2010年 05月 18日
タイタンの戦い
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『ダニー・ザ・ドッグ』や『インクレディブル・ハルク』のルイ・レテリエ監督作品。
パーシー・ジャクソン(現時点でわたくし的今年度ワースト作品)の例があったので、実はちょっと及び腰で観てしまったのですが、やー、面白かったぁ☆ レテリエ監督、ありがとう☆
神々と人間が共存していた時代。しかしその蜜月の時は終わりを告げ、神々の横暴に堪忍袋の緒を切らした人間たちは、反旗を翻し始めた。そんな中、アルゴス王妃カシオペアの暴言が冥界を統べるハデスの怒りに触れ、日食までに王女アンドロメダを生け贄に捧げなければ、国を滅ぼすとの宣告を受ける。ハデスに育ての両親と妹を殺され、復讐を胸に誓う至高神ゼウスの息子・ペルセウスは、神である立場をとらず、あくまで一個の人間として、ハデスの最終兵器、クラーケンを退治すべく、アルゴスの兵士らと共に旅立つのだった。
神話そのものとはかなり変更されていますが、堂々たる王道ストーリー。これはこれで大いにオッケーであると思われます。
中でも何が一番いいって、ゼウスにリーアム・ニーソン、ハデスにレイフ・ファインズ、という名優ふたりを配したキャスティングでしょう。要のポジションに重鎮を配したことにより、CG満載のアクションアドベンチャーに、しっかりした骨格と説得力と重みを与えることに成功していると思います。名優は伊達に名優にあらず。
そしてもちろん、主人公ペルセウスを演じたサム・ワーシントンがチャーミングですよね(笑)。そんなに華やかなスターオーラをまとっているようにも思えない、というか、むしろ朴訥な感じすらするのに、やっぱりなにか、大作に抜擢されても埋没しないだけの華がある。アクションシーンも、驚異的な身体能力を感じさせるようなシークエンスがあったわけではないけど、全体的に小気味よくこなしてきちんと絵になる。映画スターにとって、「きちんと絵になる」というのはとても大事なことだと思う(どんなに美男美女でも、必ずしもスクリーンで絵になるとは限らないのは不思議なことです)。
ついでにもっと役者さんについて言えば、なんと言ってもペルセウスの「旅の仲間」ドラゴを演じたマッツ・ミケルセンでしょう。渋い歴戦の勇士を演じてとってもカッコイイ(>_<)! 残念なことにこの映画、ペルセウスのパーティの描写がいまいち粗くて、個々のキャラクターが立っていなかったのですが(そこが最大の欠点かもしれない)、ドラゴだけは別格でした。
あとはやっぱり、ヴィンセント・リーガンですね。『トロイ』『300』に続き、三度目のギリシャものにお目見え。ギリシャもの作るならリーガンを出せ、という不文律でもあるのでしょうか。
さてさて、ゼウスにリーアム・ニーソン、ハデスにレイフ・ファインズ、というキャスティングが勝利の要因、と書いたことについて、もう少し詳しく。
神VS人類、という図式ながら、人間と「愛」で繋がろうとしたゼウスに対し、「恐怖」で支配しようとしたハデスは、自ずと立ち位置が異なり、本質的な意味での悪役はハデスです。
そして、悪役がショボイと映画全体がショボクなるというのは、もはや定説というより法則。映画の品格を保ちたければ、存在感のある悪役は欠かせません。その点、レイフ・ファインズ、敵にとって不足なし。登場シーンの派手派手しいCGも独創的で楽しいけれど、なんといっても目で圧倒する演技力。主人公の(そして観客の)敗北感を煽る「勝てなさぶり」も、憎憎しさも、とにかく説得力たっぷりです。
だけどやっぱり、リーアム・ニーソンの繊細な演技がいい。
思うにギリシャ神話の神々と人間との関係性の醍醐味というのは、神に望まれた人間が、にべもなく「イヤ」と言ってのけるところにあると思う(笑)。
神ですよ? 神さまですよ? 人類をお創りたもうたお方ですよ? その神さまが、そなたのことが気にいった、伽をせよ、と仰せであれば、普通(普通ぢゃないって)、ありがたき幸せ、って言いません?
ところがギリシャ人と神々との関わり方は、あくまで対等に近いのです。神だろうが造物主だろうが、イヤと思えば絶対にイヤ。断崖の果てまで逃げまくる。だからこそ、神に叛旗を翻すという、一神教の世界のひとなら卒倒するような暴挙も、ギリシャ神話の世界でなら自然な感情として納得できるわけです。その辺りの描写も、なかなかうまい映画であったと思うのです。
そして、そんな「ナマイキな」人類の所業に、一向にめげることのないゼウスというキャラクターが面白すぎる。凹むどころか、全く懲りず、ただひたすら勝気な嫁にばれないよう画策するばかり。これを「人間的」と言わずしてなにを人間的と言うのでしょう。
気に入った人間には手当たり次第手をつけて、次から次に子ども生ませる、ヘラ嫁の視線は気になるものの、生まれた子どもは父親として愛し、にもかかわらず、また次の美女に手を出してしまう。
「現代」の倫理道徳観とは相容れない「ヤンチャな」神さまですが、ギリシャ神話の時代には、かれの所業を否とする閉塞的な空気とはちがった、別の価値観もあったのでしょう。それを実感として理解できないのは寂しいことだと思うのですが、とにかくゼウスという親父は(神さまだってば)面白い。
その面白いキャラクターを、ニーソンはほんとに面白く演じていらっさる。本気を出せば、人類がふりあげる蟷螂の斧ぐらいじゃびくともしない圧倒的な力を持ちながら、人間どもがちゃんと敬ってくれなくなったと黄昏るわ、おでかけするときはワシに化けるわ(白鳥とかにも化けるけれども)、ハデスの主戦論には逆らえないくせに、反抗期の(違)息子が気になって、こっそり差し入れしちゃうわ、もう、ほんと、これぞまことのゼウスだわ、と思ってしまうのであります。
CGもとっても楽しいですよ。大サソリもクラーケンもペガサスも、クリーチャー系がみんな楽しい上に、カロンのデザインもとんがってて最高でした。だけどやっぱり出色だったのはメデューサ。映像的デザインもいいんだけど、メデューサと闘う前に、まずメデューサが実は悲劇の女性である、という解説をはさみ、それを前提に見れば、彼女が時折見せる表情は、この者が単なるモンスター(っていうか、ビーストって言ってましたね)ではない、という切なさすら感じさせてすばらしかったです。メデューサ、ほんと、綺麗だった。
by shirakian
| 2010-05-18 22:56
| 映画た行