2011年 08月 19日
アリス・クリードの失踪
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★ネタバレ注意★
イギリスのJ・ブレイクソン監督の長編デビュー作。登場人物は、ジェマ・アータートン、マーティン・コムストン、そしてエディ・マーサンの三人だけ、というギリギリまでにミニマムなお話なんですが、これがとってもスリリングで面白いのであります☆ ブレイクソン監督、ウェルカム・トゥ・アワ・ワールド☆
なにやら犯罪の下準備をしているふたりの男、ヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)。ホームセンターで手際良く必要な品物を揃え、アジトにするアパートの空き部屋の窓を塞ぎ、防音加工を施し、頑丈な鍵を取り付け、拘束監禁用のベッドを用意する。その間、言葉を交わすこともなく、訓練の行き届いた軍隊のように、テキパキと適確に動いていく如何にも「プロ」の香りのする男たち。演出もまたキビキビとスピーディで、これから始まる物語への大いなる期待が膨らんでいきます。なによりも感慨深いのが、ホームセンターって、犯罪で必要なものが何でもまるっと手に入るよなぁ、ということです(そこか)。
ふたりのターゲットは、アリス・クリード。富豪の娘であることは言うに及ばず、ほどよくコンパクトな体型は、誘拐の際大層都合がいい。まんまと拉致に成功し、アパートに連れ込み、着ていた服を下着に到るまで全部まるまる剥ぎ取って、あらかじめ準備していたジャージの上下に着替えさせてしまう。あくまで証拠は残さないプロの心構え。
このシーンでまず観客はビックリするですね。誘拐されてきた娘は、顔に袋を被せられているし、化粧が流れるほど泣き喚いているし、猿轡をかまされて人相が変わっちゃってはいるけど、ジェマ・アタートンであるには違いないはずなのに、容赦なくまっぱに剥いてしまうわけで、え? まさか、アタートンがそこまでやらないよね? これってボディダブル? いや、待て、アリス・クリードを誘拐するにさきだち、その辺の名もないオネエチャンで予行演習やってるとかなにかそういうシーン? と一瞬混乱するです。
ところがどっこい、アタートン本人なんだね。これにはほんとに大感心。やっぱ役者さんはこうでなくては。「大胆な濡れ場」のはずのシーンで下着もとらないような女優さんは困る。や、なにがなんでも脱がないのは困る、と言っているのではなく、脱ぐ必然性があるシーンがあるのを承知で出演しておきながら脱がないのは困る、と言っているのです。脱ぎたくないのなら脱がずにすむ役を演じればいいだけで、脱ぐことが重要なシーンで裸ひとつ見せられないようなら、ちゃんとシーンの意味を理解して潔く脱ぐことのできるほかの女優さんと代わってください、と思う次第です。その点、天晴れだ、アタートン。
しかも、ベッドに縛りつけられて全裸に剥かれたことを手始めに、尿瓶に小用をたすことを強いられ、バケツに大用をたすことを強いられる屈辱の監禁。その間、猿轡&頭袋のコンボははずしてもらえず。監禁する方としてはプロの仕事だけど、監禁される方としてはたまったもんじゃないし、第一観ている方がツライです。息ができない。アリス・クリード、絶体絶命(>_<)。
ところが。
二人組みのうち、確かにヴィックは情け容赦のない犯罪者っぽいんだけど、ダニーの方には迷いがあるっぽい。若くて経験不足だからか? とぼんやり観ていると、驚愕の展開。
以下、ネタバレしてますので、忌避の方はご注意ください。
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さすがに、縛ったまま大用をさせることは忍びなく思ったダニー、アリスに懇願されるままに足首の拘束を解いてしまいます。するとすかさず、反撃に出たアリスに銃を奪われてしまう頼りないダニー。銃口に狙われて叫んだ台詞が、「ぼくだよ! ダニーだよ!」
え? このふたり、知りあい?
ここが第一のビックリポイントです。ヴィックに引きずり込まれるままに、否応なく犯罪に加担させられてるっぽかったダニーが、実はある意味、この犯罪の仕掛け人であったというサプライジングな事実。
確かに、服役中の刑務所で計画を持ち出してきたのはヴィックの方ではあったんだけど、アリスをターゲットに選んだのはダニーだったのでした。アリスとつきあいのあるダニーは、富豪の娘とは言え父親とうまくいっていないアリスが、父親を憎んでいることを知っていたので、狂言誘拐を演じてアリスの父親から身代金を引き出し、アリスと一緒に逃げる、という青写真を描いていたのでした。
アリスとダニーの「つきあい」の程度がいまいちわからなかったので、この計画がどのくらいアリス側にメリットがあるものなのか不明だったのですが、でも、少なくともダニーにとっては、大金をせしめた後、いつ裏切るとも知れない(実際ダニーだってヴィックのことを裏切っているわけだし)むさくるしい刑務所仲間のおっさんと山分けするより、綺麗なアリスと逃げる方がいいに決まってます。だってほんとにヴィックってば、むさいし、支配的だし、暴力的だし、仕事が済み次第おさらばしたいタイプだものね、とぼんやり観ていると、またしても驚愕の展開。
すっかりナーバスになってしまってる様子のダニーを励ますために、「この仕事がうまくいったら」と当初の夢を思い出させて励まそうとするヴィック。大金を手に、うんうん、リッチなホテルに泊まって、うんうん、心行くまで、うんうん、セックスしようぜ!
え? このふたり、できてたの(汗)?
お茶吹きますよねー。そうかよ、そうくるのかよ。これが第二のビックリポイント。
三人の人間関係について、まずアリスとダニーのパートでひっくり返し、すかさずダニーとヴィックのパートでもひっくり返す。ダニーとヴィックの共犯関係に見えていたものが、ダニーとアリスの共謀に摩り替わり、そのことが共犯だったはずのヴィックにいつばれるかというサスペンスが生じると同時に、アリスの本音はあくまで見えず、この共謀がいつどのようにひっくり返るかもわからない。胸が躍ります。サスペンスにはこういう仕掛けがほしい♪
惜しむらくは、ダニーの裏切りが発覚した後の流れが消化試合というか、意外性にも緊迫感にも乏しいことで、最終的なアリスの選択も、想定の範囲から一歩も出ることがなかったということですが、でも、こういう話がこういう帰結を迎えることは、何よりも展開としては自然だし、予定調和的様式美(笑)を楽しめばいいのかもしれないです。
繰り返しになりますが、たった三人で101分の映画を支えた役者さんたちと、そんなミニマムな映画を成立させてしまったJ・ブレイクソン監督のプロのお仕事に感服です。
イギリスのJ・ブレイクソン監督の長編デビュー作。登場人物は、ジェマ・アータートン、マーティン・コムストン、そしてエディ・マーサンの三人だけ、というギリギリまでにミニマムなお話なんですが、これがとってもスリリングで面白いのであります☆ ブレイクソン監督、ウェルカム・トゥ・アワ・ワールド☆
なにやら犯罪の下準備をしているふたりの男、ヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)。ホームセンターで手際良く必要な品物を揃え、アジトにするアパートの空き部屋の窓を塞ぎ、防音加工を施し、頑丈な鍵を取り付け、拘束監禁用のベッドを用意する。その間、言葉を交わすこともなく、訓練の行き届いた軍隊のように、テキパキと適確に動いていく如何にも「プロ」の香りのする男たち。演出もまたキビキビとスピーディで、これから始まる物語への大いなる期待が膨らんでいきます。なによりも感慨深いのが、ホームセンターって、犯罪で必要なものが何でもまるっと手に入るよなぁ、ということです(そこか)。
ふたりのターゲットは、アリス・クリード。富豪の娘であることは言うに及ばず、ほどよくコンパクトな体型は、誘拐の際大層都合がいい。まんまと拉致に成功し、アパートに連れ込み、着ていた服を下着に到るまで全部まるまる剥ぎ取って、あらかじめ準備していたジャージの上下に着替えさせてしまう。あくまで証拠は残さないプロの心構え。
このシーンでまず観客はビックリするですね。誘拐されてきた娘は、顔に袋を被せられているし、化粧が流れるほど泣き喚いているし、猿轡をかまされて人相が変わっちゃってはいるけど、ジェマ・アタートンであるには違いないはずなのに、容赦なくまっぱに剥いてしまうわけで、え? まさか、アタートンがそこまでやらないよね? これってボディダブル? いや、待て、アリス・クリードを誘拐するにさきだち、その辺の名もないオネエチャンで予行演習やってるとかなにかそういうシーン? と一瞬混乱するです。
ところがどっこい、アタートン本人なんだね。これにはほんとに大感心。やっぱ役者さんはこうでなくては。「大胆な濡れ場」のはずのシーンで下着もとらないような女優さんは困る。や、なにがなんでも脱がないのは困る、と言っているのではなく、脱ぐ必然性があるシーンがあるのを承知で出演しておきながら脱がないのは困る、と言っているのです。脱ぎたくないのなら脱がずにすむ役を演じればいいだけで、脱ぐことが重要なシーンで裸ひとつ見せられないようなら、ちゃんとシーンの意味を理解して潔く脱ぐことのできるほかの女優さんと代わってください、と思う次第です。その点、天晴れだ、アタートン。
しかも、ベッドに縛りつけられて全裸に剥かれたことを手始めに、尿瓶に小用をたすことを強いられ、バケツに大用をたすことを強いられる屈辱の監禁。その間、猿轡&頭袋のコンボははずしてもらえず。監禁する方としてはプロの仕事だけど、監禁される方としてはたまったもんじゃないし、第一観ている方がツライです。息ができない。アリス・クリード、絶体絶命(>_<)。
ところが。
二人組みのうち、確かにヴィックは情け容赦のない犯罪者っぽいんだけど、ダニーの方には迷いがあるっぽい。若くて経験不足だからか? とぼんやり観ていると、驚愕の展開。
以下、ネタバレしてますので、忌避の方はご注意ください。
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さすがに、縛ったまま大用をさせることは忍びなく思ったダニー、アリスに懇願されるままに足首の拘束を解いてしまいます。するとすかさず、反撃に出たアリスに銃を奪われてしまう頼りないダニー。銃口に狙われて叫んだ台詞が、「ぼくだよ! ダニーだよ!」
え? このふたり、知りあい?
ここが第一のビックリポイントです。ヴィックに引きずり込まれるままに、否応なく犯罪に加担させられてるっぽかったダニーが、実はある意味、この犯罪の仕掛け人であったというサプライジングな事実。
確かに、服役中の刑務所で計画を持ち出してきたのはヴィックの方ではあったんだけど、アリスをターゲットに選んだのはダニーだったのでした。アリスとつきあいのあるダニーは、富豪の娘とは言え父親とうまくいっていないアリスが、父親を憎んでいることを知っていたので、狂言誘拐を演じてアリスの父親から身代金を引き出し、アリスと一緒に逃げる、という青写真を描いていたのでした。
アリスとダニーの「つきあい」の程度がいまいちわからなかったので、この計画がどのくらいアリス側にメリットがあるものなのか不明だったのですが、でも、少なくともダニーにとっては、大金をせしめた後、いつ裏切るとも知れない(実際ダニーだってヴィックのことを裏切っているわけだし)むさくるしい刑務所仲間のおっさんと山分けするより、綺麗なアリスと逃げる方がいいに決まってます。だってほんとにヴィックってば、むさいし、支配的だし、暴力的だし、仕事が済み次第おさらばしたいタイプだものね、とぼんやり観ていると、またしても驚愕の展開。
すっかりナーバスになってしまってる様子のダニーを励ますために、「この仕事がうまくいったら」と当初の夢を思い出させて励まそうとするヴィック。大金を手に、うんうん、リッチなホテルに泊まって、うんうん、心行くまで、うんうん、セックスしようぜ!
え? このふたり、できてたの(汗)?
お茶吹きますよねー。そうかよ、そうくるのかよ。これが第二のビックリポイント。
三人の人間関係について、まずアリスとダニーのパートでひっくり返し、すかさずダニーとヴィックのパートでもひっくり返す。ダニーとヴィックの共犯関係に見えていたものが、ダニーとアリスの共謀に摩り替わり、そのことが共犯だったはずのヴィックにいつばれるかというサスペンスが生じると同時に、アリスの本音はあくまで見えず、この共謀がいつどのようにひっくり返るかもわからない。胸が躍ります。サスペンスにはこういう仕掛けがほしい♪
惜しむらくは、ダニーの裏切りが発覚した後の流れが消化試合というか、意外性にも緊迫感にも乏しいことで、最終的なアリスの選択も、想定の範囲から一歩も出ることがなかったということですが、でも、こういう話がこういう帰結を迎えることは、何よりも展開としては自然だし、予定調和的様式美(笑)を楽しめばいいのかもしれないです。
繰り返しになりますが、たった三人で101分の映画を支えた役者さんたちと、そんなミニマムな映画を成立させてしまったJ・ブレイクソン監督のプロのお仕事に感服です。
by shirakian
| 2011-08-19 23:49
| 映画あ行