2011年 11月 22日
アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!
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★ネタバレ注意★
会計士あがりでデスクワークに誇りを持っている刑事らしからぬ刑事のウィル・フェレルと、はねっ返りの熱血漢で如何にも刑事らしい刑事のマーク・ウォルバーグのコンビが、(行きがかり上)金融業界の巨悪に挑む! という物語は、もしかして『ホット・ファズ』の楽しさを再び? という期待度満々、ウキウキと劇場に足を運びました。
スーパースター刑事のサミュエル・L・ジャクソンとドウェイン・ジョンソンの二人があっけなく殉職し、虎視眈々とその後釜を狙うNYPDの刑事たち。逸り立つ同僚たちを後目に、熱血刑事のテリー(ウォルバーグ)と会計課出身のアレン(フェレル)は、建築現場の足場設置許可申請という主流からはずれた地味な事件の捜査にあたっていた。しかし一見些細な違反に見えたその事件には、巨大な陰謀が隠されていた……。
という展開。確かに、面白くなるポテンシャルをいっぱいに秘めていたと思います。
冒頭近くのシーン、バディを組まされたフェレルにやる気がない(というか、勤勉ではあるんだけど、危険な現場に出たがらない)ため、いつも自分までお茶をひくハメになるウォルバーグが、フェレルにくってかかるというところからして、十分に期待を煽ってくれます。
自分はライオンだ、マグロのおまえなんか一撃だぞ! と小学男子みたいに息巻くウォルバーグに、真顔で淡々と、ライオンとマグロが戦った場合、如何にライオンに分がないかを説いて聞かせるフェレル。こういうノリが大好きなわたしは思わずゾクゾク(笑)。
小学男子みたいなウォルバーグは、言うこと為すこと一々かわいくて、ライオンの次は、自分をクジャクにたとえる。大暴れしたいのにいつもデスクワーク。焦れ焦れになって叫ぶには、おれはクジャクなんだ、飛べるんだ! すると周りで聞いてた同僚たち、
「おい、クジャクって飛べるのか?」「飛ばんでもないらしいぜ? ペンギン並にはな」
余裕でニヤニヤしてます。観客もニヤニヤしちゃいます。(実際、クジャク、飛びますけどね)。
熱血漢のウォルバーグは、とにかく何事に於いても一所懸命で、罰として就かされた交通整理の仕事なんかも、ついつい熱心に取り組んじゃって、そこに楽しみをみつけてしまう。あれ、交通整理ってなんだか面白いな。新しい仲間もできちゃったし?
ガキのころ、ゲイをからかってやろうという不埒な動機でバレエやハープを齧ってみれば、これまた熱心に練習して見事に習得、恋人を驚かせたり、自分の結婚式で披露できるほどの腕前になってしまう。
ヤンチャで粗暴だけど、素直でまっすぐで頑張りやのキャラクターが、ウォルバーグ本人のイメージにいい感じでだぶります。
一方のフェレルは、会計士としては優秀なんだけど、とにかく前述の通り、熱血刑事、スター刑事のイメージからは程遠い、まじめ一本やりの朴念仁。ところがこの、ハンサムでもセクシーでもユーモラスでもない男が、なぜかホットな美女にモテモテ、という設定がおかしい。
初めてフェレルの家に招待され、「嫁」のエヴァ・メンデスに紹介されたウォルバーグが、目を丸くして、「こちら、どちらさま!?」と訊くシーンも楽しいです。「うん、まあ、不出来なヨメだけど」と当たり前の顔のフェレル、「いや、だから、マジで、どちらさまなんだよっ!?」と絶対納得できないウォルバーグ。フェレルは別にありがたがってもいない風なのに、メンデスの方ではフェレルにメロメロというのもおかしいけれど、ヨメに限らず、とにかくフェレルは行き先々でゴージャス美人に声かけられまくり。ウォルバーグの頭上には巨大なクエスチョンマークが(笑)。
というわけで、フェレルとウォルバーグ、普通にしてるだけでコントラストが際立ってキャラもよく立っているのに、どういう計算の結果なのか、フェレルに、「実は元ワルだった」という余計な付加設定がついてて、キレるときにはウォルバーグがたじろぐほどにキレたりする。……うーん、これってどうなんだろう、フェレルはあくまで常に真顔で、淡々と理屈をこねていてくれた方が面白かったと思うのだけど。
尤もそのおかげで、一見はみだしっこに見えるけれど実は社会常識をきちんとわきまえ、色んなことが「わかっている」ウォルバーグと、一見冷静で常識的に見えるけれど実はその常識は「自分ルール」でしかなく、かつまたそれに則った行動しかできない、ちっとも「わかっちゃいない」フェレル、という一歩つっこんだレベルでのキャラクター対比が成立しているのは、それはそれで面白いと思うのだけど、残念ながら脚本がそこまでのレベルに対応できる出来ではなかったんじゃないかな。単なる悪ふざけ、そのネタがやりたいから(前後の脈絡を無視してでも)やっちゃうネタ、などなど、悪いコメディが陥りがちな欠点が目立つ脚本でした。
第一、フェレルのキャラを生かすなら、かれらが大金星をあげた金融犯罪についても、あくまで会計士的アプローチから解決してくれなきゃ面白みが出ないと思うのだけど、結局それも、お約束のハチャメチャアクションで処理。そのアクションが、後にパロディとして成り立つレベルならまだしも、すでにして記憶に何も残っていない凡庸な出来だったのは残念な感じです(それはおまえがトリアタマ)。
そのくせ、露になった犯罪の全容から、富の偏在や不当な格差といった「アメリカ社会の病理に斬り込む」式の欲を見せたのがまた、全体の雰囲気をちぐはぐにしてしまった要因にもなっているみたい。そのテーマはここではいいから、よそでやってくれないかな。これはね、たぶん、そういう映画じゃないと思うよ。
なにより一番残念だったのは、サミュエル・L・ジャクソンとドウェイン・ジョンソンのキャラクターを温存しなかったことかも。せっかく漫画的に派手派手なスター刑事、というキャラクターを演じられる華のあるふたりなのに、早々に退場してしまうのは如何にも勿体無い。(ギャラの問題とか色々あったのかなぁ)。スター刑事の二人を殉職させて、その後釜を狙うという展開にしても、後釜を狙うんじゃなくて、立ち向かって勝ちぬく精神がほしかったところ。第一、フェレル&ウォルバーグ組以外のライバル刑事に個性がなさすぎて、フェレル組との対比が全然描けていないんですもん。顔も名前も覚えてないヨ(それはおまえがトリアタマ)。
最後に、マイケル・キートンには笑わせていただきました☆ 苦労人のよくできた上司なのか、いかがわしいキワモノ上司なのか、保身に走る小物上司なのか、常にモヤモヤとグレーゾーンのキートンは、警察の仕事がオフのときには大きなスーパーで店長の仕事をやってたりする。ってか、そっちの方がよっぽど生き生きとして楽しそう(笑)。このひとがかつてバットマンを演じた、ということの方が今となってはもはや不思議であります。あの頃は確か、普通にイケメン俳優として認識されていたんじゃなかったけ?
・アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事〈デカ〉!@ぴあ映画生活
会計士あがりでデスクワークに誇りを持っている刑事らしからぬ刑事のウィル・フェレルと、はねっ返りの熱血漢で如何にも刑事らしい刑事のマーク・ウォルバーグのコンビが、(行きがかり上)金融業界の巨悪に挑む! という物語は、もしかして『ホット・ファズ』の楽しさを再び? という期待度満々、ウキウキと劇場に足を運びました。
スーパースター刑事のサミュエル・L・ジャクソンとドウェイン・ジョンソンの二人があっけなく殉職し、虎視眈々とその後釜を狙うNYPDの刑事たち。逸り立つ同僚たちを後目に、熱血刑事のテリー(ウォルバーグ)と会計課出身のアレン(フェレル)は、建築現場の足場設置許可申請という主流からはずれた地味な事件の捜査にあたっていた。しかし一見些細な違反に見えたその事件には、巨大な陰謀が隠されていた……。
という展開。確かに、面白くなるポテンシャルをいっぱいに秘めていたと思います。
冒頭近くのシーン、バディを組まされたフェレルにやる気がない(というか、勤勉ではあるんだけど、危険な現場に出たがらない)ため、いつも自分までお茶をひくハメになるウォルバーグが、フェレルにくってかかるというところからして、十分に期待を煽ってくれます。
自分はライオンだ、マグロのおまえなんか一撃だぞ! と小学男子みたいに息巻くウォルバーグに、真顔で淡々と、ライオンとマグロが戦った場合、如何にライオンに分がないかを説いて聞かせるフェレル。こういうノリが大好きなわたしは思わずゾクゾク(笑)。
小学男子みたいなウォルバーグは、言うこと為すこと一々かわいくて、ライオンの次は、自分をクジャクにたとえる。大暴れしたいのにいつもデスクワーク。焦れ焦れになって叫ぶには、おれはクジャクなんだ、飛べるんだ! すると周りで聞いてた同僚たち、
「おい、クジャクって飛べるのか?」「飛ばんでもないらしいぜ? ペンギン並にはな」
余裕でニヤニヤしてます。観客もニヤニヤしちゃいます。(実際、クジャク、飛びますけどね)。
熱血漢のウォルバーグは、とにかく何事に於いても一所懸命で、罰として就かされた交通整理の仕事なんかも、ついつい熱心に取り組んじゃって、そこに楽しみをみつけてしまう。あれ、交通整理ってなんだか面白いな。新しい仲間もできちゃったし?
ガキのころ、ゲイをからかってやろうという不埒な動機でバレエやハープを齧ってみれば、これまた熱心に練習して見事に習得、恋人を驚かせたり、自分の結婚式で披露できるほどの腕前になってしまう。
ヤンチャで粗暴だけど、素直でまっすぐで頑張りやのキャラクターが、ウォルバーグ本人のイメージにいい感じでだぶります。
一方のフェレルは、会計士としては優秀なんだけど、とにかく前述の通り、熱血刑事、スター刑事のイメージからは程遠い、まじめ一本やりの朴念仁。ところがこの、ハンサムでもセクシーでもユーモラスでもない男が、なぜかホットな美女にモテモテ、という設定がおかしい。
初めてフェレルの家に招待され、「嫁」のエヴァ・メンデスに紹介されたウォルバーグが、目を丸くして、「こちら、どちらさま!?」と訊くシーンも楽しいです。「うん、まあ、不出来なヨメだけど」と当たり前の顔のフェレル、「いや、だから、マジで、どちらさまなんだよっ!?」と絶対納得できないウォルバーグ。フェレルは別にありがたがってもいない風なのに、メンデスの方ではフェレルにメロメロというのもおかしいけれど、ヨメに限らず、とにかくフェレルは行き先々でゴージャス美人に声かけられまくり。ウォルバーグの頭上には巨大なクエスチョンマークが(笑)。
というわけで、フェレルとウォルバーグ、普通にしてるだけでコントラストが際立ってキャラもよく立っているのに、どういう計算の結果なのか、フェレルに、「実は元ワルだった」という余計な付加設定がついてて、キレるときにはウォルバーグがたじろぐほどにキレたりする。……うーん、これってどうなんだろう、フェレルはあくまで常に真顔で、淡々と理屈をこねていてくれた方が面白かったと思うのだけど。
尤もそのおかげで、一見はみだしっこに見えるけれど実は社会常識をきちんとわきまえ、色んなことが「わかっている」ウォルバーグと、一見冷静で常識的に見えるけれど実はその常識は「自分ルール」でしかなく、かつまたそれに則った行動しかできない、ちっとも「わかっちゃいない」フェレル、という一歩つっこんだレベルでのキャラクター対比が成立しているのは、それはそれで面白いと思うのだけど、残念ながら脚本がそこまでのレベルに対応できる出来ではなかったんじゃないかな。単なる悪ふざけ、そのネタがやりたいから(前後の脈絡を無視してでも)やっちゃうネタ、などなど、悪いコメディが陥りがちな欠点が目立つ脚本でした。
第一、フェレルのキャラを生かすなら、かれらが大金星をあげた金融犯罪についても、あくまで会計士的アプローチから解決してくれなきゃ面白みが出ないと思うのだけど、結局それも、お約束のハチャメチャアクションで処理。そのアクションが、後にパロディとして成り立つレベルならまだしも、すでにして記憶に何も残っていない凡庸な出来だったのは残念な感じです(それはおまえがトリアタマ)。
そのくせ、露になった犯罪の全容から、富の偏在や不当な格差といった「アメリカ社会の病理に斬り込む」式の欲を見せたのがまた、全体の雰囲気をちぐはぐにしてしまった要因にもなっているみたい。そのテーマはここではいいから、よそでやってくれないかな。これはね、たぶん、そういう映画じゃないと思うよ。
なにより一番残念だったのは、サミュエル・L・ジャクソンとドウェイン・ジョンソンのキャラクターを温存しなかったことかも。せっかく漫画的に派手派手なスター刑事、というキャラクターを演じられる華のあるふたりなのに、早々に退場してしまうのは如何にも勿体無い。(ギャラの問題とか色々あったのかなぁ)。スター刑事の二人を殉職させて、その後釜を狙うという展開にしても、後釜を狙うんじゃなくて、立ち向かって勝ちぬく精神がほしかったところ。第一、フェレル&ウォルバーグ組以外のライバル刑事に個性がなさすぎて、フェレル組との対比が全然描けていないんですもん。顔も名前も覚えてないヨ(それはおまえがトリアタマ)。
最後に、マイケル・キートンには笑わせていただきました☆ 苦労人のよくできた上司なのか、いかがわしいキワモノ上司なのか、保身に走る小物上司なのか、常にモヤモヤとグレーゾーンのキートンは、警察の仕事がオフのときには大きなスーパーで店長の仕事をやってたりする。ってか、そっちの方がよっぽど生き生きとして楽しそう(笑)。このひとがかつてバットマンを演じた、ということの方が今となってはもはや不思議であります。あの頃は確か、普通にイケメン俳優として認識されていたんじゃなかったけ?
・アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事〈デカ〉!@ぴあ映画生活
by shirakian
| 2011-11-22 20:18
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