2011年 02月 05日
【海外ドラマ】Dr.HOUSE/シーズン4
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★ネタバレ注意★
【WARNING】今回のエントリーは、ラストまでほんとにきっちりネタバレしています!
■Dr.House/シーズン1
■Dr.House/シーズン2
■Dr.House/シーズン3
シーズン4は、ファンにとっては胸が張り裂けるほど辛い展開が待っていると聞いていたので、戦々恐々でした。結果、ラストを観終わった直後、完全にぼーっと放心してしまって、なにひとつ手につきませんでした。泣きすぎて頭が痛いです……。
ともあれ、前半の中心課題は、ハウスの新しいチーム選びです。
フォアマンに去られ、キャメロンに去られ、チェイスを首にしたハウスは、カディとウィルソンにせっつかれ、新しいチームの選抜に取り掛かります。しかしそこは、ハウスのこと、なかなかサクッと候補をしぼることをしない(できない)。
従って、不必要に大勢の候補者が登場するので、最初の数話は番組全体がザワザワした雰囲気で落ち着きません。なかなかに面白そうな人材もいるのだけれど、採用されないキャラクターはどうせすぐにいなくなってしまうのですから、感情移入なんかしたくありません。関係ないひとは早く退場してくれないかなー、と若干イライラしました。早く新生チームの活躍が見たくって(ちなみに、新生チーム、大変面白い顔ぶれとなりました☆ タウブもカトナーも、イケメンじゃないけど、キャラが立ってて楽しい。チームのバランスもいいです)。
それでも、フォアマンが戻って来てくれたのは大いに嬉しいことです☆ ハウスに手綱をかけたいカディの思惑と、ハウスの色に染まりすぎているという可愛そうな理由で、よその病院では軒並み採用を断れたフォアマンの事情が重なっての復帰ですが、戻っては来たものの、フォアマンの立場は微妙。新入りと同じではないけれど、裁量権を与えられたわけでもなく、いらぬ苦労をさせられるフォアマン。頑張れフォアマン! きみは番組に絶対必要だ!
そうしたメインの流れとは別に、前半では、ハウスとウィルソン、それぞれが自分自身を大事にしない相手に対する苛立ちに直面するシンメトリーな展開が目を惹きます。
まずはハウス。
長年全身麻痺を患い、さらに謎の疾患による症状に悩まされ、いっそ死を願う患者を担当することになったハウス。死んだら天国に行けるだなんて考え違いも甚だしいと、生きようとしない患者への苛立ちを募らせる一方、外来を訪れた別の患者。交通事故にあい、臨死体験をした男は、あんなすばらしい体験はなかったと、同じ状態の再現を試みて、ハウスの目の前で感電事故を起こすのです。前者の患者への反発と、後者の患者への好奇心に駆られたハウス、なんと自らも感電事故を引き起こし、臨死体験を試みるのです。
もはや言う必要、ないですね(笑)。こんなことされて、ウィルソンがどんだけ傷ついたか。
ハウスの新チーム選抜については、小姑よろしく小言を言いまくってたウィルソンですが(何人もの美女候補を抱えてウロウロするハウスに向かって、「優秀ならとっとと部下にしろ、バカならさっさと首にしてデートに誘え!」と容赦ない(笑))、今回のハウスの行動については、もはや何も言いません。ただハウスが投げ出した仕事を粛々と引き継ぎ、チームハウスの候補者たちにテキパキと指示を出し、ハウスの容態を黙って見守る。
怒りすら通り越した深い落胆、悲しみ、徒労感。にもかかわらず、「きみが痛みに苦しんでいるところなんか見ちゃいられない」と、痛み止めを処方してやるのです。
ここでハウスはウィルソンに、I love you.と告げます。
この台詞自体は、ハウス的含羞が言わせた「ありがとう」の変形に過ぎないし、ウィルソンも肩をすくめて応じるだけなのだけど、かれのやりきれない胸のうちは、察するに余りある。
そして一方ウィルソン。
ウィルソンは三ヶ月前、担当患者に六ヶ月の余命宣告をするのですが、その後病状が悪化しないことを不審に思い、再チェックを行ったところ、診断ミスであったことに気づきます。三ヶ月もの間患者を謂れなく苦しめてしまったと自分を責めるウィルソンに、ハウスは、これは別に医師が責任を問われるべきケースではないし、なにより患者自身が、余命宣告をされたことにより、退屈な自分の人生から一時なりとも抜け出して、スポットライトを浴びることができたんだからいいじゃないかとなだめるのですが、ウィルソンは納得しません。この患者に対し、自腹で賠償金(死を覚悟して自宅を売り払う手続きをしてしまった患者が、家を売らなくても仲介者に支払わなければならない手数料としての六千ドル相当)を支払おうとするのです。
なんらかの直感で(笑)ウィルソンの挙動を察知したハウスは、患者に入れ知恵し、そんなはした金など受け取れない、納得のできる賠償が得られるよう訴訟を起こす、と言わせるのです。
診断をまちがったからではなく、正しく診断したからといって訴訟を起こす? そんなばかな。
ウィルソンもまた、なんらかの直感で(笑)事がハウスの入れ知恵だと気づき、抗議します。ハウスは最初、きみが余計なことに金を使ってすっからかんになったら、おれの生活に支障が出るから、金の使い方を教えてやっているんだ、と嘯くのですが、もちろん、そんなヨタ話などウィルソンに通用するはずがありません。ぼくはただ取るべき責任を取ろうとしているだけだ、と噛みつきます。
「きみってやつは、なんでもかんでも自分の責任だと思うんだな! 患者の退屈な人生も、友だちのヘマも……」
「そう言うきみは、目をそむけようとしてばかりいるじゃないか! ぼくの患者よりもっと、生きようとしちゃいない! 死ぬなんて容易いことだ。困難なのは生きることなんだ!」
オンコロジストとしてたくさんの死を見送ってきたウィルソンならではの台詞です。そして、さきのエピソードで命を弄ぶような真似をしたハウスへの怒りが根底にくすぶっていたのです。
だけど、ハウスがウィルソンの邪魔をしようとしたのは、ウィルソンが糾弾したように、ハウスがゲーム感覚で他人を操ることを楽しんでいたからではなく、激しい不安にかられていたからなんだと思う。自分の命を弄ぶようなハウスの態度が、ウィルソンを傷つけたのと同じように、ウィルソンの金や財産といったものに対する執着のなさは、ハウスを怯えさせたのだと思う。ハウスは自身が妄執のひとだから、ウィルソンの執着のなさが怖いのです。いつでもフラリといなくなってしまいそうな不安感がある。
そうしたハウスの不安が顕在化するのが、後半のメインイベント。ウィルソンとアンバーの物語です。
アンバーはハウスの新チームの候補者のひとり。数十人もの候補の中から三人枠に対する最後の四人にまで残った優秀な医師です。しかも、ハウスが彼女を不採用にした理由は、彼女の力量に不足があったためではなく、彼女があまりにも負けず嫌いであったためでした。
自分の下で働けば、常に自分の過ちを意識し、負けを認めなければならない、なぜならわれわれの仕事はそういうものだから。きみはそれに耐えられないだろう。ハウスはアンバーにそう告げて首を宣告するのです。
しかしこのアンバー、医師としてはハウスが雇うに吝かでないと思えるだけの逸材でしたが、人間としては大いに問題ありの人物。とにかく、自分の目的のためには手段を選ばない腹黒さで、ついたあだ名が「cutthroat bitch」(笑)。こんな華々しいワルグチ、初めて見たわ(笑)。
……とはいえ、わたしは最初からこのひと、キライじゃなかったです。いつもあまりにも必死なので、いっそひたむきな感じがしたし、なにより、自分を客観視できるひとで、偽善の臭いがしないところに好感がもてたのです。
ウィルソンは当初、アンバーとつきあい始めたことを、ハウスには(当然)秘密にしていたのですが、ある日淡いラベンダー色のシャツを着ていたら(上品な色合いで、ウィルソンにとてもよくお似合い)、一体だれのためにそんなシャツを着ているんだと見咎められ、執拗な追及にあった挙句、交際が発覚してしまいます。さあ、ハウスの騒ぐまいことか(笑)。
最初のうちハウスは、ウィルソンはアンバーの色香に惑わされているのだと決め付けます。だって、そう思った方が都合がいい。ハウスとウィルソンは、それこそ仕事のことでも、スポーツを観戦するにしても、酒を飲むにしても、人生のさまざまな局面を共有しているけれど、セックスだけは別。だから、ウィルソンがアンバーに惹かれた理由がセックスなら、ハウスはアンバーと競合しないし、する必要もない。別にアンバーに負けたわけじゃないと思える。
ところが、アンバーに対して微塵も揺らがないウィルソンの態度を見て、かれが本気で彼女を愛していることを認めざるを得なくなってしまいます。
ウィルソンは、「目的のためには手段を選ばない」「他人を容易く手玉にとって操る」等々、ろくな評判のないアンバーのことを、こう評するのです。
彼女は何に取り組む時でも、いつだって一生懸命なんだ。まるで陥落間近のサイゴンから脱出する最後のヘリコプターに乗り込もうとしているひとみたいに。
アンバーの我欲剥き出しの我武者羅さは、浅ましいと切って棄てることもできますが、逆に、受身で待ってさえいれば、だれかがどうにかしてくれる、という育ちではなかったことを伺わせるもので、彼女は恐らく、頼れるのは自分だけだという覚悟の下に、今まで生きてきたのだと思います。アンバーが自分の生い立ちについて詳しくウィルソンに語ったとも思えないのですが、それでもウィルソンは、敏感に彼女のそんな部分を感じ取り、いじらしいと思っているのです。 ……ウィルソン、いいひと。アンバーも、いとおしい(>_<)。
そんなウィルソンにハウスは愕然となります。しかも、その衝撃には、さらなる衝撃のおまけがあった。
単にセックスの相性がいいってだけじゃないな? きみは彼女のパーソナリティが好きなんだ。きみは彼女が陰謀家だから好きなんだ。彼女が結果なんか知ったこっちゃないと思ってるから好きなんだ。彼女が他人を辱めることができるから……ちょっと待てよ、きみが寝ているのは、おれか?
(爆笑)。鼻から牛乳(笑)。
ウィルソンは、そんなハウスの「発見」に呆れかえって相手にしませんが、ハウスにとっては大問題です。なんとかその事実の「抜け道」を探します。
わかった、おれがまちがってた。彼女はおれじゃない。いや、確かにおれじゃあるんだが、彼女が魅力的なのはそいつが理由じゃない。彼女は、needyバージョンのおれなんだ。
ニーディ・バージョンって、「痛々しいバージョン」っていう訳になってますけど、うーん、もっとなんかいい訳ないかな。ウィルソンが「ニーディ・ピープル・フェチ」である、という言及はすでに何度もなされているのだし……。ともかくウィルソンは、アンバーは決してニーディなんかじゃない、と強く否定するのです。ぼくは今までの女性とのつきあいのパターンを変えたんだ、と。
確かに、後にアンバーは言います。自分は今まで、愛と尊敬は両立しないと思っていたから、常に尊敬だけを選んできたけれど、ウィルソンはちがう。かれはわたしにその両方をくれたのだ、と。つまりウィルソンは、いつものパターンで、アンバーが助けを必要としているから、つい手を差し出してしまったわけではなく、アンバーのバイタリティや潔さや聡明さ(や美しさや楽しさ)を、愛すると同時に尊敬してもいたということです。本当に、ウィルソンにとってアンバーは、今までの女性に対する悪い循環から抜け出させてくれた、理想の女性だったのだと思う。
かくてハウス、あの手この手で、「自分そっくりの女」をウィルソンから遠ざけようとします。
直接アンバーを懐柔しようとする一方で、カディにもウィルソンを「説得」するよう泣きつく。
これを受けて、ウィルソンに釘を刺しに行ったカディの台詞が傑作なので、是非とも記録にとどめておきましょう(笑)。
彼女、あなたを巣穴に引きずりこもうとしているだけじゃなく、逆様に吊るして卵を産みつけようとしてるのよ。そこんとこわかってる? アンバーは、何がなんでも周りの人間を蹴落とそうとする人間だけど、あなたはなんとかして周りの人間を助けようとする人間だわ。あなたなんか、彼女に食い尽くされておしまいよ。最後に残るのは、床に横たわるウィルソンの死骸だけ。お気の毒様。
ウィルソン、一言も反論できず、目を白茶色させてます(笑)。ワオ。
だけど、どう足掻いたって、ウィルソンを取り戻すことはできない。ついにハウスは、ふたりの交際を認める旨を、ウィルソンに伝えるのです。
ウィルソンがアンバーとの関係を、すぐにハウスに言えなかったのは、自分がハウス以外の人間を選べば、ハウスが傷つくことがわかっていながら、それでも彼女を選ばずにはいられなかったからで、でも、本音のところでは、ウィルソンはハウスに祝福してほしかったし、ハウスとアンバーにも仲良くしてほしかった。
もしかしたら、今までの元妻たちや、ほかにつきあいのあった女性たちについては、ウィルソンは最初から、ハウスとうまくやることなんか、期待していなかったかもしれないけれど、アンバーに関してはその可能性があり、だったら、「3人でうまくやっていく」ことが望めるかもしれない。
ウィルソンはアンバーと恋に落ちたけれど、ハウスとの友情だって、それに負けないくらい大切に思っていたのです。どちらも失いたくなかった。それにはハウスが譲歩してくれるしかない。だからウィルソンは、ハウスが共同親権(笑)だの何だのと大騒ぎしている間、まるで他人事みたいに一歩引いた立ち位置で、ハウスの去就を見守っていたのです。
ハウスがアンバーにからむとき、ウィルソンは陰でこっそり微笑んでいます。なぜなら、ひどい悪口雑言をあびせるハウスのやり方は、ハウスなりのコミュニケーションのとりかたなのだし、アンバーはアンバーで、ハウスごときに言い負かされるような女性ではないから。ふたりが角突合せているということは、ふたりが互いに相手を認め、コミュニケーションをとろうとしているということに他ならない。ウィルソンとしては、何も口出しする必要はないのです。決して日和見をきめこんでいたわけでもなければ、ましてや、自分を巡って他人が争うことを楽しんでいたわけでもない。ハウスはきっと寂しかったと思うけど、ウィルソンはとても、幸せだったにちがいないのです。
それなのに。
最後の最後になって、物語はキャラクターに牙をむきます。
医療ドラマでありながら、今まで極力「死」を前面に出さない慎ましい姿勢を貫いてきたこの番組が、ここにいたって、最も死なせてはいけないひとを(ほかならぬウィルソンが愛したひとを)無残なやり方で殺してしまいました。
事の経緯はこうです。
ウィルソンに見捨てられたような気がして、寂しくてたまらないハウス、夕方の5時台からひとりで自棄酒を煽ってしまい、バーテンダーにバイクのキイを取り上げられてしまいます。ウィルソンに迎えに来るよう電話をかけたところ、ウィルソンは仕事で不在で、たまたま家にいたアンバーが迎えに来てくれることに。ところが、帰途のバスが事故に遭い、アンバーは重傷を負ってしまう。そのとき、ひどい風邪をひいていたアンバーは、インフルエンザの治療薬を服用していたのだけれど、事故で腎臓障害が起こり、飲んだ薬を濾過することが出来ず、薬の成分であるアマンタジンの中毒を発症して、心臓や肝臓がダメになってしまったのでした。ハウスは事故の直前、アンバーが薬を服用するのを目撃していたので、彼女の病変の原因を、初めから知っていたのです。
シンプルな診断です。残酷なほどにシンプルな、あってはならない偶然の不幸。たかが風邪薬で、まだ30歳にもならない、幸せの真っ只中にいる優秀な女性が命を落す? あってはならない偶然の不幸ですが、実にシンプルな診断です。
ですが、この番組は「医療ミステリ」がテーマ。このシンプルな病状をそのまま描いては芸がない。その結果、ハウスが外傷性のショックにより4時間分の記憶を喪失してしまった、という設定を作り、ハウスが目撃したはずの症状が、だれの身に起きた、いかなるものであったかをなんとかして解き明かそうとする、そのために様々なアプローチからハウスのインナースペースにダイブする、という手法がとられています。
実によくできた脚本です。絵的にも面白い。……ですがわたしには、たまらなくウザく感じられました。アンバーが死のうとしているのに、技巧に凝ってどうするんだろう。ひとの死は死として、なぜ素直に静かに語れないのか。……全く言いがかりもいいところです。エンターテイメントを楽しむ姿勢じゃないにも甚だしいです。だけど、そう思ってしまったんだから仕方がない。
だって、ウィルソンが、あんなに苦しんでいるのに。悲しんでいるのに(>_<)。
ウィルソンは、一本の藁にすがるように、ハウスの診断にすがりつきます。ウィルソンにとって、ハウスだけが一筋の光明だったのです。ハウスが思い出してくれさえしたら、彼女は助かるかもしれない。そのための時間稼ぎに、彼女の体温を下げ、心臓バイパスを施すのですが、その結果、有効な検査も治療も、一切できなくなってしまいます。結果としては、検査や治療を行っていたところで、原因が原因だけに、助かる見込みはなかったわけですが、そんなこと、途中経過ではわからない。
とにかく、治療よりも逃避の低体温を続けさせようとするウィルソンに、唯々諾々と従うだけで、いつものような果断な処置ができないハウスに、フォアマンは懸念をぶつけます。ウィルソンはこの場では医師ではない、家族だ、患者の家族はいつも怖がっている、ウィルソンに限ったことじゃない、そんな声に耳を傾けていたら、助かる患者も助からなくなってしまう。ハウス、ウィルソンはまちがっているのに、あなたはウィルソンの言いなりになるんですか?
ついに、アンバーの体温をあげ、心臓を動かすことを決意するハウスですが、そんなハウスにウィルソンは残酷な願いごとをします。ハウスの記憶を蘇らせる最後の手段として、脳深部刺激(要するに電気ショック)を行ってくれ、と。
いままでにも記憶を呼び覚ますために散々危険な試みを行い、何度も発作を起こしているハウスです。このタイミングでそれをすれば、ハウス自身の命が危ないかもしれないのです。それがわかっていて、敢てそれをしてくれと頼むウィルソン。応じるハウス。……心臓が潰れそうで観ていられません。
だけど、結局、なにをしても、どう足掻いても、アンバーは助からない。ウィルソンは最後に、麻酔から目覚めたアンバーに、病状についてきちんと説明します。それは死亡宣告です。アンバーは正確に理解します。共に医者です。誤魔化しようなどなかった。
わたしは、大事なひとを亡くしたときに、癌だと言われても、それがどういうことか、わからなかった。末期だと言われても、わからなかった。手の施しようがないと言われても、わからなかった。日々、ただ衰えていくということが、わからなかった。死につつあるということが、わからなかった。ただ、今日を乗り越えたら、明日は少し、回復しているかもしれない、涼しくなったら、外出できるようになるかもしれない、春が来て、また夏が来れば、退院できるかもしれない、もちろんそれは少しさきの話だけれど、明日がないなんて、わからなかった。
でも、ウィルソンは、医師だから、つきつけられる数値のひとつひとつ、目に見える症状のひとつひとつ、みんな全部、わかってしまった、わかっていて、それでも見守るしかないことの辛さは、想像を絶するのです。辛すぎて、悲しすぎて、ほんとうに心臓が潰れそうでした。
ウィルソンが泣くので……ああ、そして、ハウスもまた、泣くので……。
ハウスは、昏睡の中で、死んでしまったアンバーに語るのです。死ぬべきは、きみじゃなく、おれであるべきだったのに。ウィルソンに嫌われてしまう。このままきみと一緒に行きたい。ウィルソンに嫌われてまで、生きていたくない。
アンバーは、しょうがないでしょ、あなたはそれだけのことをしたんだから、とすげないのですが、その口調も表情も、とても優しい。とても美しい。
でも、わたしは思うのですが、ハウスは確かに原因の一端を作ってはしまったけれど、全てはたぶん、不可抗力で、決してハウスのせいじゃない。
ウィルソン? ハウスのせいじゃないよ? どうか、ハウスを嫌わないで。
【WARNING】今回のエントリーは、ラストまでほんとにきっちりネタバレしています!
■Dr.House/シーズン1
■Dr.House/シーズン2
■Dr.House/シーズン3
シーズン4は、ファンにとっては胸が張り裂けるほど辛い展開が待っていると聞いていたので、戦々恐々でした。結果、ラストを観終わった直後、完全にぼーっと放心してしまって、なにひとつ手につきませんでした。泣きすぎて頭が痛いです……。
ともあれ、前半の中心課題は、ハウスの新しいチーム選びです。
フォアマンに去られ、キャメロンに去られ、チェイスを首にしたハウスは、カディとウィルソンにせっつかれ、新しいチームの選抜に取り掛かります。しかしそこは、ハウスのこと、なかなかサクッと候補をしぼることをしない(できない)。
従って、不必要に大勢の候補者が登場するので、最初の数話は番組全体がザワザワした雰囲気で落ち着きません。なかなかに面白そうな人材もいるのだけれど、採用されないキャラクターはどうせすぐにいなくなってしまうのですから、感情移入なんかしたくありません。関係ないひとは早く退場してくれないかなー、と若干イライラしました。早く新生チームの活躍が見たくって(ちなみに、新生チーム、大変面白い顔ぶれとなりました☆ タウブもカトナーも、イケメンじゃないけど、キャラが立ってて楽しい。チームのバランスもいいです)。
それでも、フォアマンが戻って来てくれたのは大いに嬉しいことです☆ ハウスに手綱をかけたいカディの思惑と、ハウスの色に染まりすぎているという可愛そうな理由で、よその病院では軒並み採用を断れたフォアマンの事情が重なっての復帰ですが、戻っては来たものの、フォアマンの立場は微妙。新入りと同じではないけれど、裁量権を与えられたわけでもなく、いらぬ苦労をさせられるフォアマン。頑張れフォアマン! きみは番組に絶対必要だ!
そうしたメインの流れとは別に、前半では、ハウスとウィルソン、それぞれが自分自身を大事にしない相手に対する苛立ちに直面するシンメトリーな展開が目を惹きます。
まずはハウス。
長年全身麻痺を患い、さらに謎の疾患による症状に悩まされ、いっそ死を願う患者を担当することになったハウス。死んだら天国に行けるだなんて考え違いも甚だしいと、生きようとしない患者への苛立ちを募らせる一方、外来を訪れた別の患者。交通事故にあい、臨死体験をした男は、あんなすばらしい体験はなかったと、同じ状態の再現を試みて、ハウスの目の前で感電事故を起こすのです。前者の患者への反発と、後者の患者への好奇心に駆られたハウス、なんと自らも感電事故を引き起こし、臨死体験を試みるのです。
もはや言う必要、ないですね(笑)。こんなことされて、ウィルソンがどんだけ傷ついたか。
ハウスの新チーム選抜については、小姑よろしく小言を言いまくってたウィルソンですが(何人もの美女候補を抱えてウロウロするハウスに向かって、「優秀ならとっとと部下にしろ、バカならさっさと首にしてデートに誘え!」と容赦ない(笑))、今回のハウスの行動については、もはや何も言いません。ただハウスが投げ出した仕事を粛々と引き継ぎ、チームハウスの候補者たちにテキパキと指示を出し、ハウスの容態を黙って見守る。
怒りすら通り越した深い落胆、悲しみ、徒労感。にもかかわらず、「きみが痛みに苦しんでいるところなんか見ちゃいられない」と、痛み止めを処方してやるのです。
ここでハウスはウィルソンに、I love you.と告げます。
この台詞自体は、ハウス的含羞が言わせた「ありがとう」の変形に過ぎないし、ウィルソンも肩をすくめて応じるだけなのだけど、かれのやりきれない胸のうちは、察するに余りある。
そして一方ウィルソン。
ウィルソンは三ヶ月前、担当患者に六ヶ月の余命宣告をするのですが、その後病状が悪化しないことを不審に思い、再チェックを行ったところ、診断ミスであったことに気づきます。三ヶ月もの間患者を謂れなく苦しめてしまったと自分を責めるウィルソンに、ハウスは、これは別に医師が責任を問われるべきケースではないし、なにより患者自身が、余命宣告をされたことにより、退屈な自分の人生から一時なりとも抜け出して、スポットライトを浴びることができたんだからいいじゃないかとなだめるのですが、ウィルソンは納得しません。この患者に対し、自腹で賠償金(死を覚悟して自宅を売り払う手続きをしてしまった患者が、家を売らなくても仲介者に支払わなければならない手数料としての六千ドル相当)を支払おうとするのです。
なんらかの直感で(笑)ウィルソンの挙動を察知したハウスは、患者に入れ知恵し、そんなはした金など受け取れない、納得のできる賠償が得られるよう訴訟を起こす、と言わせるのです。
診断をまちがったからではなく、正しく診断したからといって訴訟を起こす? そんなばかな。
ウィルソンもまた、なんらかの直感で(笑)事がハウスの入れ知恵だと気づき、抗議します。ハウスは最初、きみが余計なことに金を使ってすっからかんになったら、おれの生活に支障が出るから、金の使い方を教えてやっているんだ、と嘯くのですが、もちろん、そんなヨタ話などウィルソンに通用するはずがありません。ぼくはただ取るべき責任を取ろうとしているだけだ、と噛みつきます。
「きみってやつは、なんでもかんでも自分の責任だと思うんだな! 患者の退屈な人生も、友だちのヘマも……」
「そう言うきみは、目をそむけようとしてばかりいるじゃないか! ぼくの患者よりもっと、生きようとしちゃいない! 死ぬなんて容易いことだ。困難なのは生きることなんだ!」
オンコロジストとしてたくさんの死を見送ってきたウィルソンならではの台詞です。そして、さきのエピソードで命を弄ぶような真似をしたハウスへの怒りが根底にくすぶっていたのです。
だけど、ハウスがウィルソンの邪魔をしようとしたのは、ウィルソンが糾弾したように、ハウスがゲーム感覚で他人を操ることを楽しんでいたからではなく、激しい不安にかられていたからなんだと思う。自分の命を弄ぶようなハウスの態度が、ウィルソンを傷つけたのと同じように、ウィルソンの金や財産といったものに対する執着のなさは、ハウスを怯えさせたのだと思う。ハウスは自身が妄執のひとだから、ウィルソンの執着のなさが怖いのです。いつでもフラリといなくなってしまいそうな不安感がある。
そうしたハウスの不安が顕在化するのが、後半のメインイベント。ウィルソンとアンバーの物語です。
アンバーはハウスの新チームの候補者のひとり。数十人もの候補の中から三人枠に対する最後の四人にまで残った優秀な医師です。しかも、ハウスが彼女を不採用にした理由は、彼女の力量に不足があったためではなく、彼女があまりにも負けず嫌いであったためでした。
自分の下で働けば、常に自分の過ちを意識し、負けを認めなければならない、なぜならわれわれの仕事はそういうものだから。きみはそれに耐えられないだろう。ハウスはアンバーにそう告げて首を宣告するのです。
しかしこのアンバー、医師としてはハウスが雇うに吝かでないと思えるだけの逸材でしたが、人間としては大いに問題ありの人物。とにかく、自分の目的のためには手段を選ばない腹黒さで、ついたあだ名が「cutthroat bitch」(笑)。こんな華々しいワルグチ、初めて見たわ(笑)。
……とはいえ、わたしは最初からこのひと、キライじゃなかったです。いつもあまりにも必死なので、いっそひたむきな感じがしたし、なにより、自分を客観視できるひとで、偽善の臭いがしないところに好感がもてたのです。
ウィルソンは当初、アンバーとつきあい始めたことを、ハウスには(当然)秘密にしていたのですが、ある日淡いラベンダー色のシャツを着ていたら(上品な色合いで、ウィルソンにとてもよくお似合い)、一体だれのためにそんなシャツを着ているんだと見咎められ、執拗な追及にあった挙句、交際が発覚してしまいます。さあ、ハウスの騒ぐまいことか(笑)。
最初のうちハウスは、ウィルソンはアンバーの色香に惑わされているのだと決め付けます。だって、そう思った方が都合がいい。ハウスとウィルソンは、それこそ仕事のことでも、スポーツを観戦するにしても、酒を飲むにしても、人生のさまざまな局面を共有しているけれど、セックスだけは別。だから、ウィルソンがアンバーに惹かれた理由がセックスなら、ハウスはアンバーと競合しないし、する必要もない。別にアンバーに負けたわけじゃないと思える。
ところが、アンバーに対して微塵も揺らがないウィルソンの態度を見て、かれが本気で彼女を愛していることを認めざるを得なくなってしまいます。
ウィルソンは、「目的のためには手段を選ばない」「他人を容易く手玉にとって操る」等々、ろくな評判のないアンバーのことを、こう評するのです。
彼女は何に取り組む時でも、いつだって一生懸命なんだ。まるで陥落間近のサイゴンから脱出する最後のヘリコプターに乗り込もうとしているひとみたいに。
アンバーの我欲剥き出しの我武者羅さは、浅ましいと切って棄てることもできますが、逆に、受身で待ってさえいれば、だれかがどうにかしてくれる、という育ちではなかったことを伺わせるもので、彼女は恐らく、頼れるのは自分だけだという覚悟の下に、今まで生きてきたのだと思います。アンバーが自分の生い立ちについて詳しくウィルソンに語ったとも思えないのですが、それでもウィルソンは、敏感に彼女のそんな部分を感じ取り、いじらしいと思っているのです。 ……ウィルソン、いいひと。アンバーも、いとおしい(>_<)。
そんなウィルソンにハウスは愕然となります。しかも、その衝撃には、さらなる衝撃のおまけがあった。
単にセックスの相性がいいってだけじゃないな? きみは彼女のパーソナリティが好きなんだ。きみは彼女が陰謀家だから好きなんだ。彼女が結果なんか知ったこっちゃないと思ってるから好きなんだ。彼女が他人を辱めることができるから……ちょっと待てよ、きみが寝ているのは、おれか?
(爆笑)。鼻から牛乳(笑)。
ウィルソンは、そんなハウスの「発見」に呆れかえって相手にしませんが、ハウスにとっては大問題です。なんとかその事実の「抜け道」を探します。
わかった、おれがまちがってた。彼女はおれじゃない。いや、確かにおれじゃあるんだが、彼女が魅力的なのはそいつが理由じゃない。彼女は、needyバージョンのおれなんだ。
ニーディ・バージョンって、「痛々しいバージョン」っていう訳になってますけど、うーん、もっとなんかいい訳ないかな。ウィルソンが「ニーディ・ピープル・フェチ」である、という言及はすでに何度もなされているのだし……。ともかくウィルソンは、アンバーは決してニーディなんかじゃない、と強く否定するのです。ぼくは今までの女性とのつきあいのパターンを変えたんだ、と。
確かに、後にアンバーは言います。自分は今まで、愛と尊敬は両立しないと思っていたから、常に尊敬だけを選んできたけれど、ウィルソンはちがう。かれはわたしにその両方をくれたのだ、と。つまりウィルソンは、いつものパターンで、アンバーが助けを必要としているから、つい手を差し出してしまったわけではなく、アンバーのバイタリティや潔さや聡明さ(や美しさや楽しさ)を、愛すると同時に尊敬してもいたということです。本当に、ウィルソンにとってアンバーは、今までの女性に対する悪い循環から抜け出させてくれた、理想の女性だったのだと思う。
かくてハウス、あの手この手で、「自分そっくりの女」をウィルソンから遠ざけようとします。
直接アンバーを懐柔しようとする一方で、カディにもウィルソンを「説得」するよう泣きつく。
これを受けて、ウィルソンに釘を刺しに行ったカディの台詞が傑作なので、是非とも記録にとどめておきましょう(笑)。
彼女、あなたを巣穴に引きずりこもうとしているだけじゃなく、逆様に吊るして卵を産みつけようとしてるのよ。そこんとこわかってる? アンバーは、何がなんでも周りの人間を蹴落とそうとする人間だけど、あなたはなんとかして周りの人間を助けようとする人間だわ。あなたなんか、彼女に食い尽くされておしまいよ。最後に残るのは、床に横たわるウィルソンの死骸だけ。お気の毒様。
ウィルソン、一言も反論できず、目を白茶色させてます(笑)。ワオ。
だけど、どう足掻いたって、ウィルソンを取り戻すことはできない。ついにハウスは、ふたりの交際を認める旨を、ウィルソンに伝えるのです。
ウィルソンがアンバーとの関係を、すぐにハウスに言えなかったのは、自分がハウス以外の人間を選べば、ハウスが傷つくことがわかっていながら、それでも彼女を選ばずにはいられなかったからで、でも、本音のところでは、ウィルソンはハウスに祝福してほしかったし、ハウスとアンバーにも仲良くしてほしかった。
もしかしたら、今までの元妻たちや、ほかにつきあいのあった女性たちについては、ウィルソンは最初から、ハウスとうまくやることなんか、期待していなかったかもしれないけれど、アンバーに関してはその可能性があり、だったら、「3人でうまくやっていく」ことが望めるかもしれない。
ウィルソンはアンバーと恋に落ちたけれど、ハウスとの友情だって、それに負けないくらい大切に思っていたのです。どちらも失いたくなかった。それにはハウスが譲歩してくれるしかない。だからウィルソンは、ハウスが共同親権(笑)だの何だのと大騒ぎしている間、まるで他人事みたいに一歩引いた立ち位置で、ハウスの去就を見守っていたのです。
ハウスがアンバーにからむとき、ウィルソンは陰でこっそり微笑んでいます。なぜなら、ひどい悪口雑言をあびせるハウスのやり方は、ハウスなりのコミュニケーションのとりかたなのだし、アンバーはアンバーで、ハウスごときに言い負かされるような女性ではないから。ふたりが角突合せているということは、ふたりが互いに相手を認め、コミュニケーションをとろうとしているということに他ならない。ウィルソンとしては、何も口出しする必要はないのです。決して日和見をきめこんでいたわけでもなければ、ましてや、自分を巡って他人が争うことを楽しんでいたわけでもない。ハウスはきっと寂しかったと思うけど、ウィルソンはとても、幸せだったにちがいないのです。
それなのに。
最後の最後になって、物語はキャラクターに牙をむきます。
医療ドラマでありながら、今まで極力「死」を前面に出さない慎ましい姿勢を貫いてきたこの番組が、ここにいたって、最も死なせてはいけないひとを(ほかならぬウィルソンが愛したひとを)無残なやり方で殺してしまいました。
事の経緯はこうです。
ウィルソンに見捨てられたような気がして、寂しくてたまらないハウス、夕方の5時台からひとりで自棄酒を煽ってしまい、バーテンダーにバイクのキイを取り上げられてしまいます。ウィルソンに迎えに来るよう電話をかけたところ、ウィルソンは仕事で不在で、たまたま家にいたアンバーが迎えに来てくれることに。ところが、帰途のバスが事故に遭い、アンバーは重傷を負ってしまう。そのとき、ひどい風邪をひいていたアンバーは、インフルエンザの治療薬を服用していたのだけれど、事故で腎臓障害が起こり、飲んだ薬を濾過することが出来ず、薬の成分であるアマンタジンの中毒を発症して、心臓や肝臓がダメになってしまったのでした。ハウスは事故の直前、アンバーが薬を服用するのを目撃していたので、彼女の病変の原因を、初めから知っていたのです。
シンプルな診断です。残酷なほどにシンプルな、あってはならない偶然の不幸。たかが風邪薬で、まだ30歳にもならない、幸せの真っ只中にいる優秀な女性が命を落す? あってはならない偶然の不幸ですが、実にシンプルな診断です。
ですが、この番組は「医療ミステリ」がテーマ。このシンプルな病状をそのまま描いては芸がない。その結果、ハウスが外傷性のショックにより4時間分の記憶を喪失してしまった、という設定を作り、ハウスが目撃したはずの症状が、だれの身に起きた、いかなるものであったかをなんとかして解き明かそうとする、そのために様々なアプローチからハウスのインナースペースにダイブする、という手法がとられています。
実によくできた脚本です。絵的にも面白い。……ですがわたしには、たまらなくウザく感じられました。アンバーが死のうとしているのに、技巧に凝ってどうするんだろう。ひとの死は死として、なぜ素直に静かに語れないのか。……全く言いがかりもいいところです。エンターテイメントを楽しむ姿勢じゃないにも甚だしいです。だけど、そう思ってしまったんだから仕方がない。
だって、ウィルソンが、あんなに苦しんでいるのに。悲しんでいるのに(>_<)。
ウィルソンは、一本の藁にすがるように、ハウスの診断にすがりつきます。ウィルソンにとって、ハウスだけが一筋の光明だったのです。ハウスが思い出してくれさえしたら、彼女は助かるかもしれない。そのための時間稼ぎに、彼女の体温を下げ、心臓バイパスを施すのですが、その結果、有効な検査も治療も、一切できなくなってしまいます。結果としては、検査や治療を行っていたところで、原因が原因だけに、助かる見込みはなかったわけですが、そんなこと、途中経過ではわからない。
とにかく、治療よりも逃避の低体温を続けさせようとするウィルソンに、唯々諾々と従うだけで、いつものような果断な処置ができないハウスに、フォアマンは懸念をぶつけます。ウィルソンはこの場では医師ではない、家族だ、患者の家族はいつも怖がっている、ウィルソンに限ったことじゃない、そんな声に耳を傾けていたら、助かる患者も助からなくなってしまう。ハウス、ウィルソンはまちがっているのに、あなたはウィルソンの言いなりになるんですか?
ついに、アンバーの体温をあげ、心臓を動かすことを決意するハウスですが、そんなハウスにウィルソンは残酷な願いごとをします。ハウスの記憶を蘇らせる最後の手段として、脳深部刺激(要するに電気ショック)を行ってくれ、と。
いままでにも記憶を呼び覚ますために散々危険な試みを行い、何度も発作を起こしているハウスです。このタイミングでそれをすれば、ハウス自身の命が危ないかもしれないのです。それがわかっていて、敢てそれをしてくれと頼むウィルソン。応じるハウス。……心臓が潰れそうで観ていられません。
だけど、結局、なにをしても、どう足掻いても、アンバーは助からない。ウィルソンは最後に、麻酔から目覚めたアンバーに、病状についてきちんと説明します。それは死亡宣告です。アンバーは正確に理解します。共に医者です。誤魔化しようなどなかった。
わたしは、大事なひとを亡くしたときに、癌だと言われても、それがどういうことか、わからなかった。末期だと言われても、わからなかった。手の施しようがないと言われても、わからなかった。日々、ただ衰えていくということが、わからなかった。死につつあるということが、わからなかった。ただ、今日を乗り越えたら、明日は少し、回復しているかもしれない、涼しくなったら、外出できるようになるかもしれない、春が来て、また夏が来れば、退院できるかもしれない、もちろんそれは少しさきの話だけれど、明日がないなんて、わからなかった。
でも、ウィルソンは、医師だから、つきつけられる数値のひとつひとつ、目に見える症状のひとつひとつ、みんな全部、わかってしまった、わかっていて、それでも見守るしかないことの辛さは、想像を絶するのです。辛すぎて、悲しすぎて、ほんとうに心臓が潰れそうでした。
ウィルソンが泣くので……ああ、そして、ハウスもまた、泣くので……。
ハウスは、昏睡の中で、死んでしまったアンバーに語るのです。死ぬべきは、きみじゃなく、おれであるべきだったのに。ウィルソンに嫌われてしまう。このままきみと一緒に行きたい。ウィルソンに嫌われてまで、生きていたくない。
アンバーは、しょうがないでしょ、あなたはそれだけのことをしたんだから、とすげないのですが、その口調も表情も、とても優しい。とても美しい。
でも、わたしは思うのですが、ハウスは確かに原因の一端を作ってはしまったけれど、全てはたぶん、不可抗力で、決してハウスのせいじゃない。
ウィルソン? ハウスのせいじゃないよ? どうか、ハウスを嫌わないで。
by shirakian
| 2011-02-05 19:26
| 海外ドラマ