行為」に対する嫌悪感が根底にあったことは十分推測されるところです。
自ら長官に就任したFBIを再組織するに際しても、職員の私生活まで洗い出し、やれ服装が見苦しいの、生活態度がなっとらんの、体重が重すぎるの、借金があるの、不倫しているの、同性愛者だの、様々な理由をつけて解雇していきます。……自分だって、同性愛者だった(少なくともバイセクシュアルだった)のにね。
尤も、このときのかれの方針、できるだけ高い教育を受けた、できるだけ有能な人材を、全米から遍く募集する、ということのおかげで、FBIが今ある強大な組織になったことはまちがいありません。FBI捜査官はエリートの集まり。FBI捜査官であるということにかれらはみな誇りを持つことができる。これは非常に大きな功績だと思います。
夜学で苦学して学位を得たフーヴァーは、かつて勤めていた国会図書館で、蔵書をインデックス化し、検索時間を飛躍的に向上させたことを誇りに思っており、それを踏まえて、いままでバラバラに保管されていた全国民の指紋などの個人データを集約するシステムを構築していく一方で、物的証拠の解析にも拘り、腕のいい研究者を大勢引き抜いてくる。これまたFBIを今ある姿にあらしめた大きな功績のひとつだと思います。すなわち、効率のよい科学捜査の礎を作った。
エリートの採用、科学捜査、さらにもうひとつ、連邦捜査権の確立、この三つがFBIに対するフーヴァーの顕著な功績だったのだなぁと、この映画を観ると感じます。それはほんとうに小さくない功績です。人間としては色々とアレでしたが、職掌においてはやはりとてつもなく有能なひとだった、ということが、説得力たっぷりに描かれているのです。
フーヴァー個人に甚大な影響を与えた存在として、三人の人物がピックアップされています。母親のアニー・フーヴァー(ジュディ・デンチ)と、40年間個人秘書を務めあげたヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)と、同じく片腕として40年間アシスタント・ディレクターを務めあげたクライド・トルソン(アーミー・ハマー)です。
映画は、晩年のフーヴァーが、自分の若き日の活躍について、捜査官のひとりに口述タイプさせている、という形で進行していきます。すなわち、若いころの姿と、晩年の姿が交互に挿入されていく。すでに高齢の姿で現れるデンチは別として、レオプリオとワッツとハマーは、それぞれのキャラクターについて、若いときと老齢に達してからの二通りの姿で演じたことになります。
これはレオプリオの映画ですから、レオプリオが自分で両者を演じ分けたことは、もはや必然であったと思いますし、レオプリオ自身大変うまい役者さんですから、前途洋洋たる新長官時代も、凋落の陰を背負った晩年についても、違和感なく巧みに演じわけていました。特に、晩年の苦渋みなぎる顔の中にふと、若かりしころの覚束なげな表情が浮かんでしまうといった微妙な演技が最高でした。
そしてまた特筆すべきはナオミ・ワッツです。ほんとに自然ですばらしかった。特に老年期。毅然として品格があり、有能で頼りになり、「秘書道一筋」といった気概を感じさせ、酸いも甘いも噛みわけた年輪を感じさせるその演技は、まっこと賞賛に値します。進化した特殊メイクのおかげで、首筋の皺など容赦ない老けメイクが施されていたにもかかわらず、彼女はとても美しかった。
だけど一方アーミー・ハマーについては、うーん、そもそもレオプリオやワッツと比べる方が酷なのだけど、まだまだ役者不足という印象が拭いきれなかったです……。
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ハマー、なんか、「老人演技」をやりすぎで、ちょっと老人コントみたいだったヨ(汗)。特に、レオプリオとのツーショットのシーンなんて、ふたりして老人に扮しているものだから、益々コント臭さが際立ってしまいました。トルソンの老年期だけは、その年代の役者さんにやらせた方がよかったんじゃないかなぁ……。
でもこの物語は、フーヴァーとトルソンの生涯続いた愛情の物語でもあるので、途中で役者さんが替わるのはやっぱりまずかったんだろうな。
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タイトル : J・エドガーという人
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タイトル : ■映画『J・エドガー』
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タイトル : J・エドガー
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